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04 20
2008

芸術と創作と生計

『芸術家伝説』 エルンスト・クリス/オットー・クルツ


芸術家伝説芸術家伝説
(1989/06)
エルンスト・クリス、オットー・クルツ 他

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 私が今回、芸術家をテーマにしているのはおそらく市場や金に縛られない、それらに抗した存在としての芸術家に生き方を学びたかったからかもしれない。市場や労働だけで人生を終わらせたくないという気持ちから芸術家の人生に期待を寄せたのかもしれない。貧困でも評価がなくても、自分の創造したいものだけを描きつづけた芸術家のような人生をわれわれも生きられないものだろうか。

 ということで、この芸術家の人生の神話をさぐった本はかならずしも私の期待を満足させるものではない。芸術家とは何者かというテーマは、私の深い興味をひき寄せるわけではない。

 芸術家の人生はさまざまなエピソードが伝え語られているわけだが、それらの類型をまとめてゆくと神や英雄伝説、あるいは魔術師のすがたが写しとられているのではないかということが浮き彫りにされてゆくのが本書である。

 この本は1934年ウィーンで出版され、1979年に再販され、欧米で広く読書を得ることになった。89年にぺりかん社から出たこの本はすでに絶版で、アマゾンの古本では一万円近くの値がついているが、町の古本屋でみつけると千円引きか半額で買えるだろう。アマゾンで高くなった本は町の古本屋ではふつうに安い値段で売られているものである。

 芸術家の幼少期は羊飼いであったとか、親に捨てられた子が羊飼いに育てられ、才能を見い出されるエピソードがよく語られたりする。それは英雄伝説や貴種流浪譚にも同じエピソートが語られるものである。芸術家は英雄伝説が重ねられていることもあるわけだ。

 「隠れた才能を見い出す」というテーマはこんにちのマンガでもよく語られていて、思い出せば『明日のジョー』や『エースをねらえ!』などのマンガにも出てくる。「流され王」や「捨てられた王家の子」という英雄譚が下敷きになっているのかもしれない。そのような物語は私たちの幼な心を駆り立てたものである。

 芸術家の創造には激情と狂気に駆られて創造するというイメージがあるが、あるいは神仏がのり移って描かせたというエピソードも事欠かないが、芸術家には神に操られて創作をおこなう、つまり神の力を借りて創造するということをあらわすわけだが、それはつまり芸術家には神のイメージが擬せられているけである。

 また芸術家の描いた絵にはほんものの生き物と見間違われて生き物がよって来たり、あるいは夜中に絵からはいだしたり、作物を荒らすといった物語が語られることがあるが、芸術家にはそのような魔術的なイメージも重ねられるのである。

 このような芸術家の人生の類型を抽出したのが本書である。われわれは芸術家に人間界の英雄や魔術師、あるいは神に近い存在のイメージを見い出すのである。そしてそのようなイメージがじっさいの芸術家の人生を歪めたり、あるいは事実をねじまげた神話が語られる土台をつくりだすのである。われわれは芸術家に超人や神に近づいた存在としての英雄を見い出すのである。

 さて芸術が語られるなかで、私が追究しているテーマ――金や労働に縛られない人生といったものはとうぜん多くはテーマにはならないわけだが、芸術家の人生には隠遁者や奇人であったり、貧困や金にこだわらないイメージが重ねられていたりする。私たちの願望もとうぜん織り込まれている。私はそこに引きひきつけられたわけだが、とうぜんそれは芸術家イメージのメインストリームではない。ということで芸術家に市場や労働からの脱却という願望を満たしてくれる像を見い出す試みは座礁せざるをえないのかもしれない。ああ、つまらない労働から解放される道しるべはないものか。


参考に(芸術に魂を売った話、あるいは市民社会からの脱走)
 ゴーギャン伝説の誘惑? 十河 進

月と六ペンス (岩波文庫)フランダースの犬 (岩波少年文庫 (114))車輪の下で (光文社古典新訳文庫 Aヘ 3-1)

トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す (新潮文庫) トーマス・マン
ノア・ノア―タヒチ紀行 (岩波文庫) ポール・ゴーキャン


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