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08 01
2013

書評 小説

苦痛でした―鏡のなかの鏡 ミヒャエル・エンデ

4006020317鏡のなかの鏡―迷宮 (岩波現代文庫)
ミヒャエル・エンデ Michael Ende
岩波書店 2001-01-16

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 エンデは『モモ』を読みたかったのだが、岩波少年文庫をなかなか見つけられず、この本を読んでみたが、ワケのわからない短編ばかりつづき、読みすすめるのが苦痛だった。

 『モモ』は映画を見たことはあるのだが、「時間どろぼう」という効率化をすすめる社会に警鐘を鳴らしたわかりやすい物語だね。エンデの言葉で読んでみたかったのだが、代わりに読んだ『鏡のなかの鏡』はあまりにも象徴や暗喩が読み込めなかった。

 エンデの代表作ともいわれるが、フシギでワケのわからない連作集でも苦痛にならなければ、読めるかもね。

 エンデはお金にもついて問い、「老いるお金」というゲゼルの思想をとりあげていたね。不況のときみんながサイフを閉めるからますます景気が悪くなるが、お金の価値がどんどん下がってゆくのなら早く使おうとするだろう。自然のなかで老いないものなんて、お金以外あるだろうか。

 エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」 河邑 厚徳 グループ現代

▼「お金だけはどうして無限で、不滅なのか」 「エンデの遺言」 NHK



モモ (岩波少年文庫(127))エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと (講談社プラスアルファ文庫)ものがたりの余白 エンデが最後に話したこと (岩波現代文庫)自由の牢獄 (岩波現代文庫)はてしない物語 (上) (岩波少年文庫 (501))

07 27
2013

書評 小説

生活の維持としての労働とパワハラ―ポトスライムの舟 津村 記久子

4062769298ポトスライムの舟 (講談社文庫)
津村 記久子
講談社 2011-04-15

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 津村記久子はワーキングプアや非正規雇用をえがいたということで気になっていたので読んだ。

 二編の短編がおさめられていて、表題作の芥川賞受賞作は「なんだかなあ」という気がしたのだが、もう一編の『十二月の窓辺』はパワハラをあつかっていて、こっちのほうが読ませた。

 『ポトスライムの舟』は労働して生活を維持しなければならないわたしという存在にとまどっているさまがえがかれている。

「…生きているということに吐き気がしてくる。食べ物や電気やガスなどのエネルギーを細々と買い、なんとか生き長らえているという自分の生の頼りなさに。それを続けなければならないということに」



 主人公ナガセは時給800円のパートから手取り十三万八千円の契約社員に四年間で昇格した工場勤務者である。乳液のキャップを閉めて、ひっくりかえしてたしかめるラインの作業をひたすたくりかえす仕事をしている。

「自分が人ではなく、ラインだったらよかったのに、と思う」



 ほんと労働していたら自分が感情や欲求をもった人間ではなくて、機械だったらよかったのにねと思う。

「自転車のライトは、前輪が回転する力だけで点灯しているからすごいな、わたしもそのぐらいの燃費になれないもんか」



「暗い夜には電気をつけ、暑い夜には冷房を、寒い冬にはこたつや石油ストーブを動かせるだけの生活を維持するために。
維持して、それからどうなるんやろうなあ。わたしなんかが生活を維持して」




 生きることに労働が必要であるという自分の存在の疑問がたんたんとえがかれた物語であり、なんらかの解決やカタルシスがえられる物語ではないだろう。

 なんで芥川賞?という作品なのだが、旧世代には働くこと、お金を稼ぐことになんの疑問もいだかずに働くことが日が昇るようにあたりまえのことだと見なしている向きがあり、こういう疑問が「新しい」と思えてしまうのだろうか。

 競艇などの賭け事が好きなとあるおっさんは電気代ガス代がもったいないと、あえて家をもたない暮らしをしている人もいると聞いたことがある。ヘンリー・ソーローの『森の生活』まであと一歩だね。


 『十二月の窓辺』はパワハラに悩まされる女性の一進一歩をえがいており、こちらのほうが前作より読ませる。罵倒してくるV係長というのが女で、女社会の闇や性悪を見せるね。

「すみませんじゃないわよ!

すみません以外になんか言うことあんじゃないのっ?

やめればいいのに。ねえ、やめれば? やめるべきよ、やめれば?」



 問題がおさまると、「変な気起こすんじゃないわよ。あの程度のことで、そんなになってんじゃないわよ」

 ミスや失敗にヒステリックに怒鳴る人は余裕がなくて、自分も怖くて仕方がないから、必死に感情的に怖さをガードしているのだとわたしは思う。ミスや失敗くらいフォローできなくて、冷静に対処できないのは、自分の力不足と余裕がないからである。あわれんでみてやって、自分が冷静に対処の方法を身につければいいことだ。

 でもやめる辞意を固まると、こう変わる。「あんた自分がなにをしようとしてんのかわかってんの、これから忙しくなるのに、あんたは人非人だ、難破しそうな船を見捨てるクソ女だ、と連日のようにわめきたてた」

 もう猿だね。感情的な反応しかできなくて、でも会社という力関係のうえでは上の者をたしなめるということができないのだろうね。男だったらもうちょっと理性的で冷静な対処ができたかもしれないと思うのだけどね。こういう人には「恐れ入ります」という脅えた顔をするのではなくて、「憐れんで」やることが効くのかもしれない。

 わたしなんかいやなことが積み重なるとすぐやめるクセが板についているのだが(笑)、終身雇用を前提に考えている人は「会社をやめる」ということにものすごく重い選択の苦渋をせまられるようで、この作品はその「やめるという選択肢」を見出すまでの物語である。

 「やめるという選択肢」をもたない人たちにはこういう上役のものたちの言葉が頭に拘束されているのだろうね。

「部長は、Vと同じように、ここで起こったことはほかのところでも起こるだろう、君が変わらない限りは、と脅してきた」



「でもあんたなんか、よそじゃ絶対やってけないでしょうね。絶対」



 基本的にひとつの職場での問題はその職場特有の問題で、ここをやめればその問題に拘束されていた重責はあっという間に消滅する。存在すらしなくなる解放感がある。

 ほかの職場でも同じ問題にぶちあたるかというと、基本的にはそういう構造が存在するだろうが、それぞれの職場での問題はまったくべつのものになる可能性があると思う。

 人間の職場ってその職場を構成する人間の性質や運によってまったく変わってしまうのであり、いまの職場とほかの職場が型を押したように同じであるわけがない。会社は星の数のようにあり、人も星の数のようにあり、その問題も星の数のようにある。ひとつの職場でおこったことがほかの職場でもおこるとはいえない。

 それよりいまの環境から逃げること、解消させることが大事かもしれないね。逃げるという選択肢がない時代ではないし、逃げることは基本的な人間の欲求として許容されてもぜんぜんいいんじゃないのか。過労死やうつ病まで追い込まれる状況を考えれば、よほど人間的で常識的であると思えるのだけどね。

 なんだかほかの職場に変わるという選択肢がまったくない社会主義の時代を生きているという人がたくさんいるのかもね。終身設計の人生にがしがしに縛られているのだろうね。いまの生活レベル、継続的な生活維持という目的が、「あたりまえ」のものとして人を縛りすぎているのかもしれないね。そういうのをなんらかのアクシデントで失ってしまったと考えれば、いくらでも逃げる人生も可能なんだけどね。


「世逃げ」のすすめ (集英社新書 435C)森の生活 (講談社学術文庫)ダメをみがく: “女子”の呪いを解く方法ワーカーズ・ダイジェストカソウスキの行方 (講談社文庫)

07 24
2013

書評 小説

わからん本だった―『小説はいかに書かれたか』 篠田 浩一郎

B000J7NVZK小説はいかに書かれたか―『破戒』から『死霊』まで (1982年) (岩波新書)
篠田 浩一郎
岩波書店 1982-05-20

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 82年に出された岩波新書の黄版。

 それぞれの章に『破戒』と『明暗』、『暗夜行路』と『或る女』、『海に生くる人々』と『上海』、『真空地帯』と『死霊』がならべられて論じられている。どういう内容、意図で読み比べたのか、わたしには読み解けなかった。

 これらの近代の名作を読んだことがないので評論から内容や興味をひきだせるかなと思ったけど、しょうしょうむづかしいところがあったり、興味をひきだされるところもないまま読み終わった本だった。

 なにをいっているかわからないというよりか、なにをいおうとしているかわからなかったといったほうが近いかな。

 ちょっとこっけいな文章があったので引用。

「社会主義と機械の発達とを結びつけることによって生じる余暇を学芸の研究にあてることによって人類は将来経済的なばかりでなく知的平等を実現し、究極的には人類そのものが神となるという思想を展開している」



 19世紀後半のルナンという哲学者はこんなおめでたいことをいっていたのだね。学芸研究のはてが神。。 学芸研究のはては「オタク」の趣味に終わるだけとわたしは思うんだけどね(笑)。


小説の解剖学 (ちくま文庫)「少女小説」ワンダーランド―明治から平成まで女の子を殺さないために 解読「濃縮還元100パーセントの恋愛小説」小説論 読まれなくなった小説のために (朝日文庫 か 30-3)エンタメ小説進化論 “今”が読める作品案内


07 21
2013

書評 小説

イノベーション待ち―『短篇小説講義』 筒井 康隆

51b+NtO--zL__SL500_AA300_.jpg短篇小説講義 (岩波新書)
筒井 康隆
岩波書店 1990-06-20

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「短編小説というのは、よくできましたといって三重丸をつけてやりたくなるようなものがやたらに多いので困ってしまう」 田辺聖子



 模範的な短編小説があると思われているようだね。それに対して筒井康隆は「何を、どのように書いてもいい自由な文学形式」と批判する。

「彼(カルチュア・センターの講師)はただ、何か今までにない新しいものを書けと言うだけでは何も教えたことにならないので、しかたなく従来の短編小説作法を教えているだけなのだ」



 筒井康隆はこの本の中でそのカルチャーセンターの講師よろしく短編小説の講義をする。ディケンズ、ホフマン、ビアス、トウェイン、ゴーリキー、マン、モームといった面々の短編。

その時代を表現する最も新しい小説を生み出すためには、まずそれまで書かれた小説や同時代の小説をいやというほどたくさん読み、それに飽きあきしなければならない」



 飽きあきというのがポイントで、なにも知らなければよいというわけではない。小説ってイノベーション待ちで、それは既知の中から生まれるのか、それとも未知ゆえに生まれるものか。


 筒井康隆はサマセット・モームを「なんとなく教養主義的な雰囲気を持つ作家で、作品は格調の高い文章で書かれていて、内容も高尚で難解であったという印象を持っている」というのだが、わたしはモームは通俗作家だといわれているとばかり思っていた。

 モームはどこからでもはじまり、消えるように終ってしまうチェホフ流の流行に飽き飽きしていたようだね。事件が出てくるのを怖れる傾向があり、なにも事がおこらない退屈な話の洪水である。モームはだから「ねらい」とか「おち」を怖れず、ストーリー満載の飽きない物語を書こうとしたのだろうね。それがこんにちの通俗作家という評価になっているのだろうね。


 初期のトーマス・マンのテーマが「芸術対人生」、「芸術家対市民」、「凡俗の人とアウトサイダー」といわれているけど、これはヘルマン・ヘッセでもサマセット・モームのテーマでもとりあげられていたね。いわば「レールの人生」と「それをふみはずす人生」の対比だろうね。わたしは文学や思想に「ふみはずす人生」の慰めと正当化を求めてきたような気がするね。



 筒井康隆は詩や小説になれしたしんでしまうと社会経験皆無でも人生がわかってしまったような気がするようになってしまうといっているのだけど、そんなことあるのかな。それで恋愛に過大な期待をいだいて現実の幻滅したりするといっている。わかったような気になるもの?

 小説は社会体験がなくても想像で書けるものかと言及しているのだが、観念的な小説になるきらいがあると断わった上で、こういっている。

「大学生時代に処女作を書いて文壇に登場したひとが多い事実は、小説が決して豊富な社会体験、年季の入った技巧、長い年月の思索などによるものだけでないことを示している。

現実から虚構を生む想像力といったものは、いかに周囲が教育しようが本人が努力しようが若いうちはどうにもならない場合がほとんどだから、やはり「才能」「天才」という以外にないのだ」



 小説ではないのだけど、戦後のサラリーマン漫画の代表だった東海林さだおは本人はサラリーマン経験がぜんぜんないという経歴を思い出したね。人はナマの体験談から出るものより、ステレオタイプ的な見方のほうを採用しやすいのかもしれないね。

 想像や構想によってわかると思える人と、体験したり経験したことでないとわからないと思う人。小説は想像が現実を凌駕すると信じられている人に書かれるのだろうね。


▼ふみはずす人生といえば
車輪の下 (集英社文庫)月と六ペンス (新潮文庫)荒野のおおかみ (新潮文庫)オン・ザ・ロード (河出文庫)アウトサイダー(上) (中公文庫)


07 18
2013

書評 小説

「これが人生というものか」―『短編小説礼讃』 阿部 昭

4004203473短編小説礼讃 (岩波新書 黄版 347)
阿部 昭
岩波書店 1986-08-20

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 86年に岩波新書から出されてベストセラーとなり、二、三年は短編小説について論じることがブームとなったと筒井康隆がいっている本である。阿部昭は作家らしいのだが、わたしはほとんど知らない。

 読むのに間があいてしまったためか、後半からのマンスフィールドの章「これが人生というものか」の内容がけっこう印象にのこったかな。

「「理想や思想が欠けている」とか「問題を扱っていない」とか苦情を持ち込まれたチェーホフが、それに対して作家の仕事は問題を解決することではない、この人生をただあるがままに描くことだ、と答えたことはよく知られている。

彼は、物を書く人間はこの世のことはなにひとつわからないと正直に白状したほうがいい、とも言っている。晩年のルナールも、「人生というもの、それがますます私にはわからない、そしてますます好きになる」と『日記』に書いている」



 小説って人生について書いていたんだね。学問はわかること、解決するために書かれたり、わかっていることが教えられるわけだけど、小説家はその役割を投げ捨てるわけね。ある意味、人生なんかわかった人なんか思い込みの宗教家しかいないだろうね。仏教の悟りも人生ではなくて、認識のあり方に悟ることなんじゃないかと思うけどね。

「物語が『筋たっぷり』であればあるほど有り難いなんて言うんですよ。どうです、その言い方! 私は髪が総毛立つ思いがしました。素敵な『筋たっぷり』の小説をどうぞ、ですって。世間ってほんとにおかしなものです」



 マンスフィールドの嘆きだけど、チェーホフもおなじように考えていたようだ。

「われわれはどういう問題を引き出すのでもない。われわれも「これが人生というものか」とつぶやくだけである」



「チェ-ホフやマンスフィールドがあんなに繰り返した「人生」はどこに行ってしまったのか。いつから小説の人物たちは「人生」を口にしなくなったのか」



 小説って人生を問うていたのかというか、人生とはなにかと人生を素材のままに放り込んでいたから、問題を限定しがたい題材をあつかっているように見えるのだろうね。

*

 この本全体で論じられていたことはとうていつかめなかったので、気になった文章だけ書き残す。

「本というものがわれわれの人生に深い感化を及ぼすのは、おそらく幼年時代だけである」 グレアム・グリーン



「人生は、この上もなく多種多様な、突発的な、相反した、ちぐはぐなものばかりで出来ている。残忍で、支離滅裂で、脈絡がない。説明不能の、非論理的な、矛盾だらけの、三面記事に組み込まれる異常事に満ちている」 モーパッサン



「あたしがあの子にしてやったことを、今度は向こうがあたしにしてくれてもいいのに…… ああ! 母親なんて哀れなものだ! 何もかもあげて、一つも返してもらえない。いつも相手にしてもらえない愛人みたい」 ドーデ『アルルの女』



「一人の女を、自分の女房を知るにはな、にんじん、何年もかかるんだ。で、それがわかった時はもはや手遅れなんだ」 ルナール『にんじん』




「生きて行くことは「いやになってしまった活動写真を、おしまいまで見ている勇気」」 太宰治




「男でも女でも文学に魅入られた人間は、余人には理解されないような大きな代償を払わされる。まずは人並みの安楽も幸福もいっさい断念するところから出発する他はない」




若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)とっておき名短篇 (ちくま文庫)名短篇ほりだしもの (ちくま文庫)短編小説のアメリカ 52講 こんなにおもしろいアメリカン・ショート・ストーリーズ秘史 (平凡社ライブラリー)SUDDEN FICTION―超短編小説70 (文春文庫)

07 10
2013

書評 小説

可もなく不可もなく―『ワーキングガール・ウォーズ』 柴田 よしき

410139623Xワーキングガール・ウォーズ (新潮文庫)
柴田 よしき
新潮社 2007-03-28

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 働く女性のリアルなすがたがうつしだされた小説かな。柴田よしきという作家をためし読み。

 37歳の一流総合音楽企業に働く女性が主人公。職場にうずまく悪意やいやがらせが主な主題で、ストレス発散に一週間の休みをとってオーストラリアのケインズにペリカンを見にいく。

 ネットで知り合った旅行会社のOL27歳ももうひとりの主役として、彼女の目からも仕事や旅行会社のことなど語られる。女性は仕事につかれたら海外留学とか海外脱出を夢見たりするから、現実の釘を刺すためにこの現地採用なみの契約社員である彼女を登場させたのかな。

 職場でのいやがらせや悪意は(ネタバレ反転ね)自作自演の一例があったりした。もうひとつは職場に出入りする生保レディの一流会社への嫉妬やつめたくあしらわれることのいがみであったかもしれないという結末。

 可もなく不可もなくという小説かな。いちおうここに出てくる女性は一流会社、旅行会社につとめる女性一般の憧れの人たちということになるのかな。そういう女性たちでも職場での悪意やいやがらせに出会い、旅行会社の女性も待遇もいいわけではない。まあどんな仕事でもそれなりにつらいという話かな。

 オーストラリア人の労働観がなかなかよかったね。

「オーストラリア人はもともと上昇志向と縁遠く、お金を稼ぐことを人生の目標と考えない人が多い。何しろ、転職経験が多い人、腰の落ち着かない人ほど豊富な体験をしていると珍重し、老後は夫婦でキャンピングカーに乗って死ぬまで放浪して歩くことも珍しくない、という、労働より休暇、財産より時間を重んじるお国柄」



 ところ変われば、常識も憧れも違う。日本もこういうホンネで生きられたらいいのにね。日本は会社や仕事がいちばんたいせつといったクソつまらない価値観に固まってしまったのはどうしてなんだろうね。


▼等身大の働く女性たち?
やってられない月曜日 (新潮文庫)ガール (講談社文庫)勝手にふるえてろ (文春文庫)天国はまだ遠く (新潮文庫)ワーカーズ・ダイジェスト


07 09
2013

書評 小説

さっぱりわからない―『月山・鳥海山』 森 敦

4167223015月山・鳥海山 (文春文庫 も 2-1)
森 敦
文藝春秋 1979-10

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 どうやら中島敦の『山月記』と勘違いして買ってしまったようだ。尊大な自尊心とかのテーマを読んでみたかった。

 『月山』のほうはさっぱりわからなかった。出羽三山の月山での暮らしをたんたんとつづっているのだが、なにをいっているのか、なんのために記述しているのか、皆目見当がつかない。

 『天上の眺め』という短編が紀伊半島の北山川の話なので、読んでみてもさっぱり。もうとちゅうで読むのをやめたね。さいごまで読まない本はひさしぶりになるね。

 『月山』は昭和49年に芥川賞を受賞しているね。わたしにはこの味わいを感じとることはできなかったということで。


▼中島敦『山月記』は青空文庫で読めるね。こんなに短いの?

B009IXHUOY山月記
中島 敦
2012-09-27

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4003114515山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)
中島 敦
岩波書店 1994-07-18

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07 03
2013

書評 小説

性的な慰めと堕落―『ララピポ』 奥田 英朗

ララピポ (幻冬舎文庫)
幻冬舎 (2012-09-12)
売り上げランキング: 2,446


 「下流文学の白眉」という解説につられて読んだが、下流文学というよりか、性的なことに救いと慰めをもとめた人たちの醜悪さや破滅が、赤裸々に描かれたどうしようもないお下劣な本w

 6人の主役の連作短編集なのだが、それぞれ外側に見えていた人たちの内面が連作で見えるようになっていて、ここは鮮やかでおもしろいね。島村洋子の『こんなにもひとりぽっち』という連作短編集もおなじようなつくりになっていたけど、見かけと内面の違いはおもしろいね。

 売れないライター、風俗のスカウトマン、AV出演の主婦、カラオケボックス店員、官能小説家、テープリライターの女性のそれぞれ6人が主役になるが、内容はすべて仮借なき性描写のオンパレード。性だけにのめりこんでゆく人たちの醜悪さ、堕落とその転落が描かれてゆく。なんでこんな赤裸々な性描写を書かなければならなかったのだろうね。

「世の中には成功体験のない人間がいる。何かを達成したこともなければ、人から羨まれたこともない。才能はなく、容姿に恵まれず、自慢できることは何もない。それでも、人生は続く。この不公平に、みんなはどうやって耐えているのだろう」



 といったことがテーマなようだね。『ララピポ』というタイトルは「a lot of peaple」という「その他大勢の人たち」の早口で聞こえた言葉。こういう人たちが性的なことだけに慰めと快楽を見出していった先に破滅と堕落が待っているといったような内容。

 これを読んで「こんなふうに墜ちないようにしよう」と思うことができるのかな。ということは主人公たちに不快感や嫌悪感をいだけば成功ということで、この本の効用は「反面教師」だね、性的な堕落に落ちないための。

 この作品には自分は「そういう人間ではない」という認識が思い切り否定されるライターのすがたが冒頭におかれるように、「自分はそういう境遇の人間」であることの受容がメッセージされているのかもしれないね。

 「下流文学」というならもうすこし非正規雇用の閉塞感のような描写が必要だろうね。

 ちなみにこの小説は映画化されているのだが、露骨で赤裸々な性描写をどのように映画にうつしかえたのか、しょうしょう興味がある。感想は後日。

              *



 映画のほうを見た。エピソードがかなり短縮されていて、映画で見る人はなにがなんだかわからないだろうね。「みんなのシネマビュー」では評点3.60点。まれにみる低得点だけど、不快感や嫌悪感をいだかせたことは成功なんだろうね、この作品のばあい。

 でも下流から抜け出す希望を与えるには性的な堕落を描くことで、その境遇から逃れる発奮をえられるかというとそういうことはなくて、嫌悪は嫌悪でしかないだろうね。原作も成功したとはいえないかもしれないのによく映画化したと思うね。

 中村ゆりという女優がこういうヨゴレ役をやったのはすこしスキャンダル的かな。濱田マリの性描写はさすがに避けられていて、さいごの火事から夫を救い出したシーンの満足げな顔にはすごみがあったね。蛭子能収の官能小説家のエピソードはカットされていたね。


ララピポ [DVD]こんなにもひとりぽっち (角川文庫)空中ブランコ (文春文庫)最悪 (講談社文庫)マドンナ (講談社文庫)


06 30
2013

書評 小説

支離滅裂文学―『カンガルー・ノート』 安部 公房

4101121249カンガルー・ノート (新潮文庫)
安部 公房
新潮社 1995-01-30

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 ひどいね。まったく意味がわからない。なんの楽しみもない記述、ストーリーがつづいてゆくだけ。安部公房でなかったら、壁に投げつけていたかもね。

 ひざからかいわれ大根がはえてくる設定だけはユーモラス。あとは病院のベッドで温泉につれてゆかれるはずが賽の河原までたどりついたり、死にかけの老人を安楽死させたり。かなり現実的な書き方だったから夢の記述かもしれないという認識にはなかなかたどりつかなかった。ところどころ性欲の話も出てきて、エロスとタナトスをにおわせているのかな。

 まあ解釈も深読みもするまえにもう放擲したい作品だな。

 安部公房は『砂の女』が好きである。砂の穴に女と閉じこめられて、好きな昆虫採集もできないという暗喩はひじょうにATMとしての男をうきぼりにしているね。フランスの片田舎の書店にもあったという話を聞いたことがあるが、納得の普遍性。

 あと『壁』とか『人間そっくり』とか『箱男』、『他人の顔』、『方舟さくら丸』とかけっこう読んだのかな。意味がわかったのか、解釈できたのかもういまでもよく覚えていない。

 こういう寓話とか暗喩にまとめた幻想的な文学は好きである。だけどなんらかの意図や暗喩が読みこめないと、まったくよい読後体験にはならないね。終わり。


砂の女 (新潮文庫)箱男 (新潮文庫)他人の顔 (新潮文庫)壁 (新潮文庫)人間そっくり (新潮文庫)

安部公房とはだれか安部公房伝安部公房 (新潮日本文学アルバム)安部公房の都市発想の周辺―安部公房対談集 (1974年)


06 29
2013

書評 小説

影とはなにか―『影をなくした男』 シャミッソー

4003241711影をなくした男 (岩波文庫)
シャミッソー Adelbert von Chamisso
岩波書店 1985-03-18

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 イタロ・カルヴィーノ風の寓話は好きだなあ。『木のぼり男爵』とか『まっぷたつの子爵』とか。といっても『影をなくした男』は1814年の本だから、ぎゃくなんだけどね。

 影とはなにか。この小説のなかでは影がなにを意味するのかさっぱり読みとれなかった。影の代わりに金のいくらでも出てくる幸福の袋と交換するのだけど、影がないことに人から怖れられて恋にも敗れるし。影がないことに人はそんなに気づいたり、こだわったりするものかと思ったけど。

 解説によると作者はフランス生まれだけど、ドイツ人化してしまった祖国喪失が象徴されているとされるが、作品にはまるでそんな手がかりは出てこなかったように思えるのだけど。

 ふつう金と影を交換したなら、金のために身を売った男になるね。ユングや河合隼雄によると、期待や評価のために「いつわりの仮面」をかむることによって、「ほんとうの自分」をうしなってしまうことが「影の部分」とよばれる。

 ブログの解釈を読むと人はいろいろ賢明な解釈をほどこしているようなのだけど、影という「人があたりまえにもっているもの」を失うことの悲劇が描かれているともいわれているね。

 後半になると影と金をうしなった主人公は失意の旅をつづけるが、魔法の靴を手に入れて世界中を股にかけて植物学とかに邁進することになる。金の幸福ではなくて、自分にとってのほんとうに必要なもの、ほしかったものを手に入れたことになるね。

 「影をなくした男」というのは、「ほんとうの自分を見失った」男の物語として読んでいいのかな。

 寓話というのは現実にありえない空想物語をたんのうさせてくれるし、なんらかの意味の凝縮化・単純化をへたうえでの警告をおしえてれるね。そこがいいのかもね。


木のぼり男爵 (白水Uブックス)まっぷたつの子爵 (ベスト版 文学のおくりもの)影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)寓話セラピー―目からウロコの51話影の現象学 (講談社学術文庫)

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うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

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