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07 17
2017

映画評

この瞬間は永遠の別れ――『ぼくは明日、昨日のきみとデートする 』 七月 隆文

4800226104ぼくは明日、昨日のきみとデートする (宝島社文庫)
七月 隆文
宝島社 2014-08-06

by G-Tools


 映画が好きすぎてずっとこの物語空間にひたっていたくなるので、原作のほうもあじわうことにした。

 この物語のよさは、さいしょの出会いが、最後の別れであるという、いまこの瞬間が永久に帰ってこない、二度ともどらない貴重な瞬間を告げていることだからだと思う。

 この瞬間、この時間はいちど過ぎ去ってしまえば二度と戻らない。この瞬間は永久に去ってしまうのだが、人はその貴重さを忘れて、同じことのくりかえしや明日も同じことがずっとつづくと思っていたりする。きょうの出会いが永遠の別れだと思いもせずに、人は時間をまんぜんとすごす。

 この物語はパラレルワールドという設定をつかって、出会って親しくなってゆくいちばんうれしい瞬間を、彼女にとっては永遠の終わりになってゆくという悲しみを重ねたことに、消し去りがたい余韻をひきずってしまうのだと思う。

 それは自分が思っていた感情とまったく違っているものを相手や他者はもっているとかもしれないという驚きと距離を与えて、秘密を知ってからの彼女の心の動きをなんども確認したくなる感銘を与えるものになっている。

 タイム・パラドクスものは過去をひたすらやり直すことにこだわってきたのだが、この物語では時間を変えられないいまこの瞬間の大切さが説かれるターニング・ポイントとなる記念的作品になるのではないかと思う。

 原作のほうはセリフばっかりのラノベ文体で、地の文のすくなさが、映画の重みとくらべて軽すぎるように思えたのだが、地の文の多さが作品の深さと思い込むのは、わたしの偏見にしか過ぎなかったのだろうか。

 映画は克明におぼえているので、原作との違いもよく見えて、変えた場所やセリフを抜いたりしたことにどんな意味があったのか考えさせられた。

 映画では宝ヶ池で高寿が溺れたことになっていたのだが、原作では震災で愛美に助けられたことになっている。

 宝ヶ池で溺れて助けた設定のほうが、命のつながりを示唆する内容としては優れていると思う。おおむかしの人は泉や川に誕生前の命は宿っていると思われていて、だから現代でもその言い伝えが残っていて、たまに橋の下で拾われたとか親にいわれたりする。生命の誕生や再生には、かたちのないものに戻る水は、大切な象徴を担っている。

 映画ではさいしょの出会いに駅のホームで語り合うのだが、原作では宝ヶ池まで歩いてゆくことになっている。「また会える?」と聞いて、彼女は泣き、抱きつくことになっている。ほかにも原作のほうが、彼女の気持ちの深いところを表現しているね。

 宝ヶ池はパラレルワールドとの境界に位置し、その近くの施設に住人が暮らしていることになっている。

 デートの場所が、金閣や清水、銀閣寺にもいくことになっていて、映画では伏見稲荷になっているが、あの数多くの鳥居の並びが時間の象徴として適していたと監督のインタビューで聞いた。

 愛美のセリフが、小松菜奈の独特なイントネーションやクセにかぶって思い出されて、この女優は強烈な印象を残すんだなと。失うことがわかっているからこそ、愛しさは深まる。

 映画では、ラストに愛美がたどった日々をうつしだすのだが、原作ではさいしょの出会いにたどりついた場面だけである。映画でもこの愛美のたどった日々をもっと深く描いてほしいと思ったが、この秘密を知った上での彼女の心の動きがたまらなく愛しく切ないのである。

 映画から先に見て、映画で気に入ったから、原作の小説のほうは映画みたいに気に入ったわけではない。わたしのなかでは映画のほうが勝ちである。原作から先に読んだ方はどう思ったのでしょうか。

 映画が好きすぎて、余韻とこの物語空間に戻りたい気持ちがまだ沸いてきて、困ったものだ。


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