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03 24
2017

幻想現実論再読

インディアンの共同幻想論「トナール」――『気流の鳴る音』 真木 悠介

4480087494気流の鳴る音
―交響するコミューン (ちくま学芸文庫)

真木 悠介
筑摩書房 2003-03

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 考えることに価値をおいてきて、「付け足すこと」ばかりに向かってきた人には、はじめて出会う「そぎ落とす」ことの衝撃に出会える本だろう。

 メキシコ・インディアンの呪術師ドン・ファンから教えをうけた人類学のカスタネダが著述したものを、社会学者の真木悠介が要約した本になっている。

 これは「共同幻想」や「個人幻想」の解除の仕方をまなんだのであり、メキシコの呪術師はどこでそんな知識を獲得したのだろう。そういう人間の虚構世界の構築を、「トナール」という言葉で表現している。

「人は世界はこういうものだぞ、とおまえに教えてきたことさ。わかるか、人はわしらが生まれた時から、世界はこうこうこういうものだと言いつづける。だから自然に教えられた世界以外の世界を見ようなぞという選択の余地はなくなっちまうんだ。

いったんこのような「世界」のあり方が確立されると、われわれはそれを死ぬ日までくりかえし再生しつづける。たえまないことばの流れによって。

「わしらは自分のなかのおしゃべりでわしらの世界を守っておるのだ。わしらはそれを新生させ、生命でもえたたせ、心のなかのおしゃべりで支えているんだ」」



 みごとな共同幻想の構築の仕方を語っている。その「トナール」はインディオの守護霊であり、特定の動物に結びつけられているのだが、われわれの拘束されている世界像以外のなにものでもない。

 このような共同幻想にとりこまれていると、人は現在の充実より、時間ののちの成果や目的にとり憑かれるようになる。そうして人生の意味や明晰にこだわるようになり、「ナマの現実」からずっと疎外されてゆくことになる。トナールの対比として、「ナワール」という言葉がつかわれる。

 虚構世界はわれわれに感情をもたらし、後悔や悔恨、羞恥や悲しみをいつももよわせ、そうして人生の悲劇や苦労ばかり味わうようになる。

「わしには履歴などないのさ。履歴を消してちまうことがベストだ。そうすれば他人のわずらわしい考えから自由になれるからな」



 われわれは過去を思い出し、過去を反芻し、他人が自分にいったこと、自分がおこなったこと、いやな気分や不快になった出来事ばかりしょっちゅう思い出している。そのために人生は辛酸や陰惨な出来事で満たされる。これもトナールとよばれる個人幻想なのであって、時間機制という共同幻想が、われわれをいたぶるのである。

 カスタネダは「だれが、そんな望みをもつの?」と叫ぶ。かれは自分の履歴に愛着を感じていて、家系の源は深く、「わたしの人生の連続性も目的もなくなってしまう」と嘆く。それこそが、トナールのもたらす世界なのである。

「おまえは生活の意味をさがそうとする。戦士は意味などを問題にしない。

生活はそれ自体として充全だ。みちたりていて、説明など必要とせん」



 わたしたちは言葉や意味の世界にとらわれている。そのほかの世界も思いもよらなくなっている。トナールの世界から一歩も抜け出れなくなってしまうのである。

 禅や仏教も、この「トナール」からの脱出をもくろんでいるのであって、一般人にはそれが届かないようになっている。仏教は道徳による服従を教えられるものであり、政治的に服従する民なのだという見方で、遠ざけられる。まあ、トナールから抜け出すのはいかにむずかしく、人はどこにいてもトナールの囚人ということだね。


ドン・ファンの教え (新装版)力の話(新装・新訳版)イクストランへの旅(新装版)分離したリアリティ (新装版)未知の次元―呪術師ドン・ファンとの対話 (講談社学術文庫)


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