HOME   >>  レイライン・死と再生  >>  『天と王とシャーマン』 E.C.クラップ
11 18
2006

レイライン・死と再生

『天と王とシャーマン』 E.C.クラップ


 『天と王とシャーマン―天に思いを馳せる支配者たち』 E.C.クラップ
 出版文化社 1997 3500e

 48958323331.jpg


 なぜ古代の王たちは天空や天体にあれほどまでに関心をもったのか。なぜ王たちは天の承認をうけなければならなかったのか、または神にならなければならなかったのか。そのような問いの接合部としてこの本は重要だと思った。いわば天と王はどのように結びついたのかということだ。

 古代人の思考には生命の豊穣をもたらすものはなにか、またはその欠乏の原因はなにかという思いがあったはずである。人間にとって生命の誕生をもたらすものは性交であり、性器である。したがって大地のあらゆるところに性交や性器のしるしが求められた。

 「土地を耕す人なら誰でも、空から降ってくる雨を、あたかも天空の神が地上を生命で満たすために落とす精子のように受け止めることだろう。地下水が出てくる泉やわき水、さらにはその水が流れ行く先にある湖などは、暗い地の中に秘められた生命の揺り籠たる大地の子宮の出口である。水は月経の血のごとくに大地の身体を離れ、生命誕生の新しいサイクルが始まったことを教える。やはり、水は乳房から出る乳のように大地の身体を離れ、生命を育む」

 「降水の少ないエジプトでは、豊穣をもたらす精子はナイルの水であった。ゆえに、エジプトの大地は男となり、逆に空は女となって女神ヌトが登場する。夜毎、彼女は星を産み、明け方それを飲み込んだ。朝になると太陽が彼女の子宮から顔を出すが、夕暮れになると彼女に飲み込まれてしまい、今度は再び星たちが産み落とされた。女神ヌトは、両手と両脚を東西南北の方向に突き刺し、テントのように夫ゲブの上に覆い被さる。ゲブは大地である。彼は、自らの股間を流れる川の豊穣をもたらす力によって、天空の神である妻を身ごもらせる」

 まるでフロイトの汎性欲論のようなものだが、人間や動物にとっての生命の誕生は性交によって生まれるのだから、自然界にそのような原理が求められるのは理にかなっているといえる。そして岩石の穴や洞窟は、母なる大地の子宮の入り口として聖なる場所になってゆくのである。そこで豊穣をもたらすための儀式がおこわれたり、または神に捧げる貢物や性交が捧げられたのだろう。神々は大きな犠牲を払って雨や生命の豊穣をもたらしたのだから、人間も血を流して生け贄で応えるという思いも生まれてゆくのである。

 豊穣をもたらす生命や季節のサイクルは太陽の日の出・日没の場所で予測できたし、また天体の観測によってあらかじめ知ることができただろう。それは神々の秩序や規則を知ることであり、神々の意図や思いを知ることでもあった。そして王や観測者は神々の意図をつたえる者として、権力の集権化をにない、または神々の承認をうけたものとされていったのだろう。生命の秩序や豊穣をもたらす神の使いとしての王、またはそのサイクルを知る王は、天や神の承認をうけた者として祭り上げられていったたのだろう。

 このへんのところは、この本はあまりにも世界中のおおくの事例が集められているため、うまくその箇所を結びつけられない。この本は事例のコレクション過ぎる本である。

 この本は460ページにおよぶ二段組の大部の本で、世界の事例をさまざまに集めて並べているのだが、原理・原則の追究がとぼしいため、よくわかったということにはならなかった。記憶能力の悪い私は新しい章、新しい事例を読むたびに前に書かれていることを忘れてしまって、なにが書かれていたんだろうと頭の中で像を結ぶのに失敗するのである。私は事例を並べ立てられるより、原理・原則の要約を知りたいタイプ、というよりか、多すぎる事例を記憶にとどめておけないタイプなのである。

 この本はかなりの大部なので、興味を持続できる人向けの本、というか、すでに在庫稀少の本である。なお、著者のE.C.クラップは天文学者で、グリフィス天文台長である。天文学がかつては権力にいちばん近い場所にいた時代、または王にでもなれた時代の天文学の輝かしい記憶をたどった本ということになるのだろう。天文学は太古の学問の根源であり、最大の哲学探究であった時代が、知の起源にあったのだろう。

 現代人は天体と無関係な生になって久しい。天空から切り離された人生は矮小で、宇宙の存在を忘れたちっぽけな生に成り下がっている。宇宙をふくめた人生観を生きられればいいなと思う。現代人が宇宙をとりこもうとすれば、UFOとかのアヤシい話として排斥されてしまう。科学的な世界観は人生のロマンがない卑小な人生でもあるな。

関連記事
Comment
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top