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12 10
2018

映画評

おすすめのSF映画解釈本――『哲学の冒険』 マーク・ローランズ

哲学の冒険―「マトリックス」でデカルトが解る
マーク・ローランズ
集英社インターナショナル


 だれもが見たことのあるようなSF映画で哲学で読み解く本である。

 みなさんはSF映画を見た後、言葉でテーマやメッセージを解そうとするだろうか。なんとなく感情が揺さぶられただけで言葉にするのがむずかしいと感じる人は、ぜひSF映画を言語化する魅力を味わせてくれるこの本を手にとることをおすすめします。

 この本ではシュワルツェネッガーがオートストリア生まれの大哲学者といわれているから、シュワちゃんなんかただの子供だましのドンパチだと思っている人は考えが改まるでしょう。子ども向けの童話だって、心理学者の手にかかれば深い哲学的言語をこめたものとして立ち上がってくる。物語というのは、こちらの読解力のレベルの鏡なのである。

 この本でいちばん心に響いた章は、シュワルツェネッガーの『トータル・リコール』と『シックス・デイ』を読みといた章である。著者のマーク・ローランズは、「記憶は私なのか」という哲学的な問いをふくんだ映画だとして読み解く。

 『トータル・リコール』は記憶を書き替えられる映画ですね。その書き替えられた記憶を消して、ほんとうの自分に戻ったと思ったら、それも書き替えられた自分なのだというドンデン返しが待っている。いったいほんとうの私はだれなのか、と問われているわけである。シュワちゃんはこの映画ではアリストテレス寄りに、自分には変わらない私がずっとつづいていると考えているのだが、ヘラクレイトスのように10年前の私は、いまの私と同一ではないという考えに傾いてゆく。

 つづく『シックス・デイ』では記憶がまったく同じクローンが自分とおきかえられるという映画をつくって、またその問いに向き合ったのである。記憶がまったく同じなら、それは私なのかと。シュワちゃんはしだいに、同じ私がいるわけではない、自我など存在しないというヘラクレイトス的な考えになってゆく。「今日の我々は、昨日の我々の「生き残り」、とても「よく似た生き残り」である」といった考えまでたどりつく。

 このテーマって、ドラマや映画でも恋愛物語に頻出している。『私の頭の中の消しゴム』、『きみに読む物語』、『エターナル・サンシャイン』、『一週間フレンズ』、『君と100回目の恋』、『掟上今日子の備忘録』、『50回目のファーストキス』、『大恋愛』もそうだ。記憶が失われれば、愛した関係も私も失われるのか。記憶が愛なのか。記憶が私たちの関係なのか。つまり記憶が愛という人は、自我の存続を信じるアリストテレス派なのだ。

 私は存続した自我などないというヘラクレイトス派だから、この記憶論の一連のドラマには違和感をもっている。それはひこうき雲に乗ろうとして、いつまでも機体に乗れないもがきに思える。記憶など、もうどこにも存在しないのだ。存在しないものにしがみつく関係なんて。そういう意味で過去の記憶をまったく共有しないふたりの恋愛関係を描いた『僕は明日、昨日のきみとデートする』は、「記憶=私」説をひとっ飛びに飛び越えた傑作だと思っている。

 『マトリックス』の解釈ではデカルトの「われ思うゆえにわれあり」のコギト論が解かれるのだが、私はこの映画は神秘思想にしか思えないのだけどね。この世界は人間の脳がつくった幻だ。ただ私は知覚の世界まで幻と言い切る知見をもっていないので、あくまでも私たちが捉える人間関係とか社会像といったものが幻にすぎないと、とどめるが。過去だって幻といってもいいと思う。ただ、人はそういった認識をすっ飛ばして、すぐに知覚まで幻なのかと問うてしまうから、ややこしくなってしまう。まずはこの社会像や過去が幻という認識論を俎上に乗せないと、ほんとうの意味で神秘思想の役割は解せないと思う。私たちが嘆いたり、苦しんだりする見解は存在しない、つかむことはできないということだ。

 ほかにもたくさん興味深いSF映画の哲学的読解が説かれるのだが、言語化されてはじめてこういう問題なのかと深く染み入ることができるおすすめしたい本です。言語化によってはじめてこういう問題なのか、もっと知りたいと思えるようになる。哲学というのは、言語化の上にはじめて立ち上がる疑問なのだということが、この本でよくわかる。

 『ブレードランナー』はもちろん死を問うた物語であることはだれでもわかると思うが、未来に向かう存在というハイデガー的言葉を告げられることによって、だから死が恐ろしくてつらいのだという解釈も与えられる。『フランケンシュタイン』では生を選べずに生まれてくる私たちがバケモノとして生まれたらどういう気持ちなのかという世界も教えてくれる。透明人間になる『インビジブル』ではカント的な道徳論が説かれていたとは、ちょっとそこまで頭をめぐらせなかった。

 言語化することの意味や魅力を教えてくれるおすすめの本ですね。そして、言語化した疑問や問いをすぐに忘れたりしないで、いつまでも抱えもって、考えて、また関連本を読むことによって、哲学的思索を磨くことが大切なのはいうまでもないことですね。



哲学者とオオカミ―愛・死・幸福についてのレッスンマトリックスの哲学哲学はランチのあとで -映画で学ぶやさしい哲学-ジブリアニメで哲学する 世界の見方が変わるヒント (PHP文庫)「本当の自分」をどうみつけるか―映画でみる精神分析 (講談社プラスアルファ文庫)


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プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。神秘思想、仏教、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

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