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11 03
2007

労働論・フリーター・ニート論

なぜ労働社会から降りられないのか


 私は労働が人生の目的だととても思えない。人生の目的や充実はもっとほかのところにあると思うのだ。だけれどもじっさいは毎日の多くを労働に奪われ、人生のおおくを労働に捧げなければならない。人生はこんなものではないという思いが拭い切れない。

 われわれはなぜ労働社会から降りられないのか。あるいはなぜ労働時間をもっと減らすことができないのか。

 私たちの社会は、「消費社会」だとか「大衆社会」とか呼ばれ、あるいは「豊かな社会」、「文明社会」ともいわれるが、「労働社会」と呼ぶのがいちばんふさわしい。この「労働社会」であるという事実をいちばん前にクローズアップすることがひじょうに大切である。

 答えとしては対企業関係をあげがちになるが、ゆえに休みや労働時間を減らせだとか、給料を増やせなどの企業を「敵」と見なしての労使関係のいがみあいになるが、おそらくこれは労働社会の表層や結果をいじくりまわすだけに終わるだろう。

 私たちこそが労働社会を欲す欲望構造や社会構造をもっているから、げんざいの結果を招来している考えるほうが妥当である。文明や分業システムを欲すわれわれの欲望自体がげんざいの労働社会を生み出している原因だと考えるほうが問題の解決策に光を当てることになるだろう。

 われわれは文明を欲する。あるいはおおくの人たちのサービスや製作物を欲する。たくさんの人につくられたモノやサービスを手に入れたいがために、われわれはますます自分の時間を、人生を、そのような他人に売り渡すサービスや時間に費やさなければならなくなる。

 いったら文明の利器がほしいのなら、おまえも文明の利器をつくれ、サービスしろということである。したがって私が電車に乗ることを欲し、マイホームに住むことを欲し、ガス水道電気の供給をのぞめば、私も同じように人にそのような文明の利器を提供しなければならないわけである。

 分業と文明というものはますます私たちを対他サービスの溝に放り込み、そこから降りられなくなさせる。私が車をほしがり、家電をほしがり、映画や音楽を欲し、旅行や趣味を欲するたびに私はそれらを手に入れるための貨幣活動――労働へと駆り立てられる。しまいには労働が私の人生を乗っとってしまい、本末転倒な労働のために生かされる人間になってしまう。ぎゃくにほしがればほしがるほど、それに使う自由な時間が失われるのである。

 分業システムが私を労働から降りなくさせるのだろうか。

 私が他人のサービスを欲するのを減らし、魅力に感じる気持ちを減じ、多くのサービスを断てば、私は人生の目的や充実を手に入れられるのだろうか。

 私たちはなにかがほしいというよりか、他の人と同レベルや平均的な暮らしといったものを欲すがゆえに、労働社会から降りられない。つまり人と合わせるために私は多くの時間を労働に奪われ、人生を失う。

 平均的な暮らしを営むために、あるいはみんなの暮らしのレベルに合わせるために、私はみんなと同じように長時間、労働に縛られる。つまり「みんな」と同じであるために私は人生を失うのである。みんながそうであるから、私もそうでなければならないというわけである。

 さらには私は「みんな」より劣りたくない。劣等視され、差別されることを恐れる。人より優越し、人から認められ、承認されることを欲す。その基準とは経済的レベルであったり、所有物である。モノサシが金銭であり、物質であるなら、私をそれを得て見下されるのを防ぎ、優越感を手に入れるためにますます労働に駆り立てなければならない。

 金銭と所有の競争が、私を労働に縛りつける。私たちはサルがつかんだキャンディーのために穴から手を出せないような状態にはまりこんでいるのである。サルを笑えない。私たちのキャンディーとは、金銭であり、所有物であり、「みんなと同じ」である。ために労働しているうちに人生は黄昏をむかえる。

 もし少ない労働時間、少ない収入で満足しようとすれば、人と社会から金銭や所有物がないといって見下され、企業からは身分の低い非正規雇用として差別され、「貧困」や「哀れ」、「悲愴」という言説をレッテル貼りされ、流布される。監獄とは、「みんなと同じ」であり、金銭であり、所有物なのである。

 私たちは「みんなと同じ」と経済的所有物を求めるがゆえにどこまでも労働に人生を売り払わなければならなくなっている。これは根本には人間のランクや階層の配慮といったものが、横たわっているのだろう。人より劣りたくない、人より優れたい、みんなと同じ暮らしをして、同じ境遇を得たい――そうして私は人生を生きるより、労働に人生を奪われるのである。

 貨幣経済が発展し、みんなの所有物の基準がつりあがると、私たちはますます労働から離れられなくなり、不幸になる。お金がなく、貧乏な社会であったほうが、人々は幸せではなかったのかと思う。

 それは人間にとっていちばん重要である「人とのつながり」が緊密で、親切や扶助の関係が機能していたからだと思われるし、みんなが貧しいなら高いレベルの競争は働かない。ゆえに人々はかえって安心して、のびのびと暮らせたのである。われわれの社会とはエリート校やスポーツ選手のような高レベルの異常な競争社会に生きているのかもしれない。

 人のレベルが落ち、経済的所有物の願望を、またはレベルを減らし、貧しい社会になったのなら、案外この日本は労働が少なくとも幸せな社会になれるかもしれない。

 私たちは勝つことより、人より優れることより、「負けること」「劣ること」に価値や勇気を見い出せる社会にすることが、労働の少ない幸せな社会になることの秘訣ではないかと、私はひとつの類推として推奨するのである。

 「負けたっていいじゃないか、労働に自分の人生を奪われるのなら」


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Comment

孤高の人、うえしん

まったく、うえしん節に、納得であります。
実に、こころに、気持ちよく、しみわたります。

この、騒々しい、金儲けを目的とした社会から、「降りる」うえしんを、諸手を挙げて歓迎したい。

昔、日本人のヒッピーの女が、自給自足で信州の山の中に、ひとり息子と住んでいた。私は、彼女を訪ね、しばし、その非文明的な生活を楽しんだことがあります。

でも、何か、文化が欲しいですね、作品といいますか。
うえしんの詩とか、小説とか、あるいは、絵画?
あるいは、紀行文、またはエッセイ、そんなものを、ゼヒ作って、このブログに載せてもらえないでしょうか。

自分のブログにも、詩と絵画の一分を載せています。感想交換なんか、面白いのでは?
現代文明批判も、ひとつの道ではありましょうが、創造的な道も、いいもんですよ。

水がめ座さん、ありがとうございます。

労働から逃亡したいと思索はするのですが、じっさいにはてんで実践できないのが情けない限りです。

いまは残業が1、2時間があたりまえになってしまって、帰ってきて疲れてしまってすぐに寝るパターンも増えてきました。「なんのために生きるいるのだろう」と思いそうになりますが、あまりそういう考えには陥られないように気をつけています。働かないとメシは食えませんからね。

ヒッピーの人たちと交流があったというのはうらやましいですね。さいきんはとんと活動が聞かれることはありませんが。日本はどうもこういう非経済的-非社会的な活動が評価される風土があまりありませんよね。「だめ連」もぽっと消えてしまいましたし。

小説とか絵画はどうなんでしょうか、いまひとつ食指が動かないというか。
私にっては読書と思索することが、それらの代わりをじゅうぶんに満たしていると思いますので、あまり必要を感じないというか。

というか、ムリです(笑)。物語は興味を失いつつありますし、小説は20代ころに書いていたこともありましたが、いまは小説のテーマの延長がこのブログになっていると思います。絵画はガキのころマンガを書いていたこともありましたが、絵画に興味が魅かれることもあまりないですし。

みずがめ座さんの詩と絵画を楽しませてもらうことにします。

両親・結婚・子育てと、お金

自分一人・同一賃金なら、貨幣経済から距離を置くことも平気です。
フリーターになれば、両親は悲しみます。
また労働単価が低いため、生活のために長時間労働になってしまいます。
※労働者同志の競争が激しく、時間半分だと給与1/4の負け組。

フリーターの中年男性は、結婚できません。
※それどころか彼女もできず、欲求不満・寂しさが身に沁みます。
さらに両親を悲しませませ、帰省先での居心地が悪くなります。
同窓会も、行きたくありません。⇒孤独死

子供のいる女性だと、子供が不憫な思いをするのに耐えられません。
経済力と学力は、密接な関係にあります。
パート掛け持ちだと、子供への愛情を注ぐ時間も不足してしまいます。
人並みにマーホームや自動車(特に東京)・私立大学2名(下宿)だと、大変です。
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