テンポラリーワーカー(臨時従業員)時代の社会保障



 1990年に出版された『ビジネスマン 価値逆転の時代』(TBSブリタニカ)で、経営哲学者チャールズ・ハンディはこういっていた。

「二一世紀を迎えるころには、企業や各種の団体組織で"ちゃんとした"フルタイム・ジョブ(常勤の仕事)に就いている者の数は、先進工業諸国では労働力人口の半数を割るようになる。多くの者が自営の労働者になり、その数は年を追って増えていく。その多くは、パートタイマーないしテンポラリーワーカー(臨時従業員)である」



「常勤従業員が有効労働力人口の半数にも満たないとなると、常勤の仕事に就くのが当然だと考えるのは、もはや意味をなさなくなる。〜われわれの"労働"についての考え方、"仕事"と"職歴"についての見方が変わりはじめてくる」



「そういう変化を促すものに、シャムロック型組織の出現がある。〜その本質を要約するなら、組織に欠かせない少数の経営陣と常勤従業員からなる中枢部を取り囲んで、臨時の契約従業員とパートタイマーを配置した支援体制を整えている組織形態を指す」



「物事を組織するうえで、これはとりわけ目新しい方式というわけではない。建設業者は、規模の大小を問わず、もう何世代にもわたってそういうやり方をしてきたし、特約通信員から記事を集め印刷業者に印刷と発送を委託してきた新聞社とか、収穫期と休日に契約労働者を雇い入れる農場主なども、同様である」



「それが安上がりの方式であるからにほかならない。全従業員の時間をそっくり自分の自由にしようなどというのは、必要な人的資源を集めるやり方としては贅沢すぎるということである。〜それよりも、必要な人員をあえて組織の外に置いておくほうが、ずっと安くつく」



「さほど遠くない将来に、常勤従業員は労働力人口のなかで少数派となってしまう」



 こんにちの非正規雇用化はしつかりと予測されていた、というよりか計画されていたわけである。これは1995年の日経連「新時代の『日本的経営』」にも、従業員を「長期蓄積能力活用型グループ」「高度専門能力活用型グループ」「雇用柔軟型グループ」に分けようとした考えと同様のものである。時代はこのような考えのもとに動こうとしているのである。

 くわえて、soneakiraさんのうたかたの日々に『現代の貧困』岩田正美(ちくま新書)の引用があったので、コピペさせてもらいます。

「日本の社会保障制度は、基本的に終身雇用の正規雇用者家族が共通に抱える一定のリスクに応えるべく設計されたものである」



「日本では、あまりにも保険主義が徹底しているので、これに代わる所得保障がきわめて手薄である。とくに働ける年齢層で保険料を支払えなかった人々や、支給条件を満たさなかった人々への別の手段が講じられていない」

 

「日本では雇用保険が切れた時、これと連動する「失業扶助」の仕組みがない。しかも、たいていの先進諸国にはある住宅手当(家賃補助)制度がない。家族なし・資産なしの単身者やシングルマザーの貧困、あるいは労働宿舎型のホームレスにもっとも効果的なのは、おそらく住宅手当であろう」

 

 非正規雇用とはとどのつまり企業から社会保障が与えられないということである。賃金も安く、雇用が短期であったり、安定してなかったりする。とうぜん社会保障費は払えないこともあるだろうし、企業もその点の責任を放棄する。このふたつの考えを合わせると、とうぜん社会保障から大量にもれる人たちを生み出すということである。

 企業は社会保障を見捨て、国家もそれを払えない人たちを見捨てる。そういう人たちは貧困に転がり落ち、いまでは街中や公園、河川などのホームレスとしてあふれ出しているわけである。このふたつの流れがもっと大きなものになると、貧困層も大きなものとしてふくれあがることになる。

 払える人に社会保障でなくて、払えない人たちこそがもっとも社会保障が必要になる層なのである。この欠落が日本社会の恐ろしい盲点であり、多くの貧困者を社会からこぼれ落としているのである。

 社会は正社員を保障するかたちのげんざいのモデルから、大きな流れとなっている臨時従業員の社会保障が払えない人たちこそ、社会保障が必要であることをしっかりと認識すべきなのだろう。働き方や貧困のかたちはすでに大きく変わってしまっている。


ビジネスマン価値逆転の時代―組織とライフスタイル創り直せ
チャールズ ハンディ Charles Handy
4484941074

現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書 (659))


コメント

終身雇用は奴隷制度か?

すでに、アメリカでは、労働者の半数以上が、非正規雇用になっている。

日本式の、「終身雇用」、「年功序列賃金」、「退職金」、これらは、ある意味、労働者の一生を一企業に、丸ごと売り渡した制度である。
悪く言えば、現代の「奴隷労働」でもある。

この日本型雇用形態が、崩れつつある。労働市場の、自由化であろうか。この潮流を促進している背後には、労働者の側と、資本の側の、それぞれに、同床異夢の理由がある。
企業にすれば、コアの部分だけを、会社に忠誠を一生誓う正社員だけで構成し、あとは、臨時社員でまかなう。

これで、生産性を上昇させ、国際競争に勝つ、戦略だろう。
同時に、労働者も、一企業への一生涯続く労働から解放され、自由に労働市場を渡り歩く。
労働者は、「自由」を獲得できると同時に、「生活不安」を併せ持つ。
どちらが、いいかは、一長一短だと思う。

この生活不安を取り除いてやるための、社会保障が、制度として、必要になるだろう。現在の制度は、終身雇用を前提として作られているため、新しい潮流との間に、矛盾が生じている。

ただ、私は思うのだが、若者たちがこの新しい、労働が完全に自由化された社会の下で、心理的重圧を生きていけるのだろうか?
個人は、限りなくバラバラに、社会から分断され、所属感覚を失い。目的もなく、刹那的にさ迷う。
家族は、どうなって行くのだろう?
もはや、家族すら、解体していくのだろうか?

水がめ座さん、こんにちは。

終身雇用は「終身刑」だといったのは佐高信でした。

まことに「奴隷制度」だと思うんですが、社会保障や退職金がきちんとつくことを「ステータス」と捉える風潮はいまも根強いと思います。
若者はフリーターや派遣ではなくて、「正社員」になりたいといいますし、女性も結婚するのなら、フリーターなんていやといいますね。

私はこれがまことにひっくり返った世の中だ、会社や国に頼らない自助努力で生きてゆく人がカッコいい、ステータスと思われる世の中になったほしいのですが、日本人の「社会主義」依存、「福祉国家」依存のしみったれた体質は容易に抜けきりません。

トクであるし、労働市場が閉ざされているというのがありますし、生活不安が恐いんでしょう。私はそんな不自由な人生に甘みを感じている日本人が信じられません。自由より、奴隷の安定に魂を売ったなさけない人たちばかりだと私は思います。

自由化された労働市場は不安定で、所属意識をぶっとばしてしまいます。若者はこの自由の代償である不安にそう耐えれるとは思いません。フリーターや派遣の不安は、「ワーキングプア」という言葉になって、いまの世情を脅かしていると思います。それが「自由の不安である、または代償である」というポジティヴさに目がふさがれている状況になっているようです。

好むと好まざると関係なく、世の中はそうなってゆくと思います。私は社会主義の企業や国家から決められる人生から脱退したいと思っていたクチですから、それのプラス面は評価したいです。マイナス面は不安定や貧困としてますます問題になってゆくでしょう。

こういう世の中で生きてゆくと覚悟を決めたときに、私たちの生き方や家族のあり方はかたちや心を変えてゆくのでしょう。脱企業や脱生産は、これまでの経済至上主義や企業至上主義の世の中を変えてゆくと思われるので、私はそれを好ましく思っています。もちろんマイナス面は大きな問題として噴出しまくると思います。とりあえずは「社畜」の時代からおさらばできればありがたいのですが。

Labor Thanksgiving Day

こんにちは。

相変わらず、マスメディアによって提供される「労働観」には辟易しますね。
勤労派、怠労派、双方の代弁者たちによる提言、討論は何も生み出していない、と感じるのは僕だけではないでしょう。

何でだろう?と長い間、疑問でしたが、最近、中島義道の『<対話>ない社会』(PHP新書)を読んで、ちょっとだけヒントを得る事が出来ました。

結局、論客は「与えられたテーマ」について議論をしているに過ぎない、ということです。
加えて、哲学的な問答を意識的に避けている。
これはヨーロッパ社会に根付く「対話」から乖離している。
だから、耳を傾けるだけ時間の無駄かもしれませんね。

話は変わりますけど、安定した生活を作為的に築こうとしても不可能でしょう。
街には人智を超えた危険性が潜んでいるわけですから。
例えばですけど、ビルの8階から落ちたパチンコ玉は大きなエネルギーを獲得していて、地上を歩いている人の頭骸骨などラクに貫通してしまうのですからね。

最後になりますが、「チンダル現象」なる聞きなれない言葉を数ヶ月前に知りました(物理学か自然科学かはわかりません)。
カーテンの隙間から朝日が差し込むと塵や埃が浮かび上がる、あの現象らしいです。

同じように、うえしんさんの文章から、僕も色々と気付きを得ています。

では。

たいく〜んさん、こんにちは。

この社会はなぜか労働について語られませんね。
賃上げ賃下げ、勤務時間や労働条件、あるいは金儲けやビジネスチャンスについては語られますが、なぜか労働は人生に値するのかといったことや、幸せな労働について考えるといった本質的なことは語られないと思います。ニートはその語られない問題の滞留といった感がするのですが。

そりゃあ、稼がないとメシを食えないのですからそんなことは考えてられないのですが、右のYouTube画像にUpしているフロムやボードリヤール、ブルデューといった社会学者も労働について考えていませんね。

考えたといったら、私の知っている限りでは、シモーヌ・ヴェイユやハンナ・アレント、カール・マルクス、フリードリヒ・エンゲルス、今村仁司といった人くらいでしょうか。その人たちもなぜか私の考えたい、知りたい気持ちを満足させてくれなくて、私はまだまだ道の途中です。

安定なんかこの世には存在しないのだから安定にしがみつくなといったのは二千年前のおシャカさんでした。縁の世界とは変化しかない世の中を語っていたわけですね。

ベストセラーになった『生物と無生物の間』の著者は人間の細胞も一年たてばすっかり別人の細胞に入れ替わっているといっていましたが、物体の世界に住んでいる人間はすっかり変化しないものがこの世に存在すると思い込んでいるようですね。

私も変わらないでいてほしいものには数々しがみついてしまいますが、できるだけ変化に水のように対応する気持ちをしっかりともちたいものです。

さいごにチンダル現象のたとえをありがとうございます。なにかの啓発に役立てる考察ができるよう励みにしたいと思います。

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