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03 19
2017

幻想現実論再読

自我の情けなさ――『グルジェフとクリシュナムルティ』 ハリー ベンジャミン

4795223661グルジェフとクリシュナムルティ
―エソテリック心理学入門

ハリー ベンジャミン Harry Benjamin
コスモスライブラリー 2000-09

by G-Tools


 禅やキリスト教などでよく「自己を落とせ」といわれるのだが、なんのことかよくわからないと思う。この本を読めば、自我の情けなさがあぶり出されていて、自我にしがみつくのはやめようと思える本である。

 この本はおもにグルジェフの思想を紹介したものであり、正確にはその研究であるモーリス・ニコルの『グルジェフとウスペンスキーの教えに関する心理学的注解』から得られたものが主になっているが、翻訳はされていない。

「われわれが自分自身と呼んでいるものは、単に想像上の存在または錯覚にしかすぎない。それはなんら存在しないのである」



 グルジェフはいくつもの「わたし」がぶつかりあっていて、それをなんとか統合して同一のものとしてあつかっているのが、われわれの自己像なのだという。そしてそれは社会的に条件づけられた「機械」にしかすぎず、われわれはこの条件付けをくりかえし反応する機械でしかないという。ほかの覚者がいうような「眠っている、夢見ている状態」のことである。

 それを思考したり、言葉でものごとを捉えたり、過去を思い出したりして反芻していることと捉えていいかもしれない。頭の中の「わたし」はそうやって意識の中心をしめ、人にどう思われているか、あのときにあの人の反応とかを思い出しながら、そういう思考する意識を「わたし」だと思って暮らしている。

 その自我の仕事や存在理由はなにかというと、ハリー・ベンジャミンはこうのべる。

「人間は――どれほど他人によって否認されても――自分が何をしようと、言おうと、あるいは考えようと自分は正しいと自分自身の内部で確認しつつ、暮らしていくのである。

自己正当化の明白な目的は、われわれの士気――われわれが自分だと思っているパーソナリティ=人格の士気――にとって不可欠の、われわれ自身のプライドとわれわれ自身への信念を強めることである。

それは自身に何らの真の価値をもたず、そして基本的にそのことを知っているので、まったく錯覚に基づいた自分自身の価値感覚なしには生きることができないのである」



 そしてその自我がやることといえば、まるで人の頭をのぞいたのかと思えるほどの「頭の中のおしゃべり」というものの内容があからさまにされる。

「われわれは非常にしばしば、他人について、またかれらがわれわれを扱う、またはわれわれを軽んずる、またはわれわれを避けるなどなどの恥ずべきやり方について、しゃべっている。

例えば、われわれは、一定のこと――他人からの敬意など――はわれわれに帰せられる、他の人々はわれわれを好きになるべきだ、われわれは常に幸福であるべきだ、われわれは楽しい仕事、快適な家庭生活、等々を持つべきだ、外部のものごとがわれわれの安楽や楽しみを妨げるべきではない、などなどと思うかもしれない。

内なるおしゃべりの基盤は、どんな形でわれわれに来るにせよ、まさに内なる不平不満なのである。

要するに、内なるおしゃべりを通じて、われわれは自己正当化と自己賛美キャンペーンをおこない、それによって自分自身を最高度の自己評価価値に保つのである」



 頭の中のおしゃべりに覚えはないだろうか。自我というのはじつに情けないことをしている。しかもそれは想像上の産物にしかすぎない。わたしたちはこういう思考や自我をわたし自身だと思い込み、同一化しているのだが、それによって自我に翻弄され、自我の悲哀や悲嘆にくれることになる。この過ちから離れることが、わたしたちに心の安楽をもたらすのである。

 このような自我や思考の働き方を奥でながめている「真のわたし」がいるとベンジャミンやグルジェフはいうわけだが、そうなると宗教的段階になるわけだが、こういう自我からの離脱が、心の平安をもたらすのはまちがいない。

 この本は自我の情けなさから、自我の離脱をめざせるようになるだけで、じゅうぶんに価値ある本だと思うが、ちょっとほかの点でエソテリズム=秘教的すぎたり、グルジェフの独特の宇宙観がのべられていたり、研究書なむずかしさもある。

 人の頭をのぞいたのかと思うほどの情けない自我のありようを記述されるだけで、大きな収穫である。こういう「頭の中のわたし」の同一化はもう避けたいと思えるようになる。それが「自己を捨てる」ということではないだろうか。

 「自己を捨てろ」とあちこちでいわれることがわからないなと思う人は、この本に答えがあったといえるかもしれない。


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