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11 12
2018

主体性の剥奪

心理学による自己服従化――『魂を統治する』 ニコラス・ローズ

魂を統治する 私的な自己の形成
ニコラス・ローズ
以文社


 心理学を私たちの心をよいものにする善や明るいものと思っているような人には、心理学がいかに国家や産業に服従するように仕込まれているかといったフーコー的なダークな面を知るには、手にとってもらいたい本である。

 フーコーをかんたんにいうと、自己奴隷化や自己服従化はいかに歴史の知や学問におこなわれてきたかを、あぶりだす思想家である。難解な言葉にはばまれてしまうが、みずからの奴隷化や服従化といった言葉であらわしたほうがわかりやすい。

 私もたくさん心理療法の本を読んだし、神秘思想や仏教だって一種の心理療法である。どちらかというと、自分の心を助けてくれる知識、自分の心をうつや悲観から救い出してくれる正義の知識のようにとらえている。だけど、フーコーやローズのような産業や国家にみずから服従してゆく知識を授けるという警戒心も、やっぱり必要だと思うのである。心理学を絶対的な善と思うのは、避けなければならない。むしろ心理学をいちばん援用する人こそ、このような警戒心を自分の戒めとしなければならない。

 この本は戦時中や産業、子どもや家族、心理療法において、いかに自己奴隷化や自己服従化の知識が忍ばされていったかを、あぶり出そうとする本である。ただ、どちらかというとフーコー的なおどろおどろしさが喚起されたというよりか、歴史的な心理学の流れを概括するだけに感じられる面もあった。たんぱくに記述されて、恐ろしさを感じさせる面は弱かった。

 第二章「生産的な主体」では、経営管理の歴史を心理学を中心に記述したものに近いし、やっと第三章「子どもと家族のまわりの世界」の第二節「心理学者のまなざし」でようやく、子どもの心理学――比較し、標準化し、規格化する心理学の目的や視線に、不気味さを感じるくらいだった。

 けっきょく心理学というのは、産業や集団において貢献できる生産的な主体をつくりだす技術であって、判別と排除を基本にもつし、できる子にはよりいっそうの自己奴隷化、自己服従化が仕込まれるのである。優生学を根本にもつような知識ではないのか。大きな目的は、集団の産業的、軍隊的な力の強化であり、心理学はその判別と排除に貢献するのではないのか。

 集団や産業、国家に貢献することが心理学やその周辺知識の隠れた役割とするのなら、私たちはそれらの力からどうやって抜けだせばいいのだろうか。神秘思想や仏教は、たいがいの人の印象とはちがうが、社会統治された自己を解体する試みである。自己のコントロールは、思考や記憶において条件づけられている。そのような条件づけられた自己を、瞑想の脱思考化によって、おこなわれるものである。しかし仏教集団が、奴隷化や服従化をまぬがれている集団を形成しているとは、とても思えないのだが。

 私たちは社会に順応するために、より自己をコントロールし、まわりに迷惑や損害をこうむらせる存在にならないように自らを律する。そうして、産業や国家に服従してゆく主体をみずからの中に組み込んでゆく。私たちがよかれとやってきた心理学的知識が、産業や国家への貢献へと、知らず知らずのうちに水路づけられているのである。

 私たちはこのやさしくて、細やかな自己隷属化、自己服従化からいかにすれば、解き放つことができるのだろうか。心理学の知識を善の一面だけで捉えているようでは、隷属化のくびきからは逃れられないのである。もう一方の警戒の軸ももたなければならない。


生そのものの政治学: 二十一世紀の生物医学、権力、主体性 (叢書・ウニベルシタス)統治性ーフーコーをめぐる批判的な出会い自己のテクノロジー―フーコー・セミナーの記録 (岩波モダンクラシックス)監獄の誕生 ― 監視と処罰臨床医学の誕生

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うえしん

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