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10 21
2018

幻想現実論再読

言語ゲーム論の外――『「心」はあるのか』 橋爪大三郎



 この本が出された2003年ころは、少年犯罪ブームのころであり、「心心」ばかり叫ばれていた時期であったから、社会学者の橋爪大三郎は、もっと社会学的に考えてみなければならないという意味で、この話をしたのだと思う。この本は講座録である。

 豊かになったのだから物質ばかり追っていてはダメだ、もっと心の豊かさという声が叫ばれ、「心の時代」ということになり、なぜか少年犯罪の心理学が勃興してしまった時期である。

 心理至上主義は、なにもかも心や個人のせいにしてしまい、社会や政治が悪いと叫ばれない社会に追いこむ。他人や社会のせいにできないのである。心の時代は皮肉なことに、自分の心や個人の責任が問われる時代である。70年代みたいに政治や経済が悪いとは攻められない時代である。そして、少年は世の期待に応えるかのように犯罪を犯すことによって、心理学的洞察が求められるという皮肉な心の時代になった。

 橋爪大三郎は、「言語ゲーム論」をもちだしてきて、おそらくは、心理学至上主義の時代に、一矢を報いようとしたのだろう。もっと社会や政治が悪いと叫ぼうとしたのではなくて、社会というのは、言葉によってつくられたルールであり、心心ばかり叫ぶのはやめよう、ということなのだろうか。

 わたしはこの「心はあるのか」という疑問を、神秘思想や仏教の文脈で活かせないかという意図で読んだ。仏教は無我を主張するし。

 言語ゲーム論は、言葉で社会や現実のルールをつくりだし、それが社会に実在しているように思われていると指摘するわけだが、これは「社会構成主義」の主張とほぼ同じである。

 貨幣はただの紙切れにしかすぎないのに、言語ゲームの中ではそれは価値をもち、実在化しはじめる。神や仏も言語ゲームに巻きこまれると、価値が実在しはじめ、実体化してくる。これはまったく共同幻想論である。

 そして物事や感情は、自分の考え方次第といったのが自己啓発であるが、これは戦前、日本が戦時中に精神主義は現実をこえられるという思想を押しつけたために、戦後の日本ではたいへん嫌われている思想である。科学や唯物論では、精神でものごとを変えられるという思想をたいへん嫌う。

 科学は精神の実在を証明できないのだから、行動主義心理学や実験心理学が正当な科学的な学問とされ、心はないものとして扱われた。そういう唯物論がながらく支配した学問界であったが、臨床心理学や認知療法、または言語ゲーム論やポストモダン思想が、唯物論の牙城をしずかに侵しつづけている。

 仏教や神秘思想は、この言語ゲーム論や、現実は社会の成員の考え方によって構築されるという社会構成主義的な考え方をもっていた。それを迷妄として斥けさせようとしたのが、仏教である。どちらかというと、社会の結束としての「自我」に問題を絞ったわけであるが。

 この言語ゲームという社会の制度を手放してしまえば、人間でいられなくなるのではないかと、とうぜんに疑問に思う。社会の制度やルールは言葉によって組み立てられ、現実も言葉によって構成されている。橋爪大三郎はどこに出るのか、はっきり主張しないポストモダンはないといっている。鈴木大拙も、言葉をなくすなら本能のままに生きてしまうのではないかと疑問を提出しているのだが、覚者はその無心と有心は使い分けれるのだと答えている。

 「制度としての心」からどう抜けだせばいいのか、ポストモダンはそういうところにいきついたのだろう。しかし仏教や神秘思想ははるかむかしから、その問題には取り組んできたはずである。無心になれば、社会制度はどのように維持されるのか。残念ながら、わたしの浅学ではそのような見解を多くを見いだしていない。


はじめての言語ゲーム (講談社現代新書)仏教の言説戦略(サンガ文庫)言語ゲームとしての宗教言語ゲームが世界を創る―人類学と科学― (世界思想ゼミナール) (SEKAISHISO SEMINAR)現実はいつも対話から生まれる


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