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11 24
2017

幻想現実論再読

人間の認識の限界と誤り――『ひとは自我の色眼鏡で世界を見る』 加藤 茂

4326153334ひとは自我の色眼鏡で世界を見る
―認識の構造と限界

加藤 茂
勁草書房 1998-04

by G-Tools


 人はどのようにして、認識の限界やゆがみを知るうるか。

 たとえば、サピア=ウォーフ仮説のように母国語が見える世界観を限定するという説や、ユクスキュルのような生物の感覚器官が限定する知覚世界を知ることであったり。またはニーチェの真理は欲望であるといった説や竹田青嗣の世界ルール像であったり。

 わたしはけっこう自己啓発にみちびかれた部分も大きい。自己啓発はノーマン・ピールやウェイン・ダイアーのように唯心論や心の原因に帰る説が多い。ストア哲学もそうだが、心の原因説をとることによって苦悩をなきものにできるという説は、わたしたちを客観主義や外界主義の世界観から解放するものである。

 客観主義というのは、人のせいにばかりにして、感情の解消も他人に依存することになる。その解消は心の創造自体を直す、変えるべきだという唯心論や自己啓発は、認識のありかたをすべて自分の心に納めなおすのである。客観主義は、まるで自分の認識の限界を知らないかのような世界観をもたらす。カメラを使っているのに、カメラの性能をたしかめたこともないかのようである。

 この本は哲学的な洞察によって、みずからの認識の限界を色眼鏡という表現で捉えなそす試みをしている。自己啓発のように自分の心の持ちようを変えるような展開は期待できないのだが、認識の歪みをあらためて捉えなおす機会になるだろう。

「ひとは自分の甲羅の寸法に合わせて世界を測る。」
                A・ハックスレー



 おもにとりあげる人物は、モンテーニュやベーコン、ニーチェやショーペンハウアー、ユクスキュルやボードリヤールといった西洋の哲学者である。仏教のマーヤーや教義もふまえた議論をおこなっている。

 色眼鏡を、生理-生物レンズ、社会-文化的レンズ、個人-心理的レンズという三層にわけて議論している。

「われわれはラジオのチューナーのような耳を持ち、また特定の番組を選び出すテレビのチューナーのような目を持っている。ある特定の帯域の振動数しか通過できないフィルター、ある特定の光波しか分光できないプリズムガラス、それがわれわれの神経系なのだ、と。
…感覚は、実在全体のなかからわれわれの感覚器官が選んで切り取ったものである限りにおいて、すでに最も原始的な解釈の産物である。感覚からしてすでに、それは感覚主体を写す鏡なのだ」



 生物学的な認識の限界を語っているわけだが、知覚世界が解釈とするのなら、その基盤はなにもないもの、無、実在しないものと捉えることもできる。こちらのほうに視線を向けるほうが大事で、わたしたちは感覚や言語がつくった仮想世界を実在のものと見なす過ちにおちいるのである。

 著者は言語の虚構性やフィクション性、仮構性にも自覚的である。

「「個人はすべて各自がそこへ生まれ落ちた言語習慣の受益者であると同時に犠牲者である――蓄積された他人の経験の記録を言語によって手に入れることができるかぎりにおいて受益者であり、減量された意識だけが意識であると言語ゆえに信じ込み、概念を原資料そのものと取り違え、言葉を実物と取り誤るかぎりにおいて犠牲者である。」と」 オルダス・ハックスレー



「人間は記号によって不在を支配するが、それによってまた不在に支配されてしまう。世界を間接的に支配しながら、間接的な世界に支配されてしまう」



 人間の宿痾というのは、言語を実体化することであり、それが現実にあると思うことである。その言語で仮構された世界像こそが現実の世界であると思い込み、それが想像された無、実在しないものという側面が見えなくなってしまう。わたしたちはこの壮大な過ちにおちいっているのである。

 そして、そのような言語の実体化、実在化の過ちを教えてくれるのが、禅や仏教や神秘主義といった非科学的なものであるのは、どういうことだろうか。わたしたちは、自分が使っているカメラをちっとも検討しないカメラを頭にすげかけたままになっているのである。まるでメガネをかけたまま顔を洗っているかのようだ。

 なお、著者の加藤茂氏はネットではほぼ言及されている場を見つけることはできなかった。


エセー 1 (岩波文庫 赤 509-1)ツァラトゥストラかく語りき (河出文庫)知覚の扉 (平凡社ライブラリー)意志と表象としての世界〈1〉 (中公クラシックス)生物から見た世界 (岩波文庫)



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プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。神秘思想、仏教、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

初のKindleセルフ本、発売中。他人に感情を振り回されてばかりいる人、過去を後悔してばかりいる人、必読。長年の習慣から解放される心理セラピー。



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