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05 10
2008

労働論・フリーター・ニート論

消費文化イデオロギーに脅かされる若者の労働



 内田樹がGREATな文章を書いている。消費文化の個性消費と若者の労働という現代社会にとって欠かせない重要な問いがふくまれている文章である。

 またインタビュー 2008/5/8 「内田樹の研究室」

 どうして子どもたちは学ぶことを拒むようになったのか、どうして若者たちは「クリエイティブな仕事」を求めて転職を重ねるようになったのかという、このところよく訊かれるお題である。
 それは「消費文化」のせいであるとお答えする。

 現在のメディアが「個性的な」という形容詞で記述している人間的行為の99%は「どんな商品を購入しているのか」という水準で語られる。

 「自分の個性」の発現を「商品購入行動」として観念していると、「まず金が要る」という結論にしか帰着しない。

 学びが機能しないのは、子どもたちが「学び」を「商品(知識、技能、学歴など)の購入」という消費のスキームでとらえているからである。
 労働のモチベーションが維持できないのは、若者たちが「労働」を「商品(昇給昇進、威信、権力、情報など)の購入」という消費のスキームでとらえているからである。



 金で個性や自分らしさを買えるという幻想はわれわれの時代の強固な信念、信仰といってもよいものである。われわれはあるブランドの服を買って、またあるアーティストの音楽を聴いて、また作家や映画の物語を視聴して、雑誌の流行に乗って、「自分らしさ」や私の「個性」がはくぐまれると考えている。

 私たちは「個性」や「自分らしさ」の狂気の時代に生きているといってよく、醒めた、流行から外れた目から眺めてみれば、金で個性や自分らしさが買えると思う信念ほどこっけいで、踊らされ、だまされた姿が垣間見えるものはない。「個性」消費ほどウソっぱなイデオロギーはない。

 金でなんか「人と違うワタシ」や「人より優れたワタシ」など買えない。買えるのは、売られている優れた「商品」なのであって、まちがっても人より優れた、人と違った「私」ではない。「私」が買えるわけなどないのだ。

 われわれの消費社会というのは買い物をすれば、人より優れた、人と違った私になれるという「記号」、「幻想」が売られる社会である。私たちはそのような買い物をすることによって、貨幣経済を回している。この社会の成員はそのようなカンチガイで衣服や音楽や商品を買いつづけてくれないと、お金は回らないというわけである。われわれの時代の貨幣流通の最強なイデオロギーなのである。

 私たちがどうしてこうも人より優れたり、人と違ってなければならないかというと、それがわれわれの時代の存在要請だからだろう。社会はそのような存在でないと、存在を許さない。価値がない、意味がない、存在している理由がないと強迫する。それは貨幣流通の最強のディフェンスなのだろう。社会の貨幣流通を助け、スムーズに流させる、その価値観やイデオロギーに貢献したものに社会は価値観と称賛をおく。貨幣流通の価値観が社会をのっとったのである。

 「かけがえのない私」や「代替不可能な私」を私たちはなろうとする。だれともでも同じで、見分けも、区別もできない人間になりたくないと思う。私は人と違った存在であり、人より優れたセンスのよい人間でなければならないと思う。そしてすこしえりの違った服を買い、新しい音楽を聴き、新しいショッピングセンターや流行りの店につめかける。だれとでも同じ人間にはなりたくないがために、私は金で人と違った、人より優れたものを買うことによって、それらの目印を手に入れるのである。結果的には人と同じものを買い、大量生産品を手に入れているとしても、あるいはある程度みんなが手に入れるヒット商品を買ったとしても、私は自分らしさや個性を満足させるのである。

 オンリーラブ・ロマンティックラブといった一途な恋愛も同じように、私自身に「かけがえのなさ」や「この人でなければならない」といった幻想を満足させるひとつの個性消費といってもよい。私たちはそのような「運命の人」幻想にひたることによって、私は人と違う存在である、みんなと同じどこにもでいる存在ではないという感覚を満足させるのである。

 私たちは大量生産時代の大量規格品の商業社会で生きている。そしてそのような大量生産品で「自分らしさ」や「個性」を買おうとして、大量生産品を買いつづけるのである。ほんの少しの差異、ほんのちょっとして違いが自分らしさであり、私の個性なのである。私たちはこのほんのささいな違いに命を賭け、命を削っているといってもいい。そのことによって私たちは自分の個性や自分らしさが表現できたと喜ぶのである。

 われわれはこのような方向に血まなこになっている。こっけいであり、気恥ずかしくもあり、差異の誇示が哀れさを誘う。もちろん私もそのような幻想にアイデンティティを求めてきたひとりの人間であるが、自分が労働社会に出て、死にそうなルーティーンワークのなかで自分の「個性神話」をうちのめされ、押しつぶされ、痛めつけられるのをたいそう味わわなければならなかった。

 仕事には個性や自分らしさなどちっとも満足させられないのである。内田樹がいっているように若者がクリエイティヴさを仕事に求めて転職を重ねる理由はおそらくここにあるのだろう。消費文化の幻想が個性や私らしさを追い求めつづけているのに、仕事に求められるのは注目も評価もない、私を殺した、私の無価値観を思い知らせる、ただの機械的な労働にしか過ぎないのである。いったら消費社会における落ちこぼれ、劣等生の陽の当たらない無価値さを、労働はいやというほど味わせるのである。個性や自分らしさ、輝きといった自分の属性は、労働や業務には不要なものである。そこで若者はクリエイティブな仕事に、なんとか自分の価値観や個性に望みをかけるのである。

 消費社会の価値イデオロギーが労働社会の価値観をしめ殺すのである。消費社会では個性や自分らしさを表現しないと価値がないと脅されつづけているのに、労働社会においてはひたすら個性や自分らしさは滅却させられるか、不必要である。もし労働社会に自分のアイデンティティの軸足をかけるようになったら、かれはまったく無価値で、無意味で、貶められる存在になるのである。労働社会において若者は消費文化の価値観に脅かされつづけているということになるだろう。

 私自身も消費文化イデオロギーと労働社会の価値というものの相克にながく悩みつづけてきたと思う。いくら金でカッコいい、おしゃれで、センスのいい買い物をしたって、仕事は輝きのない、同じことのくり返しの、私でなければならない仕事でもなく、だれにもできる仕事である。ギャップにたいそう悩んだ。しまいにはカッコいい、おしゃな買い物の興味を失ってきたし、そのような買い物をする気力もなくなってきた。アイデンティティは消費文化から、労働社会のルーティーンワーク仕様へと転落していったのである。私の個性神話の消費は、労働のアイデンティティを得るにしたがって、失墜していったのである。

 若者は個性消費を労働やクリエイティヴな仕事にもとめつづる方向がいいのか、それともさっさと個性神話を削ぎ落としてルーティーンな仕事になじまさせる方向がいいのか、けっこう悩むことだと思う。私としては個性消費を削ぎ落とす方向のほうがいいと思う。なぜなら個性消費なんていうものは、たいして変わりのない人間がいくら違いを際立たせようとしてもしょせんは同じ人間なのだから、そのような幻想ははやく醒めて、開き直ったほうが豊かな人生はぎゃくにそこから開けると思うからである。幻想は早くに醒めたほうが賢明というものである。

 なによりも人と違っているとか、人よりセンスがいいと評価するのは他人である。他人の評価や目ばかり気にする志向を消費文化はつくりだしてしまう。他人の評価が神になり、畏れ多き悪魔や恐怖になる。それは他人の評価をひたすら恐れる存在をつくりだし、他人の目の奴隷や囚人となる存在を生み出してしまうことではないのか。他人の評価や選別に私たちの幸福があるのではないし、私たちの人生の目的はそんなところにあるのではない。

 そのようなイデオロギーを植えつけられて生きるのがわれわれであるが、それは幸福でも人生の目標でもない。それを目的にした人生は不幸と嘆きと苦しみをつくりだすだけである。理想と現実の狭間にいつもブチのめされることになるのは目に見えている。他人の評価を落としたところに幸福や人生の目標をおくほうが幸福になりやすいというか、即幸福になるというものである。存在しているだけで幸福なら、みんな生きている人はいまでも幸福である。生きているだけで幸福だと思える理想水準が、私たちを安心の境地に導くのである。個性や自分らしさは金で買えるという幻想や目標はなるべく道端に落としていったほうがいいのである。


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Comment

連休の名残 - remain of GW

こんにちは。

僕が内田樹という人を知ったのは、つい最近のことです。
『ブルータス』という雑誌で日本経済を特集していて、彼は論客の1人でした。

武道、カラダといった視点から経済を語っていたのが斬新でしたね。
たけしの記事はちょっと...(読めたものでは無かった)。

日本は言うまでもなく貿易立国ですね。
おまけに、下請けを支配する製造業が中心という産業構造が出来上がっています。

今後は金融立国へ、という話も出て来ていますが...。
優秀で英語も話せる人材はどんどん海外で働くようになっています。
何かしなければ「日本丸」は沈没するでしょう(どうでもいいことですが)。

深刻な問題というのは、6割を輸入に頼っている「食料」なんですよね。
牛肉の塊が食えなくなる日も近いと思われます。

今、勢古浩爾の『ぶざまな人生』(洋泉社)を読んでいます。
この本、なかなか面白いですよ。

では。

追伸) 原付は右折で事故が発生しやすいとの話を聞きました。
気をつけてバイクを楽しんで下さいね(大きなお世話で申し訳ありませんが)。

たいく〜んさん、こんばんわ。

内田樹という人はブログから人気が出た人なんでしょうかね。
なかなかブログのテーマはいいものがあって、私ははてなアンテナでチェックさせてもらっていますし、ブックマークでよく注目されているようですね。
ただ本となると、さいしょに見た本が『おじさん的思考』という本だったので、それと思想本からはすこし遠ざかっているもので、読んだことはないですね。

勢古浩爾は新書のなかで学問入門書の範疇から離れて、かなりエッセイよりの本を書いていますね。
『わたしを認めよ!』という本は人間の承認欲について考察した本で私は好きなのですが、それ以降は読んでないですね。
『ぶざまな人生』でも覚悟を持ってそのように生きられる強さがほしいですね。

原付はたぶん車の右折のとき危ないと思いますよ。
原付が直進していても車が遅いと判断して、右折してきてぶつかったりしやいのかもしれません。
あるいは原付自身がムリな右折をしたりとか。
まあ、クルマ自身も右折は危ないものですが。
右折専用信号も少ないですから、赤になる前に右折しようとして、がしゃんといってしまうのでしょうね。
私はうしろの車にクラクションを鳴らされたり、先に越されたりと、右折にはかなり慎重です。

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