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11 23
2018

書評 労働・フリーター・ニート

経営層の味方?――『「非正規労働」を考える』 小池 和男



 著者の立ち位置を知らないのだが、これは労働者側に立つというより、経営者側に味方する立場に立っているのかな。

 非正規は低時給で雇用調整弁で悲惨だという言説がマスコミにとうぜんに流されているのだが、それに疑問を呈して、人材選別機能の役割を果たしているのではないかと、ていねいに職場の現場に調査にいって、あるいはほかの調査を参考にして、腑分けしていこうとする。

 正規と非正規の現場での仕事分担をていねいに見て、非正規に人材選別機能はないのかと、細やかに見てゆく。みんな非正規は非熟練の仕事しか担っていないという頭があるのだが、現場でじっさいにどういう仕事分担やあるいは区分がされているのか、それはていねいに見られてゆく。正規と非正規の発生理由を、現場から立ち上げようとする目線は、はたして現今の非正規悲惨節はもっているのかという疑問をぎゃくに照らす。

 非正規におきかえることが企業にとって有利ならすべて非正規におきかえられてもおかしくないではないかと著者はいうのだが、経営者側、雇う側からみずから非正規になることはありえないわけで、著者はやっぱり経営側に立つ人なんだなという気がする。各時代、各地域での非正規のありかたを調査する目線はひじょうにていねいで、それは立場をこえた冷静さはもちあわせていると見えるが。

 非正規はバブル崩壊以後に急速にふえたといわれるが、50年代の造船産業を例にとっても、現場では半数が非正規だった。臨時工や請負工が半数を占めていたのである。そして本工への昇格率も見られてゆく。

 60年代の自動車産業、電機産業の各現場での非正規の分担などもていねいに見られてゆき、一筋縄でいかない調査逡巡を読書とともに味わうのだが、非正規悲惨説のステレオタイプだけでは見えてこない面もじっくりと見ることになる。

 製造業はまだマシだ、外食やチェーンストアの非正規は、完全に低時給、雇用調整の役割しかないのではないかという疑問にこたえるかたちで、これらの産業もていねいに見られてゆく。結論はどうなのかということは、議論や実際がいりくんでいて、読後にもはや思い出すことができない。非正規は、人材選別機能をほんとうに担っているのかは、本書を読んでたしかめていただきたい。

 60年代のアメリカの非正規の設計技術者も調査されるのだが、アメリカでは派遣はもともと高時給の専門職だったと聞く。日本のような単純労働、低時給、雇用調整のような悪い条件ばかり押しつけられたものではなかった。

 アメリカのホワイトカラーのとびきりシビアな人材選別も描かれているのだが、これは厳しいね。大学や法律事務所、投資銀行など専門職では7年後までに昇格が果たせないと解雇だ。それまでに業績を上げないともう不要の烙印を押される。日本ではゆるやかに長期的で、たとえ競争に負けたとしても解雇になることはない。アメリカの専門職の選別は、肝を冷やす恐ろしさで目に見えるわけだが、日本では表立って見えないだけでずっと選別の目にさらされるわけだ。ちょっとこの選別の構造と、その選ばれる恐怖の克服を考えてみたくなった。

 マスコミの非正規は悲惨だ、正規雇用に上げろという一般的な主張は、私も不満だ。ひたすら長時間労働で人生を支配されてしまうブラック労働の正社員をみんな望むかといえば、そうではないだろう。全体的なゆるやかな労働に縛られない社会が、私は望みだ。正社員に引き上げろだけでは、ひたすら働く社畜の増産にしかならないではないか。

 しかし著者のような非正規に人材選別機能はあるとスポットライトを細やかなところにまで当てようとする視点は、あまりにも経営側に利する捉え方だという思いは拭い去れない。立場を知らないばかりに、この本をうまく捉えられなかった。



なぜ日本企業は強みを捨てるのか日本産業社会の「神話」―経済自虐史観をただす日本の雇用--ほんとうは何が問題なのか (講談社現代新書)雇用身分社会 (岩波新書)正規の世界・非正規の世界――現代日本労働経済学の基本問題


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