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02 24
2019

書評 経済

読み返すべき歴史のアナロジー――『現代を見る歴史』 堺屋 太一



 堺屋太一氏が亡くなられた。1935年、昭和10年生まれだから83歳の享年。

 バブル崩壊後に堺屋太一のビジネス書をドラッカーとならんでたくさん読んだ。歴史のアナロジーや工業社会の展望について驚嘆すべきものがあり、おおいに参考にさせてもらった。その鑑識眼を買われて政治家に転出したが、あまり業績はかんばしくなく、晩年に至っては、わが青春よふたたびのような万博の再来をのぞんで、晩節を汚してしまったと思う。ビジネス書、歴史への慧眼はすばらしいものがあったとは思いますが。

 この本はバブル時の1987年に出されて、現代に似た歴史や文明の類似点から掘り出して、アナロジーとして比較するという博識で驚嘆すべき内容の本になっている。私は歴史の個別的な出来事をあまり記憶できないタチなので、堺屋太一の記憶力は尊敬するしかない。

 米ソ対立のアナロジーをギリシャ・アテネの対立に読み解き、超大国アメリカをローマ帝国にたとえ、終身雇用が終わる日本にはアイアコッカや中国五代の宰相の非情さや裏切りを比較し、弱兵の経済大国日本に宋を重ね、企業の出世ポストがなくなる時代には豊臣政権の朝鮮出兵に命運を占い、日本のマネーブームに世界大恐慌のわだちをたずねてみる。

 歴史とはこのようにアナロジーをもって、全文明を見晴らすことができるのかと驚嘆すべき鑑識眼で現代を見通している。

 いま改めて読み返してみると、アイアコッカと終身雇用後の非情で不忠な世の中を分析している箇所がとくに感慨深く、平成のあいだに非正規やブラック企業、賃下げで日本の企業がどんどん非情にドライになる世の中を、堺屋太一はすでに展望していたことになる。それを覚悟していれば、平成の転落の時代はもうすこししのぎやすかっただろうか。いまの日本はあいかわらず終身雇用や社会保障の渇望が強いメンタリティのまま、時代が転げ落ちていることと無関係に見なしている人もたくさんいそうだ。

 マネーブームつまりバブルと世界大恐慌の共通点に堺屋太一は言及しているわけだが、これは当時もやっぱり気づいたり、警鐘を鳴らす人もいたりして、そう慧眼が発揮されたわけではないと思う。ただ堺屋太一のように世界大恐慌にいたるアメリカの道筋をていねいに紹介した内容はそうないと思うし、だいいちどんなに危機を叫ぼうが、投資ブームに奔走した当時の人が冷静になれるわけなどないのだ。

 私はバブル崩壊後の時限爆弾のような不良債権の累積を、浅井隆のオオカミ本を読みながら脅えていたのだけど、こういう不安のおかげで興味がもてなかったビジネス書や経済書に手をのばせるようになったのだから、不安というのは知識の刺激剤と理解させてもらった。大恐慌再来本が飽きもせず毎年出されるのは、不安こそが知識欲を煽るものだからでしょうね。

 もしこの本の続編が書かれるとしたら、平成の没落のアナロジーとしてオランダやアルゼンチンをあげるのだろうか。日本の没落の範はどの国の歴史がいちばんふさわしいのだろう?

 浅井隆は百年ごとに経済の中心や覇権国家がいれかわってゆくというモデルスキーの波をなんども紹介していたのだが、この展望があるだけで、日本の経済的没落や中韓の経済的勃興は、歴史の必然としては傍観できやすくなる。日本は世界の中心に挑戦はするが、達成できない歴史の挑戦者としてだけ名を残し、西洋から東洋への文明移転をはたす橋渡しの役割だけを果たして、歴史から退場してゆくだけなのだろうか。

 堺屋太一でほかに読み返したい本として、『知価革命』がある。現在のインターネットによる知識社会を予測したもので、それをはるかに超える内容が、中世に範をとった物財に興味をなくし、知識や宗教にしか関心のもたない社会のありようを展望していたことだ。予測が近距離しか飛ばないものもあったが、この本は知識社会がどのようになるかを占う意味でまだ読まれてゆく価値はあると思う。

 さいきんビジネス書から遠ざかっていたが、げんざい堺屋太一に匹敵するような歴史の展望感をもったビジネス書作家は生まれているのだろうか。いつか来ると思っていたが、これからは堺屋太一のいなくなった世の中を生きてゆかなければならないのである。


知価革命―工業社会が終わる 知価社会が始まる (PHP文庫)歴史の使い方 (日経ビジネス人文庫 グリーン さ 3-6)東大講義録 文明を解くII―知価社会の構造分析 (日経ビジネス人文庫)「平成三十年」への警告 日本の危機と希望をかたる (朝日文庫)油断!/団塊の世代 (堺屋太一著作集 第1巻)


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神秘体験にいたる具体的方法

初めまして。

最近このブログを読み、ファンになりました。

サルトルと仏教、神秘思想との繋がりは特に秀逸だと感じました。

質問なのですが、神秘体験や仏教で言う悟りにいたる具体的方法について書かれている書物はございますでしょうか。

もし、あればご教授いただけると幸いです。

これからも記事を楽しみにしております。
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うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。神秘思想、仏教、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

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