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11 09
2017

幻想現実論再読

幻想の二つのベクトル、科学と芸術――『幻想論』 アンドレ・モーロワ

51DMFSFAoxL__SX218_BO1,204,203,200_QL40_幻想論 (1971年) (新潮選書)
アンドレ・モーロワ
新潮社 1971

by G-Tools


 西洋の幻想論には期待していないのだが、東洋のほかの知見から知ることがないかと読んでみる。

 東洋ははるか先、言語や思考の幻想や非実在性にふみこんでいるのだが、西洋は言語の幻想性すら問題にしない。西洋にとって言語は絶対堅固な岩盤なのであるが、東洋では砂上の楼閣にしかすぎない。

 言語はそれが構築した世界の実在性を信じさせるのだが、東洋ではそんなものはない、実在しないといってきて、それを人間の迷妄やマーヤー・幻想といってきた。言葉の非実在性を説くことは、人の悩みや悲しみも実在しないということなので、それを苦悩の解放だと捉えてきた。東洋は苦悩はマーヤーだといってきたのだが、言語に疑問をふさない西洋には、そんな考えは及びもしない。

 アンドレ・モーロワという人は、文学者や評論家であり、アランに影響をうけた人のようだ。

 本書は、人間のふたつの幻想を並列して、科学は幻想をそぎ落す方向をめざしているのに、文学や芸術では幻想をもっと創り出すのはなぜか、といった問いをしている。ふたつの相反する幻想の方向を、どうして人は望むのか。

 科学というのは新しい発見がもたらされれば、それまで真実と思われていた世界観はとつぜん偽や幻想になる。科学はこういった訂正と修正のくりかえしなのであって、われわれがいま信じている世界観も、いっときの真実と信じられている幻想にしかすぎない。

「われわれの脳髄は、そのようなことを企てるために作られているのではなく、自分の生活空間という限られた範囲内で、各個人に有益な世界の映像を与えるために作られているのである。われわれはこの宇宙のなかで、極微な場所を占有しているにすぎないので、想像もつかない全体性について語るのは向こう見ずなことなのだ」



 つづく芸術論では、科学とまったく逆のこと、幻想をそぎ落すのではなく、幻想こそがなぜ求められるのかということが問われる。

「モネ、シスレー、ピサロたちは、文字通り、マルヌ河やセーヌ河の美しさを、ユトリロはパリ郊外の白い家々の美しさを<創造>したのだ。「ただ芸術によってのみ、われわれは自己から抜け出し、自分の世界とは同じではないこの世界を、他人がどう見るかを知ることができる」」



 西洋であれ、日本であれ、幻想や創造の力を信じすぎていると思われる。だから言語や思考を最大限活用することばかりに気を奪われ、その害悪や欠陥に目をふさぎたい。そのために思考がつくりだす苦悩に閉じ込めれている人もたくさんいるというのに。そして、なぜか苦悩の幻想を解消する方法は、神という創作を信じる宗教のカテゴリにあるのである。

「苦しい情念の最大の原因、精神の平和の最大の敵は、想像力であるからだ。われわれが、考える対象もなく休息をはじめるとすぐに、われわれの想像力は「未来とか過去のなかを」さまようのだ。未来の場合には、想像力はさまざまな危険、病気、愛や、職業や、友情などの挫折を見せてくれる。過去の場合には、想像力が過ちを探し出して修正しようとする。…

想像力をなだめるにはどうすればいいのだろうか? われわれの注意を、想像力が変容できない見世物の上に固定することである」



 この先のはるか先にいったのが東洋であって、思考が見せる苦悩を幻想やイリュージョンとしてしりぞける方法を、思考を断つ瞑想という手段でおこなってきた。苦悩をつくるのは思考や言語であって、それは幻想にほかならないとその根っこから断とうとしたのである。

 西洋がこの段階にふみとどまろうとするのは、たとえ苦悩が大きくても、物質主義の貢献や恩恵をつよく信じるからだろう。言語の実在視は固定化された世界観を導き、固定化された物質の世界で改善や検討がくりかえされるからだろう。

 そういう世界観の中では、個人個人の苦悩は、交通事故の犠牲者くらいにしか思われていないのだろう。


唯幻論大全錯覚する脳―「おいしい」も「痛い」も幻想だった目に見える世界は幻想か?~物理学の思考法~ (光文社新書)「自分」を生きるための思想入門 (ちくま文庫)リチャード・カールソンの楽天主義セラピー


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プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。神秘思想、仏教、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

初のKindleセルフ本、発売中。他人に感情を振り回されてばかりいる人、過去を後悔してばかりいる人、必読。長年の習慣から解放される心理セラピー。



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