『オオカミと生きる』 ヴェルナー・フロイント

オオカミと生きる
ヴェルナー フロイント

freund.jpg


 幸せなオヤジである。オオカミの群れといっしょに暮らせる人間はそういない。

 私のイヌとの経験から類推して、イヌほど人間になつく生き物はなく、服従や親愛の情をからだ全体でもってあらわすから、人間より愛しくなるものである。もしオオカミも同じ性質をもっているとするのなら、人間のつきあいよりもっと満足な気持ちをもてるだろうと思う。

 著者のフロイントは冒険家である。動物たちにとくべつの親愛の情をもったり、世界の自然民族への冒険旅行に何度も出かけている。そういうかれの好奇心がドイツの森で五つのオオカミの群れとともに暮らして観察するという冒険をおこなわせたのだろう。こういう冒険家がいるからこそ、現代の人間の知識は築かれたのだと思う。

 フロイントはオオカミの子を生まれてすぐに育てた。親と育つと人間を恐れて人間になつかなくなるからである。大きくなると野外囲い地に放して、しぜんなオオカミの群れを形成するようにした。ヨーロッパオオカミやホッキョクオオカミ、シンリンオオカミなどの五つの群れをフロイントは育てた。フロイントはその群れの中でオオカミたちと同じように生活した。

 オオカミの群れは順位が明確に決まっている。獲物にありつけるのはアルファオスから順番だし、アルファオスにあいさつするのも順位どおりである。ふだんは穏やかなオオカミたちも順位闘争になると容赦のない攻撃をおこなう。

 フロイントはその群れの中で超位オオカミの地位を保っている。鋭い牙でかみつかれたらひとたまりもないだろうし、いつ順位闘争で攻撃をしかけられるかわからない。フロイントは獲物を与えるさい、アルファオスの唸り声や攻撃に出会うとすかさずアッパーカットを喰らわせて、アルファオスに守るべき順位を教えるのである。

 順位争いは生まれてからすぐにはじまっていて、授乳時にほかの兄弟を押しのける強いオスがたいていはアルファオスになる。野生では押しのけられた兄弟は餓死するしかないのである。成長すると親しかった人間の子どもたちも順位闘争に巻き込まれて標的になり、ともに行動することはできなくなったこともあった。

 私がこのオオカミの本に興味をもったのはこのような社会生活の順位や序列を知りたいと思ったからだ。オオカミやイヌの社会生活における順位は攻撃的でひじょうに荒々しい。一歩間違えば死が隣り合わせの闘争である。この厳しい順位闘争に私は畏敬の念を思わず感じてしまうのである。

 人間である私はオオカミのような順位闘争に参加しなくて幸福だったと思うが、同時にオオカミの社会生活は人間の群れにもひじょうに等しいことを感じないわけにはいかないのである。つまりはオオカミの順位闘争は人間の社会生活にもひそかに影を落としているものである。そのへんを読みとる目を養うために私は動物の序列順位に目を向けているのである。

 群れの順位はたんじゅんに考えると、食べ物とメスをめぐる争いに端を発するのだろう。資源の分配をあらかじめ決めておくのだ。そのことによって無駄な争いを避けることができる。そのためにオオカミやイヌたちは服従や親愛のしるしを目だってあらわすように進化した。人間はなさけなくもこっけない服従の身ぶりに大喜びするのである。

 人間は順位や序列、服従、親愛の身ぶりをできるだけ社会生活から隠そうと努力してきた。平等で親愛的な社会が理想だと思ってきた。そして順位や序列が水面下にめぐってしまい、混乱してしまっているのではないだろうか。私たちは順位やその闘争の中で生きている。だけど実情を意識的に理解しにくくなっているのである。このブラックボックスを解明するためにはふたたび動物に学ばなければ、人間はそれを理解できないというありさまなのである。

 私たちは厳しい順位闘争の中で生きている。平等で親愛的な社会が人間社会の真実だと理解してしまうと、人間の真実にしっぺ返しを喰らってしまう。私たちは動物たちの厳しい順位闘争が人間社会にも働いていると見るときに、人間社会で生きてゆく術を見い出せるのではないかと思う。


Call Of The Wolf狼―その生態と歴史 ザ・カルチャークラッシュ―ヒト文化とイヌ文化の衝突 動物の学習理論と行動科学に基づいたトレーニングのすすめ 犬の行動学 犬のことばがきこえる
by G-Tools

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://ueshin.blog60.fc2.com/tb.php/800-0cffc217
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

イヌの属するイヌ科は、森林から開けた草原へと生活の場を移して追跡型の狩猟者となった食肉類のグループである。待ち伏せ・忍び寄り型の狩りに適応したネコ科の動物に対して、イヌ科の動物は、細長い四肢など、持久力重視の走行に適した体のつくりをしている。また、イヌは

 | HOME | 

これから読む本

カテゴリ展開メニュー

  • 芸術と創作と生計(24)
  • 集団の序列争いと権力闘争(50)
  • 国家と文明の優劣論(61)
  • おすすめ本特選集(15)
  • 古代レイライン探索(39)
  • YouTubeマイ音楽館(47)
  • 労働論・フリーター・ニート論(47)
  • 書評 労働・フリーター・ニート(44)
  • 社会批評(46)
  • 書評 社会学(64)
  • 書評 性・恋愛・結婚(68)
  • 風景写真(52)
  • 歴史・地理(70)
  • 書評 経済(43)
  • 新刊情報・注目本(31)
  • 書評 心理学(15)
  • 書評 歴史(31)
  • 知識論(16)
  • 読書(20)
  • 市場経済(8)
  • ネット関連(30)
  • CD評(11)
  • TV評(24)
  • 社会哲学(6)
  • 日常(26)
  • 恋愛至上主義社会論(2)
  • 恋愛・性・結婚(4)
  • 書評 小説(28)
  • 映画評(4)
  • 80年代ロック&ポップス・メモリー(20)
  • 手塚治虫ノスタルジア(23)
  • 書評 マンガ論、サブカル論(10)
  • 書評 哲学・現代思想(8)
  • つぶやき(1)
  • 人生論(9)
  • 未分類(3)
  • バイク・ツーリング(29)

リンク

このブログをリンクに追加する

ブログ内検索

Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ

RSSフィード

私のおすすめ本


『楽天主義セラピー』 リチャード・カールソン 春秋社
4393710312.09.MZZZZZZZ[1].jpg

思考なくして苦悩はなし。

『どう生きるか、自分の人生!』 ウェイン・ダイアー 知的生きかた文庫
gibun11.jpg

考えと現実は同一ではない。

『愛と怖れ』 ジャンポルスキー VOICE
aito.jpg

攻撃心は恐怖から生まれる。

『グルジェフとクリシュナムルティ』 ハリー・ベンジャミン コスモス・ライブラリー
79522366[1]12.jpg
 
頭の中の「私」とは絵空事である。

『捨てて強くなる―ひらき直りの人生論』 桜木健古 ワニ文庫
CIMG0001_111112.jpg

落ちこぼれる恐怖を捨てよ。

『キリストにならいて』 トマス・ア・ケンピス 岩波文庫
 CIMG0016_111.jpg

苦悩のない方法論。

『無境界』 ケン・ウィルバー 春秋社
050[1]1.jpg

思考や感情、自我は「私」ではない。

『孤独であるためのレッスン』 諸富祥彦 NHKブックス
4140019271.09.MZZZZZZZ[1].jpg
 
仲間外れを怖れずに孤独を喜ぶために。

『「心の専門家」はいらない』 小沢牧子 洋泉社新書y
4896916158.09.MZZZZZZZ[1].jpg

心理主義化社会を警戒せよ。

『この人と結婚していいの?』 石井希尚 新潮文庫 
4101294313.09.MZZZZZZZ[1].jpg

男と女のすれ違いの名著。

『菜根譚』 洪自誠 岩波文庫
sai1.jpg

人生の達観した名著。

『正統の哲学 異端の思想』 中川八洋 徳間書店
seito.jpg

民主主義と平等が自由を抹殺する。

『自己コントロールの檻』 森真一 講談社選書メチエ
giko.jpg

衝撃の心理学批判の本。