FC2ブログ

HOME   >>  幻想現実論再読  >>  学者でありつづけた人――『意識の形而上学 (井筒俊彦全集 第十巻)』
09 10
2018

幻想現実論再読

学者でありつづけた人――『意識の形而上学 (井筒俊彦全集 第十巻)』

4766420802意識の形而上学 一九八七年 ― 一九九三年
(井筒俊彦全集 第十巻)

井筒 俊彦
慶應義塾大学出版会 2015-05-23

by G-Tools


 井筒俊彦は、93年の1月に、78歳で亡くなっている。その晩年の著作や対談がおさめられたのが、本書である。八千円もするので、図書館でとうぜん借りた。

 この本には、『意識の形而上学』や『マーヤー的世界認識』、『TAT TVAM ASI(汝はそれなり)』、『アヴィセンナ・ガザーリー・アヴェロエス「崩落」論争』といった論文がおさめられている。

 井筒俊彦は、どこまでも言語で区分けや仕分けをおこなった人で、禅や神秘思想の悟りは言語を手放すことをすすめるので、禅者であったというより、学者であったということがいえる。悟りをめざさなくてもよいのかという気もするが、明晰な言語分析は、おかげであとからきた人たちへの細やかな道しるべとなる。

 『東洋思想』では、東洋思想の根本的な座標軸を、「言語不信」であるといっている。

「まず、コトバは、その存在分節的意味機能によって、いたるところに存在者(事物事象)を生み出していく、と考えること。次に、こうして生み出された個々の存在単位は、すべて、個別的な語の意味が実体化されたものにすぎない、とすること。存在者が言語的意味の実体化にすぎないのであれば、すべての事物事象は、臨済の言うように、「みな、これ夢幻」であって真実性はではない、ということにならざるをえない。自分自身をはじめとして、自分を取りまく一切の事物事象を、そのままそこに存在する客観的対象であると思いこんでいる人びとは、だから実は、「いたるところに空名を見」ているのみだ、と臨済は言うのである」



 東洋思想は、徹底的に言語否定をおこなった。それに対して、西洋思想は言語の懐疑をほぼもたないのであって、この絶対的信頼性は、物質主義の地平にひろがり、心や感情の自律性を失って不幸におちいることも多いのだが、物質的豊穣さ、物質的軍事力をもたらして世界を支配するにいたった。聞き分けの悪い子どものほうが勝つとは、皮肉なことである。

 『マーヤー的世界認識』は、わたしの知りたい論文であったが、こんなことをいっている。

「しかも、本来的に神に内属するマーヤーの力は絶大である。客観的な存在世界、そこに現れる一切の存在者、神羅万象、がこの幻力の所産であるばかりではない。神自身すら――つまり全宇宙の絶対的主宰者としての至高神までもが――実はマーヤーの所産なのである。神は「自分自身の幻力によって」神という限定性を帯びて自分自身を仮現させる。ある意味であは、神は自分のマーヤーによって迷わされるとも言うことができる。要するに、万有を迷妄的に現象させるマーヤーの力は、神を眩まし騙すほどまでに劇烈であるということだ」



 わたしはこの世界がすべてマーヤーかどうかはわからないし、神という言葉さえ実在のものとしてあつかう気はない。人間のマーヤーは、言語や想像力、記憶がつくりだすものであって、これをはがしてゆけば、世界についてはまったく語りえるものをもたなくなる。つまりは、ただある状態だけに満足する。このような状態であれば、もう世界や神を語る必要もない。それこそ、禅でいう「糞ベラ」ではないだろうか。

 『~「崩落」論争』では、ガザーリーの時間論がいちばん共鳴できた。

「人間の心にはいろいろ異なる機能が認められるが、時間観念の源となるのはそのうちのどれか。ガザーリーは、それはワフムであると断言する。アラビア語の「ワフム」は、大体において我々のいわゆる「想像力」に当たる。時としては、むしろ「妄想」「妄念」と訳すことが適切である場合もある。とにかく一般的に言うと、心の外側に客観的に実在していない事物や事態を、形象喚起的に心の中で作り出す能力である。時間はそのような性質のものである、というのだ」



 人間の認識というのは、実在していない事物を、言語や想像力でつくりだす能力がある。時間はそのうちのひとつだと思う。そして、こういう実在していない事物に、人間のまわりは囲まれているのである。それは、過去が永久に存在しなくなっても、思い出せば、現実にあるかのように泣き笑いできるわれわれの認識のあり方がしめしているのである。

 『大乗起信論』は物資的存在は心がみだりにつくりだす妄念であるというすごい書物であるが、それを論じた本書の『意識の形而上学』は、べつに私の心に刺さるものを書かれていなかった。


東洋哲学覚書 意識の形而上学―『大乗起信論』の哲学 (中公文庫)存在の概念と実在性 (井筒俊彦英文著作翻訳コレクション)井筒俊彦の東洋哲学ルーミー語録〈イスラーム古典叢書〉 (岩波オンデマンドブックス)老子道徳経 (井筒俊彦英文著作翻訳コレクション)


関連記事
Comment
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。神秘思想、仏教、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

Kindle本、2冊発売中です。

google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
FC2カウンター

Page Top