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05 18
2008

人生論

『人生の短さについて 他二篇』 セネカ


人生の短さについて 他二篇 (岩波文庫)
セネカ Lucius Annaeus Seneca

人生の短さについて 他二篇 (岩波文庫)


 私も40歳になり、人生のあっという間の早さや短さについて思い知らされる年齢になったので(「二十年もたったなんて信じられない」)、人生の短さについて書いたセネカの本が岩波文庫にあったと思い出し、古代ローマ時代のセネカの著を読む。 

 まあ、ほぼ感銘はない。心にしみこむ言葉もなかったし、インパクトのある文章もなかった。していえば『人生の短さについて』より、『心の平静について』のほうがよかった。翻訳は読みにくいし、意味も通りにくいところもあるのだが、まあ古代ローマ人の感覚を現代語に移すのはやはり難渋するものなのだろう。

 私の好みとしてはマルクス・アウレーリウスの『自省録』のほうが好みである。ストア哲学の心の平静についてのエッセンスが書かれているし、哲人王とよばれた人の朝起きたくない愚痴などが書かれていて好感がもてるのである。なによりこれは仏教の瞑想とひじょうに似ており、二千年前にヨーロッパとインドは思想的共鳴や同時代性を生きていたのかと驚くのである。いや、仏陀は紀元前4.5世紀に生きた人なので、インドの影響下にあったわけである。

 セネカは二千年前の前4年ころから西暦65年ころまで生きたとされる。ネロの家庭教師となり、自殺を命じられている。二千年前の著作が読めるとはすごいことであり、この二千年の間に多くの人が生まれ、死んでいき、多くの人の思いや考えはこの世に残ることはなかった。そのような時代をへて著作が残るということはすごいことだと思う。書籍という形態は、人間のメディアとしてはこれだけの長さを保つことができるのである。

 今日、古代ローマや古代ギリシャの悲劇や哲学書を手に入れることができるのだが、ヨーロッパは近代になって勃興した土地なので、この古代ローマ時代はヨーロッパ人の偉大さや伝統性を正当化するためにピックアップされた時代なのであろう。ヨーロッパは長く中国やイスラムにとっての後進国、周縁の国にすぎなかった。だからこの古代ローマ時代、あるいはルネサンス時代は近代の「偉大な」ヨーロッパを正当化づけるために、その偉大な起源がたたえられなければならないのである。優越性の根拠である。ヨーロッパのイデオロギーにだまされず、中立性のもった視野をもちたいものである。

 この本に納められた三篇から感銘した分を抜き出しておく。

 大官服をすでに何度も着た人を見ても、大広間で名声を高めている人を見ても、そんなとき君は羨んではいけない。高官や名声は、人生を犠牲にして獲得されるのだ。

 或る者は幾千の不名誉を重ねて最高の名誉によじ登ると、ふと、自分は今まで墓碑銘のために苦労してきたのか、という惨めな思いに襲われた。



 財産を持たないほうが、失うよりもどれほど苦痛が軽いか。貧乏には失う原因が少ないだけ、それだけ苦悩も少ないことを知らなければならぬ。



 災いを厭うべきものとするよりは、むしろ軽いように心掛ければ、どんな種類の生活のなかにも、楽しみも慰めも喜びも見付けられるだろう。



 賢者はまた、運命を恐れる理由をもっていない。なぜというに、賢者は自分の奴隷や財産や地位のみならず、自分の体や眼や手や、およそ人間に生活を愛着させるものはなんでも、いや、自分自身をも、すべては許されて仮に与えられたもののうちに数えているからであり、自分は自分に貸し与えられたものであり、返してくれと求められれば、嘆き悲しむことなくお返しする、というように生活しているからである。それゆえにまた、賢者は自分を無価値なものとは思わず――というのは自分は自分のものではないことを知っているから――



 われわれに課せられている務めは、死すべき運命に堪え、われわれの力では避けられない出来事に、心を乱されないことに他ならない




マルクス・アウレリウス「自省録」 (講談社学術文庫) 森の生活〈上〉ウォールデン (岩波文庫) 自省録 (岩波文庫) フランクリン自伝 (岩波文庫) 普及版 モリー先生との火曜日
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Comment

うえしんさんの言うように僕もあまり感銘はうけませんでした。
こういった傾向の本では先日ハイデカーの「存在と時間」のほうが哲学的で、良かったですね。またキルケゴールの「死に至る病」なども憂鬱になりそうですがまた感銘もするようです。
うえしんさんの専門分野かと思いますがニーチェの「悲劇の誕生」も古代ローマや古代ギリシャの悲劇や哲学など当時の精神性の本質が伺えられて面白いですね。
人生が長いか短いかは自分の心掛けしだいだというオチは最もスタンダードすぎる、って感じです。中国の「邯鄲の夢」などのほうが的を得てるような気がします。
僕は早く年齢を取りたいと思っています。はやく30歳になり40歳になった自分を見てみたいといつも思っています。無事生きれたら、ですが・・・。
正直、人生、長くて退屈です。20歳くらいで自殺した人に憧れていたほどですから、でも今は退屈ながら何とか楽しみも出来て、少し楽しくなりました。
池田晶子さんが言われるようにやはり人生は暇つぶしでしかないのかもしれません。

雨宮さん、こんにちは。

たぶん人生の短さのような本は現代的な自己啓発書のほうがよかったのかもしれません。
私は時間の飛び去る速さを嘆いて、もっと時間を大切にする方法はないのかといったあたりを探りたいと思ったのですが、そういう意味ではあまり参考になる本ではありませんでした。

ハイデッガーの『存在と時間』はほとんど意味がわかりませんでした(笑)。全巻読破しましたが、私は社会学でないと理解できないと自分の限界を悟りました(笑)。
キルケゴールの『死にいたる病』はきっかけをつかんでいないので未読なのですが、読んでみたいですね。
ニーチェは10冊ほどは読んでいるのですが、『悲劇の誕生』は未読です。ニーチェは私は認識の虚構性についての文章が好きで、警句もなかなか役にたのものですね。

年齢は心配しないでもあっという間に過ぎますよ。とくに20代を過ぎてしまったら、三十代はもっと早く感じられるんではないでしょうか。

人生とは手からこぼれ落ちる砂のように感じますし、浦島太郎のようにいつの間にかこんな年になっていたといつか感じられるものだと思います。
時間を大切にしたいと思うのですが、その大切な使い方が私にわかりません。セネカはそういうヒントを与えてくれませんでした。

私は人生は暇つぶしというより、高速のエスカレーターで運ばれている感じがします。後悔しないようにしっかりと人生を味わいたいものです。難しいですが。

ハイデカーは僕の何度もはじき返されました。「存在と時間」も難解な本だと思っていました。それが少しばかり理解の手掛かりが得られたのはダーウィンの進化論と人間の脳内の記憶認識の理解でした。
なぜ人間だけが記憶能力が生まれたのか、他の動物よりも脳が進化していったのかなどと考え、そして過ぎ去った時間はすべて脳内に保管されている記憶データによって構成されている、という観かたをするようになりました。
そうすると時間は実はこの瞬間にしか存在していない、過去はすべて威光の中にある実体のないものだと思えるようになり、少しばかり読破できたような気分になりました。
セネカのいう人生が短く感じるのは繰り返しの情報がある年齢から多くなり、時間空間を認識する刺激的な情報の減少から起こるのかもしれません。
高速のエレベータでも外の風景を見ることが出来たら少し長く感じることが出来るのかもしれません。

時間はこの瞬間にしかなく、過去は記憶という実体のないものであるという捉え方はひじょうに大切だと思います。

過去は実体のあるものとして存在しない。いまだって一瞬に過ぎ去ってゆく。すべては実体のないものです。

仏教ではこれを「空」とよんだわけですが、過去ばかりではなく、私の心も同じように「空」といえますね。

つまり心で悩んだり、苦しんだり、後悔したりすることはすべて「空」である、存在しないものであるということで、仏教は私たちの悩みや苦しみからの脱出法を説きました。

私たちが悩んだり、苦しんだりしているときは、それらを「実体あるもの」「リアルなもの」として強迫されているわけですが、それを「空」と知れば、悩みに追い立てられることはないですね。
時間への考察とはこのような心の悩みに効く方法をおしえてくれるわけですね。

脱線してしまいましたが、既知のものが増えてゆくと時間が過ぎ去るのは早く感じますね。
毎日が同じことの繰り返しなら、時間はあっという間ですね。

新しいことや未知なことに出会うことが時間を生き生きとさせる方法なのかも知れません。
私は本で未知の世界を読んだり、バイクで知らない土地に出かけたりすることが好きです。
新鮮さや未知のものでないとすぐ飽きてしまいます。

なんとか新鮮な時間を味わいつくそうとしているのでしょうね。
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