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03 22
2017

幻想現実論再読

人は存在しないものに泣いたり、悲しんだり、苦しんだりしている

 想像は存在しないものという実感が強くなると、過去を思い出して泣いている人は、存在していないものに泣いていると見えて驚いた。

 過去の思い出なんて、現在はどこにも存在しないものである。しかしわれわれは現実にあるかのように、目の前にあるかのように過去を思い出して、悲しみに襲われてしまう。われわれのごく一般の反応である。

 われわれは思い出に浸ることを甘美なことであり、よいことだという思い込みに生きている。過去はわれわれにひんぱんに思い出されて、過去は喜びや悲しみをもよおす身近なものである。

 しかし、時間を見てみると過去は瞬間ごとになくなっていき、この地球上から永久に去ってしまう。奈落の底に呑みこまれるように存在しなくなってしまう。

 われわれの過去はもはやどこにも存在しないものである。

 わたしたちが思い出している過去とはなんだろう。もはや心象や回想や、記憶でしかない。そしてそれはどこにも実体や現実のものとしては、存在しなくなったものである。

 人は心象というものを介在させているが、もはやどこにも存在しなくなったものに、泣いたり、悲しんだり、苦しんだりしている。

 われわれは過去を思い出したり、過去を反芻し反省したり、改善することをよいこと、奨励される社会に暮らしている。そして、存在しなくなった過去を現実のように、実体のように思い出しながら、過去をいつまでも再現させる。

 しかしそれはどこにも存在しなくなったものである。まったくの無であり、空っぽであり、どこにもないものである。

 われわれはたいそう映画やマンガなどの物語が好きである。しかしこれも虚構の物語であり、どこにも存在しないものである。

 虚構は虚構とわかりながら、それを楽しんでいる。だけれど、われわれはそれで泣いたり、悲しんだり、人生を揺さぶられるほどの感動を味わったりする。この世のどこにも実体としては、存在しないものなのにである。

 もし映写されたものが見えずスクリーンの板しか見えない映画館を見たら、人々はただ板に向かって泣いたり、笑ったりしているさまが見えるだろう。本にしても、紙の箱にたいして、笑ったり、泣いたりしているさまが見えるだけである。

 われわれは存在しないものにたいして、虚空なものにたいして、ずいぶんと感情を揺さぶられる生き物なのである。

 そして時間が瞬間ごとに去ってゆくのなら、現実というものも瞬間に存在しなくなるものであり、われわれが捉えている現実というのは、もはやどこにも存在しなくなったものである。それはなんだろうか。過去の心象であり、記憶であり、想像された、頭の中にしか存在しないものである。

 われわれの現実というものこそが、虚構であり、想像であり、どこにも存在しないもの、無や虚空ではないだろうか。

 われわれは過去を思い出したり、考えたり、思ったりすることを、現実に存在しない絵空事とは捉えない。現実に存在しているリアルなものと思って暮らしている。

 人はだれかに過去にしてもらったこと、過去に言われたこと、過去の約束などを、人と守りながら、この社会で暮らしている。過去は「実在」しているものである。だからこそ、われわれ自身も過去の実体性を再現しながら、社会のルールを生きている。

 われわれは存在しない記憶や過去、考えたり、思ったことを「実在化」しなければならない社会に生きている。それがこの社会のルールである。

 しかしそのことによって過去の実体化は、われわれに何度も悲しみや恐れを無限に再現される苦しみになったりする。過去はもはや終わり、どこにも存在しなくなったものに、それは際限なくわれわれを追いつめるものになった。

 過去はいつまでも終わってはならないものになった。過去は目の前に、現実にある物体のようにリアルに存在するものになった。

 われわれは解除しなければならないのかもしれない。それが悲しみや苦しみをいつまでも引き起こすなら、それがまったく存在しない空っぽなものであることを、ときには思い出さないといけないのかもしれない。

 人に思ったり、考えたり、世の中について思うこと、捉えるということもすべて、「実体」としてはどこにも存在しないものである。それは想像や空想や、観念として頭のなかにあるだけである。地球上のどこにも存在しない。

 われわれはずいぶんと想像にすぎないものを現実に存在するものとして暮らしている。それを存在しないものとしてつねに心に刻むようにすれば、われわれはずいぶんと観念に追い込まれるものから解放されるのではないだろうか。

 われわれは存在しないものに泣いたり、悲しんだり、苦しんだりしている。それはなにもない空っぽで、奈落の底のように存在しないものなのである。


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