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06 23
2019

書評 心理学

その前段階を知りたいのだけど――『「話し方」の心理学 』 ジェシー・S・ニーレンバーグ



 私は会話をムダに思ったり、嫌ったり、けっこう偏った思い込みによって、会話との距離に苦労してきたと思う。学校というのは同じ友だちと毎日の時間をともにつぶす関係で、しまいに人との日常を維持する関係がつかれてきた。ひとりになりたいと思ったり、集団との共同陶酔の場をきらったりして、私の会話との関係は複雑骨折と回り道に彩られている。

 あたらしい職場に放りこまれたことによって、また会話の懸念が再燃しそうなので、話し方の本を数冊読んだが、私が知りたいのは会話の上達術ではなく、それにいたるまでの関係のあり方や、話してよいのか、距離をおくほうがいいのかといった関係や、場の空気をどう制御するかといった前段階だ。話し方の本は山のように出ているのに、対面の関係以前の段階にふさわしい本がなかなか見つからない。

 基本的に私は会話を軽んじてきた。人はどうしてそんなにしゃべるのが好きなのか、しゃべることにそんなにカタルシスがある意味がよくわからない。その場を維持するための会話もとてもきらいだ。同調圧力もきらいな上にそういう本ばかり読んで、ますます会話を避けて、人との関係を維持することに苦労してきた。

 この本は1963年に出された古典的名著と位置づけられる本のようである。会話についてのそれなりの洞察の深い心理学的なトピックが語られている。心理学的な洞察や解明を得ることができるので、直球的な会話の上達術をめざしたい人にはそれなりの実益のある本になるだろう。

 話にはどのような効用や目的があるのか、つぎのように語られている。

「人とのむすびつきを強く求め、注目されたい、自分を表現したい、人に支持されたいと願う。それが満たされないと孤独感に襲われるという人が多数派なのである。

知性を示したい、徳の持ち主であることを証明したい、スキルを認めてもらいたい、人に影響を与えない、感情を吐露したい、それなのに誰も受け止めてくれない。

会話は金銭に換えられないすばらしいもの――注目、関心、興味、共感、知恵――を相手に与えることができる。物質的なものでは満たされることのない深い飢えを、会話は満たしてくれるのである」



 会話には承認を求めたり、感情を発散させるという効果があるというわけだ。うれしかったり、いやな出来事があったら、人に話したくなる。自分でもちきれない感情は、だれかに話すことで発散される効用がある。だけど悪口ばかりいっているといやがられるし、自慢話や自分のことばかりしゃべっていても、いやがられる。会話とは、発散だけでは御しきれない規制がたくさんある。ぎゃくにそのような規制や禁止が多くて、私みたいに会話はいいやと回避してゆく者もいる。私はさしずめ書くことによって発散や承認を求めてきたから、会話はいらないというタイプだろうか。

 なかなか感銘した節につぎのような文章がある。スタイルのよいセクシーな少女とすれちがったジョーという男の反応についてだ。

「ジョーは性的興奮が少女の側にある、つまり彼女の一部だと信じて疑わない。…わたしたちもジョーのように、ほんとうは自分の経験なのにあたかも客観的な事実であるかのように語る傾向がある」



 こういう自分の体験と他人の体験を分けられない感じ方というものがあるのだな。たとえば病気であったり、イライラしているとき、他人もイライラしているように見えたり、いざこざにぶつかりやすいといったことを想像する。私の機嫌が悪いために、他人の機嫌の悪さに出会うことが多かったりと、他者との境界が未分化になる関係はあるかもしれない。荒れている職場なんて、ドミノのように不機嫌がまわり回っているということもある。楽しいことも、次のように指摘されている。

「自分にとって楽しいことは相手にもきっと楽しいはずだと思うのは幻想である」



 ほかに白黒はっきりせず、グレーゾーンに位置づけるという節にも共鳴した。二元論や全か無か思考ともいうのだが、人はこの世界を両極端のふたつに分けたがり、それ以外はいっさい存在しないと考えがちだ。強いか弱いか、成功か失敗か、ポジティブかネガティブか、そのほかはいっさいないと思いがちだ。

「的確な一般化はまさに人類の知識のエッセンスであり、膨大なリサーチの結果を手間ひまかけて蒸留し、ようやく得た一滴と言える。
…が、誤った知識は知識がゼロの状態よりも救いがない」



 心理学洞察からとらえられた話すことにかんする熟考がくりひろげられる本書であるが、私が知りたいのはこれではない。場におけるふるまいや、TPOにおける会話といった前段階のことをもっと知りたいのだと思う。自分でさえなにを知ればいいのか、不明確である。知識というのは、こういうふうにさいしょの入り口、とば口がいちばん開きにくいというものである。



カーネギー話し方入門 文庫版成功する人の話し方 7つの絶対法則人の心を一瞬でつかむ方法―人を惹きつけて離さない「強さ」と「温かさ」の心理学会話分析入門儀礼としての相互行為―対面行動の社会学 (叢書・ウニベルシタス)


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うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。神秘思想、仏教、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

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