HOME   >>  幻想現実論再読  >>  言語フィクションのゼロ思想と、実在化の思想
12 18
2017

幻想現実論再読

言語フィクションのゼロ思想と、実在化の思想

 言語は実在しないフィクションの世界をつくりだすのだが、この世界をマーヤーや幻想として斥けようとしたのが、禅や仏教、神秘思想である。

 しかし、言語を斥けようとしてもあまりにも世界観に食い込んでいるために、たいがいの人にはそれがわからない。これを知らせようにも言語をつくらざるをえず、また言語フィクションの世界が無限に増築せざるをえず、またそれを実在化して信じる人が生まれることになる。

 なぜ言語フィクションの実在化の理解がこれほどまでに難しいかということ、言語や思考の活用こそが善であり、人類の栄誉や進化だと思われているからだろうか。

 人は、実在しないものであっても、言語にするとたちまちそれを実在しているものと見なす。映画やドラマのフィクションは、この世界のどこにも実在しないフィクションなのであるが、それを見るとたちまち現実にあるかのように泣いたり、笑ったりでき、あたかも現実の目の前にあるかのごとくに思えるようになる。このようあり方こそが、われわれの認識のあり方なのである。

 われわれは過去を思い出しては、悔恨や後悔にまみれる日々を送っているが、過去はもはやどこにも存在しなくなったものである。だけど、映画のフィクションと同様に存在しないそれに泣いたり、笑ったりできる。それが存在しないことを、もはや自覚することもなくなる。

 言語というのは、実在しない世界を構築して、その世界からいろんな角度のものの見方や洞察を重ねるものである。それが人間の知識の有効性や進歩性をかたちづくってきたのもたしかであるので、言語や思考の非実在性は省みられることがない。

 その言語フィクションの排斥や自覚をうながしてきたのが、仏教や神秘思想なのであって、苦悩や悲嘆は、その言語フィクションの実在しないものであるという究極のセラピーを説いた。

 けれども、言語フィクションの非実在性・ゼロはたいていの人には理解しがたいことなので、言語フィクションの創造に開き直ったのが、キリスト教の神や浄土宗のようなあの世の極楽・地獄はないだろうか。

 ほんらい宗教は言語フィクションの実在化をやめよといったゼロ思想を伝えてきたのではなかったのか。それが現在では、神というフィクションを信仰するから、科学信奉社会からは不信の目で見られている。

 科学社会や西洋世界というのは、言語フィクションの疑問やゼロ思想をもたない社会である。言語フィクションは善であり、進歩と思う社会である。それゆえに言語フィクションの苦悩の実在化に打ちのめされる。

 キリスト教は言語フィクションの実在化に開き直った宗教であると思う。神の実在を信じ、神に従うことを是とする宗教である。日本人の宗教観はこのキリスト教によってつちかわれたので、仏教の伝統が言語フィクションの抹消に励んできた思想であることを見ない。

 逆説的に言語フィクションの実在化を信じる立場が宗教と思われて、科学はそれに対立すると思われている。しかし、ほんらいは仏教や神秘思想は、言語フィクションの抹消・ゼロをめざしてきた思想である。科学は、言語フィクションの実在化をどんどん広げてゆく世界である。

 神のようなフィクションを信じるなんて理解できないと、われわれ科学社会は思うのだが、われわれの社会というものも、さまざまな言語フィクションを打ち立てる社会であって、宗教と同じようにフィクションの実在を信じる社会である。

 たとえば、わたしたちは国家や会社や学校があると思っている。しかしそれは「機能」や「約束」がわたしたちの社会に共有されているだけであって、建物の中に実在するわけではない。「機能」や「約束」が共有された実在しないものが、国家や会社や学校なのである。言語のフィクションはこのように、われわれの社会に現出させられる。

 これは神を信じる社会も、このような「機能」や「約束」に近いものと思われないだろうか。教会や寺社にあるのは、神が存在するという「約束」や「共有」があるだけではないだろうか。

 社会というのは言語でフィクションを打ち立てて、それがほんとうに実在するのかと疑問に思われることがあっても、その実在性を担保しつづける社会である。言葉で創造されたものは、よういに実在のレベルに引き上げられる。そうして、言語フィクションの実在に覆われる社会は、継続しつづける。

 言語フィクションによって創造されたものが実在すると見なすわれわれの認識は驚異的なものであって、言語でかたちづくられたものを容易に実在すると見なすようだ。言語は実在をどんどん浸食し、覆うのである。思考は実在化するのである。

 言語フィクションのゼロ化や抹消というのは、われわれには遠い道なのだろうか。


関連記事
Comment
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top