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01 12
2017

書評 社会学

少子化、長時間労働の根底にあるもの――『家事労働ハラスメント』 竹信 三恵子

4004314496家事労働ハラスメント――生きづらさの根にあるもの (岩波新書)
竹信 三恵子
岩波書店 2013-10-19

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 『逃げ恥』の「家事労働はなぜ無償なのか」という問いは、70年代にフェミニズム界で議論されたむかしの課題であって、その後どうなったのかという疑問のほうが大きかったのだが、この本では現在の課題のほうがおもにさぐられている。

 女性の家事育児労働が無償なのは、男性の長時間労働問題とも重なっており、女性が家庭に入ると賃金を得られない無職になるから男性は家庭の全収入を稼がざるを得ず、男性が長時間労働にはまってゆく構造とセットである。

 妻が外に働きに出ようとすると夫は家族のために必死にがんばってきた努力を無にされたように憤る場合もある。しかし妻が働くことのおいしさを実感したある男性は、そんながんばりがばかばかしくなり、積極的に家事をするようになった。妻は育児の孤独さを解消でき、夫は強制労働の苦しさから抜け出せたのである。

 男性の家事をすべて妻にまかせられて仕事だけの生活に役割特化した結果、男性の過労死があとをたたなくなったとしたら、このゆがみを訂正し、男性も家事ができる女性的な働き方が標準になるべきなのである。

 非婚化と少子化というのは、結婚育児コストや大黒柱の稼ぎ方にコストがかかりすぎるのを男女ともども忌避してきた結果だとしたら、働き方改革は少子化対策であり、また家事育児は女性の無償労働にコストを押しつけるのではなく、公共や社会自体が担わなければならないコストだと認識される必要がある。

 女性は夫に養われるから賃金が安くてもよいというパート労働の穴は、男性若年者のアルバイトというかたちにも広がってゆき、男性が家族を養えなくてますます少子化促進としての要因になってきたが、このスパイラルから抜け出すには、女性労働が標準になるような働き方の改革がますます急務だと思われる。

 大手電機メーカーに勤める妊婦が朝から深夜二時まで残業をさせられ、また妊婦だから早く帰っていいよと先輩たちにすすめられるような働かせ方が、男女ともどもに課せられている状況は異常である。

 「カネが入る仕事」の過酷化がおこり、雇用失望を生んだ社会はカネ離れ、モノ離れをおこし、カネに依存しない生き方を模索する若者たちも生むようになる。

 妻の家事労働が無償になるのなら、自営業の女性の賃金労働も無償にされてきた例もあると思うのだが、いまでは農家に「家族経営協定」が結ばれ、労働の量化によって賃金がちゃんと支払われる例も増えてきたそうだ。

 著者はシンガポールで働いていたそうだが、この国では移民家事労働者が命綱だそうだ。周辺国との経済力の違いから安価な移民労働者を雇える。フィリピンやインドネシア、スリランカなどからだ。

 しかし家事労働は密室の労働であり、しばしばメイド虐待やパワハラが報道されるそうである。とはいっても著者が家事使用人に好待遇をあたえるとほかの使用人も同等の権利を要求し、雇い主の負担が高まる恐れもあり、著者は「使用者ギルド」の縛りを守るように忠告されたりもする。人を雇うということは加害者にもなることなのである。

 女性の無償家事労働は、そのために男性の長時間労働が可能になり、また低賃金労働を可能にしてきた役割分化の落とし穴である。企業や資本主義が女性の家事を無償にできた結果、男性の企業戦士化は可能になり、企業や社会は子どもの再生産というコストを支払わずに産業活動に邁進できた。

 しかしそれが落とし穴となって、少子化や人口激減などの社会の存続すら危ぶまれる危機を迎えるにあたって、女性家事労働は社会全体がコストを担わなければならない問題として浮上してくる。

 男性の奴隷労働は女性の無償労働によって成り立ってきたのであり、男性も無関係ではない。セットであり、わかちがたく結びついている。この機能が社会存続の危機さえ迎える事態にいまつき当たっている。この社会のキツさの根底をあらためて問題視すべきなのだと思う。



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