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12 02
2017

幻想現実論再読

西洋思想のいま・ここ――『瞬間を生きる哲学』 古東 哲明

4480015140瞬間を生きる哲学
<今ここ>に佇む技法 (筑摩選書)

古東 哲明
筑摩書房 2011-03-16

by G-Tools


 「いま・ここを生きろ」とよく聞くようになったのだが、それがなんなのか、なぜそれがむづかしいのか、よくわからないことがあると思う。

 それをスピリチュアルや仏教ではなく、西洋思想の系統から読み解こうとしたのが、本書である。

 過去に耽溺した作家だと思っていたプルーストが意外にも、この永遠の一瞬を求めていたとはじめて知ることができたし、アガムベンの「むき出しの生・ゾーエー」と「社会的な生・ビオス」の区別で、むき出しの生のほうが良い意味であることを知った。

 わたしたちはこの瞬間の生に生きることを、社会的に禁じられる。明日の成功や成果のために、今日いま、この瞬間を生きることを禁じられる。あしたのために、今日を犠牲にして、ずっと先延ばしにされるのが、われわれの生であり、勤勉思想である。

 ポール・ヴィリリオはそのような前のめりの人生をドロモロジーと名づけ、現代社会に警鐘を鳴らした。わたしたちはこの瞬間、いまの充足を刹那主義や快楽主義として、社会的に禁じられるのである。

 時間にはこの瞬間しかなく、この瞬間の充溢や幸福をめざした思索の数々が、西洋思想の中から探られるのだが、プルーストやアガムベン、ニーチェやマルクス・アウレーリウス、詩や芸術などにその試みがおこなわれていたことを知ることができるのが本書の効用である。

 古東哲明はハイデガーの思想にもそのようなことを求めているっぽく、東洋思想ばかりを頼みにしていたわたしには意外だった。

 ただ全体としてすこし違和感があったのは、古東哲明がこの瞬間の生の充溢や幸福を必要以上に求めていて、瞬間に生きることは枯れ木死に灰のような無感情が至福に通じる道だと思っていたわたしには、承服できかねるところがあった。

 感情的な体験をするためではなくて、感情的な生がいちど死んだところに、この瞬間はあるのではないか。感情というのは、クリシュナムルティのようにいうと、時間であり、過去から生まれるものだ。時間機制の中に、永遠の一瞬はない。

 感情というのは、言葉や心象といった死した仮想やフィクションから生まれるものだ。感情はそのスキマから生まれる。観念や感情の幸福をめざしてしまうと、あいかわらず「時間機制」に囚われてしまうのではないか。現時点のわたしではそう思う。

 あと、もう一点、この瞬間を生きることに必要な点が欠落していると思うのだが、言葉や思考の懸念や害悪の警告がない。感情の充溢をめざすことは、言葉や観念のうえにおいてであり、その充実は悲嘆や苦悩が立ち上がる場所を、もっと繁栄させることにつながる。

 わたしはこのような思考と感情のつながりにおける悲嘆や苦悩の警鐘から、この瞬間に生きる思想を学んだのが、古東哲明は、この瞬間の生の充実をのぞんでいて、それは落とし穴に思えるのだが。

 たとえば、自己啓発のウェイン・ダイアーとかリチャード・カールソンからはそのような警告をおおいに学んだ。だから枯れ木死に灰はその瞬間に生きるためにいちど通らなければならない道だと思っている。

 全体として本書はこの瞬間の生を生きる西洋思想の系統を知ることができるので、学びは多くあったと思う。ただ、スピリチュアルや神秘思想、仏教などから学ぶことを避けているからか、充実を求める方向に違和感をもった。

 さいごに古代ギリシャの存在驚愕(タウマゼイン)の思想は、この世界の神々しさを浮き上がらせる思想として重宝したい思った。

 「万物は無くてあたりまえ、無いことこそオリジナル、在ることがむしろ異様、なのに在る」。この世界や自分が存在することがふしぎなこと、あることが驚異であるということ、それを思えば、この世に生きていることが奇跡であり、祝福であることがうかびあがる。

 生まれる前の膨大な時間と、自分が死んだ後の膨大な時間の中に、ぽっかりと人はつかの間の人生を生きるが、ほぼ無である長大な時間の中で奇跡的にこの意識ある生を生きている。それだけが驚異であり、祝福である。この世は失われていることが当たり前の状態の中で、奇跡的にこの生を生きている。無から浮かび上がったつかの間のわれわれの人生。

 この世界があることが驚異であり、神秘だと思えることは、この人生の奇跡性を祝福することである。一期一会の思想に通じるものだが、この世界は二度と経験できない時間の中で、この瞬間や出会いを生きている。失われているもの、ないものが当然の中で、この瞬間を愛でることの大切さが、生まれてくる思想ではないだろうか。



〈在る〉ことの不思議ハイデガー=存在神秘の哲学 (講談社現代新書)現代思想としてのギリシア哲学 (ちくま学芸文庫)他界からのまなざし (講談社選書メチエ)瞬間の君臨―リアルタイム世界の構造と人間社会の行方


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プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。神秘思想、仏教、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

初のKindleセルフ本、発売中。他人に感情を振り回されてばかりいる人、過去を後悔してばかりいる人、必読。長年の習慣から解放される心理セラピー。



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