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01 19
2008

市場経済

『問屋と商社が復活する日』 松岡 真宏


問屋と商社が復活する日
松岡 真宏

問屋と商社が復活する日


 問屋や商社なんか不要だというメディアと世間の常識をまるごと否定した本で、私はけっこうおもしろかったし、目からうろこの部分も多かったのだが、amazonの書評では「トンデモ本」とか「買って後悔した」などの酷評がめだつ。それだけ堅く「中抜き論」は信仰されているということか。

 戦後ずっと中間流通業者を排除し、製造業と小売業を直結すれば、物価が安くなると信じられてきたし、世間の常識でもある。この常識は1962年の林周二『流通革命』から生まれたらしい。欧米にはない問屋や商社を排して中間マージンをカットすれば、遅れた欧米に追いつくと唱えられた。ダイエーの中内功やディスカウントストアはそのような考えをずっと実践してきたわけだ。

 この本はメディアのウソ、世間の常識を暴いた本である。だから楽しい。メディアや世間で信じられている常識を吹き飛ばすときほど快感のときはないし、目からうろこの瞬間もない。これこそ読書の醍醐味というものだし、世間の常識や自明性は疑ってかかるべきだという教訓も得られる。世の中の「絶対」は信じないほうがいい。いったら「空気」に流されるなということである。

 メディアというのはいつも欧米と比べて日本は劣等だ、遅れていると喧伝したきたものである。生産性が低い、人件費が高い、物価が高い、と日本を批判してきた。欧米というロール・モデルが絶対であるというパラダイムをバカのひとつ憶えのように戦後日本はずっと信仰してきた。たぶんいまの日本人にもこのパラダイムが深く染み込んでいるのだろう。この本はそのような常識、メディアの喧伝をひっくり返す本である。

 アメリカと比べると日本の人件費は高いとされるが、家賃やエネルギー、上下水道のコストと比べるとかなり安い。したがって利益率をあげるには設備費をおさえて人を使ったほうが安上がりなのである。アメリカの大手チェーンにならえという論調はあたりまえのように信仰されているが、独占や寡占がすすむと物価が高くなるのはそのシェア独占の相関図からもわかる。発達した問屋システムが中小・零細小売の存在を助けることによって価格競争はすすむのである。

 日本の物価が上昇しつづけたのは人口が増加傾向にあったからである。人口が減少すれば物価は落ちる。日本経済の停滞は金融の引き締めによるマネーサプライの縮小のためである。欧米と比べて物価が高いといわれるが、物価が落ちると内外価格差は拡大し、上れば縮小している。つまりは円安にならないかぎり内外価格差は解消しないのである。価格差というのは円ドルレートのマジックのようなものである。

 これらは流通革命が必要な前提をことこどく否定したものである。欧米に比べて日本は遅れている、劣っているというステレオタイプで流通をみていると、経済の事実なんかひとつもつかみきれないということである。そのうえで多品種少量生産を助けたり、小売の競争を促進したり、在庫リスクを負担したり、あるいは物流のコストもかねる問屋の存在を正しく認識すべきであるということである。

 私もいぜん拙い頭で問屋はなぜ必要なのかと考えたことがあるが、これは空間の「編集」の役割を果たしているのではないかと考えみたことがある。製造業と小売は全国あちこちにちらばっている。どこに製造業があり、どこにいけば目当ての品を買えるかと探すのはたいへんである。問屋はその「編集」の役割を果たしているのではないかと。零細の小売がこんなことをするのは不可能である。空間と情報の編集は問屋が担うしかない。

 私がこの本を読んだのは人材の多重派遣や業務の多重請負などの中間マージンの発生理由を探るためである。あえて問屋有用論を読んだのは、その存在理由がわかるだろうと思ったからだ。なぜ中間業者は必要なのか。IT革命が喧伝されたとき、中間業者は不必要になるとよく囃し立てられたものである。世の中変わったという話はあまり聞かない。仕事とカネはあいかわらず人と業者のあいだを転がされつづけているようである。う~ん、よくわからないというしかありませんな。


「稼ぐ」仕組み 卸売業のロジスティクス戦略―サプライチェーン時代の新たな中間流通の方向性 逆説の日本企業論―欧米の後追いに未来はない
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Author:うえしん
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