『にっぽん企業家烈伝』 村橋 勝子
にっぽん企業家烈伝 (日経ビジネス人文庫)
村橋 勝子

企業がいちばんおもしろいという時は、創業期をおいてほかにないと思う。それはたぶん、しろうとが無から有をつくりだす試行錯誤やプロセスがおもしろいからだろう。こんにちの若者が入ろうとする企業はすでに大きくできあがっていて、プロの集団であり、もうすでに新しく創造する余地はなく、したがってつまらない。新しく創業するときほど企業がおもしろいときはないのである。
それにしてもこの本は社史研究家の人によって書かれている。社史づくりといえば、会社の地下室で出世から外れた人がほそぼそとやっているものとのイメージがあったが、このような本を見せられるとあんがい宝の山かもしれないと思ったりする。
創業者の共通点をみているとけっこう名家に生まれるのだが没落して、辛酸をなめ、復興を夢見て創造するというパターンが多そうである。商売の基本は幼いころに習ったりしているのだが。
たとえば森永製菓の創業者は伊万里の陶器問屋に生まれるのだが没落、陶器商で苦労して、アメリカで陶器を売ろうとするのだが店を手放し、キャラメルを売ろうと思いついて武者修行して帰国後にマシマローつくりからはじめるのである。保存性の悪い菓子を箱や銀箔でつつんだり、広告を打つなどの工夫をして企業を大きくしていったのである。
伊藤ハムの創業者は三重県の海産物の行商の息子として生まれ、最初に立ち上げた企業は大恐慌で倒産、山谷で日雇いの仕事にもかかわった。貯まった蓄えでソーセージづくりをはじめるのである。
大日本除虫菊の創業者は和歌山のみかん栽培の名家に生まれ、アメリカの知人から除虫菊を教えられ、栽培の普及をめざし、線香状にすることを思いつき、こんにちの渦巻型蚊取線香が生まれた。
創業者はいままでの世の中にない新たしい商品や事業を思いつき、それを世に広める。それが成功するか失敗するかは未知数である。そんな中で企業を大きくしていったのである。
そのほかにも中興の祖もふくめて、おおぜいの企業家が紹介されている。江崎グリコ、豊年製油、蛇の目ミシン工業、トヨタ自動車、鹿島建設、ユニチャーム、島精機製作所、セコムなどなど。
私はあまり企業活動には興味をもてないのだが、なぜか創業者の物語は読ませるものがあると思う。それは起業には企業や経済という専門の業務ではなくて、しろうとがおこなう社会的な活動という側面があるからだと思う。企業を動かしているというよりか、社会を動かし、変化させているのである。そこには企業内におさまらない魅力があるのだと思う。
会社勤めがおもしろくないという人やできあがってしまった大企業をつまらないと思う人はいちど企業が立ち上がるさまをながめて、このような目で企業を見てみるのもおもしろいかもしれない。
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