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01 04
2017

書評 社会学

『逃げ恥』の無償家事労働に興味をもった方に――『家父長制と資本制』 上野 千鶴子

4006002165家父長制と資本制
―マルクス主義フェミニズムの地平 (岩波現代文庫)

上野 千鶴子
岩波書店 2009-05-15

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 『逃げるは恥だが役に立つ』という大人気ドラマは「家事労働はなぜ無償なのか」という問いをつきつけたのだが、ずいぶん古い議論のはずだという記憶だけあった。そういう議論はイリイチの『シャドウ・ワーク』でいわれれており、日本ではすでに82年に翻訳されている本である。

 ということで無償家事労働問題の議論はどうなったかと探る意味でこの本を手にとったのだが、だいたいはこの本でまとめられていると考えてもよいようだ。にしても『逃げ恥』の大人気によってフェミニズムの文献にブームがおこるようにならないことが、マンガ文化圏の限界のように思う。

 田嶋陽子は三十年やってきたことがぜんぜん伝わっていなかったと憤ったそうだが、マンガ文化の興隆はもう哲学議論への回路を遮蔽してしまったのだろうか。

 日本では60年代初めに家事労働論争がおこり、英米、伊でも70年代に大きな論争になったそうだ。が、「家事労働に賃金を!」といった非現実的な要求は80年代に自然消滅したそうである。

 80年代にはすでに家事家電の省力化によって軽減が大きくなっていたし、パートとして働きに出ることも多くなり、社会に出ることは家庭と仕事の二重の自己実現どころか、二重の負担でしかないことに気づいたからだろうか。男のカネと権力をほしがれば、女性の無償奴隷と男の貨幣奴隷の二重苦役を背負うことである。

 この本では理論編と分析編の二部にわかれており、前編で議論の全容、後編でM字曲線などの一般的な社会情勢がのべられる。バブルが崩壊してデフレ時代になる前の90年に出た本である。

 資本主義は家事・育児労働の再生産コストを拒否して、女性と家庭だけに押しつけてきたということだが、企業はいずれ労働力となる子どもの育成コスト、教育コストをなぜ私的領域のコストだけに押しこめることに成功してきたのだろうか。イリイチは教育も労働者になるための労働に他ならないとしてシャドウワークだといったそうだが、卓見である。

 女性にとって蟻地獄であったような無償家事労働によって社会に働きに出てもパートのような低賃金労働に差し置かれるような働き方は、やがて若者や男性のような一家の稼ぎ手も非正規で働かせる蟻地獄に呑みこまれてゆく。

 再生産コストを拒否しつづけたエポックに男女ともども呑みこまれてゆくような形勢をこんにち迎えているわけだ。フェミニズムが問いかけた問題は女性の権利獲得の問題だけではなく、再生産コストをいっさい負担しない資本主義に男女ともども呑みこまれる壮大な落とし穴ではなかったのか。少子化というのは、再生産コストが個人が負担するには重すぎるコストの帰結ではないのか。

 少子化の現在、育児・結婚コストは個人や私的領域だけに閉じ込められるコストでありうるか。企業は人間の再生産コストから逃れて、繁殖増大する後進国へ逃れて、あるいは女性・家庭に押しつけてまぬがれてきたわけだが、この日本という少子化が高度にすすむ日本で存続は可能なのだろうか。

 『逃げ恥』というドラマのおかげで思わず過去のフェミニズム議論に興味をもったわけだが、ドラマの有償の家事労働が愛の成立とどうじに無償労働に転嫁するさまは、まさに自発と強制の貨幣の発生をも垣間見せるわけで、疑問が芋づる式に連なって、もっと古いフェミニズム議論につっこみたくなった。

 しかし『逃げ恥』ドラマのヒットが世間でフェミニズムの眠りを覚ましたという声は聞かない。


ダラ・コスタの古本が一万超え。
家事労働に賃金を―フェミニズムの新たな展望シャドウ・ワーク―生活のあり方を問う (岩波現代文庫)愛の労働家事労働と資本主義 (〈特装版〉岩波現代選書)逃げるは恥だが役に立つ(1) (Kissコミックス)


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