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03 04
2018

幻想現実論再読

おすすめのガイド本――『20世紀の神秘思想家たち』 アン・バンクロフト

489203073220世紀の神秘思想家たち
―アイデンティティの探求 (Mind books)

アン・バンクロフト
吉福 伸逸訳
平河出版社 1984-01

by G-Tools


 神秘思想がどんなものか知らず、なにを語っているのかも知らない人は、ぜひ手にとってもらいたい神秘思想の魅力的なガイドになるおすすめの本です。

 原著は1976年に出版されたかなり古い本だが、神秘思想は年月で古びるものではない。

 神秘思想というのは、言語や思考でつくられる世界を虚偽や幻想として、斥けようとした思想である。母語が世界像を規定するといったサピア=ウォーフ仮説のその先をいった思想だと捉えても、まちがいはないと思う。

 言語でつくられた世界像をわれわれは信じてしまって、実在でないそれを現実にあるものとして、われわれは勘違いしている。これは言葉を捨てさせようとした禅とおなじ思想である。

 神秘思想はその先に神や超越的存在の一体感をめざす思想があるから、宗教とクロスするわけだが、禅はその言葉すらも排斥するから神秘思想ではないといった考え方もある。

 神秘思想はともかく言語を落としてゆく思想である。言語で神や霊を語ってしまうと、そのフィクションでしかない存在を現実のものと勘違いする過ちがまた発生してしまって、言葉は堂々巡りしてしまう。禅はとにかくそのことを警戒した。

 言語をまったく落としてゆく神秘思想と対立するかたちで、言語で創作や象徴を打ち立ててゆく流れもあって、それは本書では、ダイアン・フォーチュンやルドルフ・シュタイナーのオカルトとして紹介されている。この言語で神や霊の信仰世界を積極的に創造してゆこうとした流れが、世界宗教などのこんにちのおもな宗教である。

 この本では西洋に東洋思想を導入しようとした人たちを「橋を架けた人々」として、オルダス・ハクスリー、アラン・ワッツが紹介されている。ラム・ダスがないのはなぜだろう。翻訳では原著にあったマハリシ・マヘッシ・ヨーギやダグラス・ハーディングなどが、独断で割愛されている。

 クリシュナムルティやグルジェフ、カスタネダも紹介されているのだが、本書のいちばんの醍醐味は、ラマナ・マハリシの思想解説に極まると思う。

「ヒンドゥー思想は誤った同一視は無知に起因すると唱えてきた。自分の本性を誤解して、肉体的感覚や衝動と同一視し、あらゆる肉体感覚を「私のもの」と呼んでしまう。この所有欲にもとづいた考え方を超え、「私は誰々と呼ばれるこの肉体である」という感覚を超えて見ることができれば、われわれの直感には至福と解放の兆しが伴うようになる。
…肉体が自己であると思うがゆえに、世界がそれぞれ別個の自己をもつ多種多様の肉体で構成されていると思ってしまう。外見のみ注意をはらい、惑わされて、名前と形態からなる宇宙に思考を支配されてしまうのである。
ヒンドゥー教は、世界を支える創造力が名前でも形態でもなく、意識そのものだと教えている。われわれひとりひとりこの意識を体験するには、あらゆる認識の対象、つまり肉体中心の世界と自分を同一視することをやめればいいのである」



 西洋文化の科学的物質観の世界観をもっているわれわれには、このような思想は面喰うわけだが、より唯心論的な世界をここではじめて出会うという人も多いだろう。西洋は、物質と言語をあまりにも信じた世界に生きていて、その非実在性を考えた思想に入ってゆくことはない。それこそが、西洋の落とし穴だと思う。

 ラマナ・マハリシはこの本に啓蒙されて、本人の本も読んだことはあるが、あまりぴんとこなかった。

 この本ではほかにマルティン・ブーバーやテイヤール・ド・シャルダンも紹介されていて、マザー・テレサはかなり違和感があるが。

 神秘思想は神や超越的存在の一体感をめざすかなり怪しい思想もあるのだが、言語で創造された世界の虚偽や虚構性を鋭く指摘して、破壊をめざしたことに深い意義があると思う。わたしたちは、あまりにも言語に創作された世界の夢に埋没しているのである。

 神秘思想を怪しいと思う人も、これからもっと神秘思想を知りたいと思う人にも、とても魅力的なガイドとなってくれる本である。外側から抱いていた神秘思想のイメージを覆してくれる導き手となる本である。おすすめ。


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うえしんさんへ。ラマナマハルシのあるがままにだけではなくナチュラルスピリットのラマナマハルシとの対話三巻と英語の原著のTALKS WITH RAMANA MAHARSHIもおすすめしたいです。僕はこの狂気と嘘と欺瞞に満ちた物質主義の唯物論的な世界観からの解放にはラマナマハルシとニサルガダッタマハラジの2人がキーになるのではないかとか思っています。うえしんさんのおっしゃる思考と言語の虚構性の認識についても神秘思想の理解をさらに深めるための一助になると思います。ぜひお読みになられてください。
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