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12 01
2018

書評 哲学・現代思想

人生のいちばん重要な問いかもね――『私の生きた証はどこにあるのか』 H.S.クシュナー



 タイトルがよいので、本屋で見かけたときから読みたいと思っていたが、図書館でみつけた。手元においておいて、赤線をたっぷり引いて残しておきたい本だったが、図書館で借りて読んでしまった。

 著者はアメリカ人のユダヤ教ラビで、この本はユダヤ教のかなり人生への懐疑的な見方をつきつける『コヘレトの書』を導きの書にしながら、話がすすむ。

 3章の「自分の利益だけを追い求める人間の孤独」は、現代人への疑問をじゅうぶんにつきつける章で、成功だけを追い求めて孤独に生きるわれわれへの人生の深い問いをつきつける。自分の成功だけを求める人生でいいのかという懐疑は、現代人にいつもきざすのではないだろうか。そういうシステムの中でしか現代は生きられない。

 かといって、著者のクシュナー、ならびにコヘレトは、宗教的な他者への犠牲だけに生きる人生も疑問にさらす。

 クシュナーはうまいことをいうのだが、アメリカ人は「アテネとエルサレムの双方の申し子」といって、快楽のギリシャと禁欲のユダヤ教キリスト教の双方に引き裂かれているという。クシュナーはユダヤ教のみの見方をもつのではなく、アメリカ人らしい欲望と禁欲の両方に目配りもできる感覚ももつ。

 クシュナーは痛みを避けるためにまったく痛みに不感症となるような生き方ではなく、痛みも感じることが愛や喜びをも感じられる生き方だと説く。私はこれには反対派であって、感情のない平安の境地をいちばんによしとする。感情をもたらす思考や認識というのは、ひとつの幻想や虚構であり、私はそんなメロドラマに身をゆだねるなという立場だ。だけど、感情主義な生き方はこんにちのいちばん共感をもって迎えられている価値観だとは思いますけどね。

 この章で、私も中学のころに好きだったサイモン&ガーファンクルの「アイ・アム・ア・ロック」に言及される。「僕はただの島、ただの岩。……岩なら傷つきはしない。島なら泣くことはないさ」。クシュナーはこのような生き方には否定的である。

 クシュナーは、宗教を疑問に思う人がいちばん疑問にもつ、神への服従がよい生き方なのかという疑問も俎上にのせる。ピアジェの『児童の道徳的判断』という本を手がかりに、親に全面的に服従していた子供時代と、権威に反抗したくなる青年の心理に言及する。クシュナーは宗教的服従をのりこえ、自分自身の高い規範に生きることを理想とする生き方をすすめる。

 コヘレトはさまざまな人生を懐疑にさらしたうえで、人生は無意味かもしれないが、それをうけいれ、つかの間の消えゆく喜びのなかに意味と目的を見いだせと説く。わずかな瞬間だとしても、味わい楽しめ。そういったささいな喜びをすすめるのである。

 9章でクシュナーは「私が死を恐れない理由」を説明するさいに、私は人から頼られてきた、ベストセラーも生み出したようなことをいっているのだが、これはあまりにもなんの成果もなしとげていない者には突き放しすぎだと思ったけどね。

 全般的にとてもよい本だと思います。私たちは人生が終わってしまえば、この世にはなにも残らない、なにか残さないと価値がないと思いつめるのだが、それにも失敗するかもしれないし、だいいちいつまでも消えない生きた証しはこの世に残せるものなのだろうか。

 マルクス・アウレーリウスを読むと、そういう名声の空しさを嘆く言葉に出会う。私は人生になんの価値も評価もみいださないで、それに嘆いたり、空しいと思う気持ちさえ捨てて生きるのが、いい生き方だと思っている。人生を人間の評価やモノサシで測る必要なんてない。言葉のない次元でただたんたんと生きる。それだけでいいと思う。



伝道の書―コヘレトの言葉 (TeTコンパクト聖書注解)なぜ私だけが苦しむのか―現代のヨブ記 (岩波現代文庫)恐れを超えて生きるモーセに学ぶ 失意を克服する生き方ユダヤ人の生き方:ラビが語る「知恵の民」の世界


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うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。神秘思想、仏教、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

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