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10 12
2016

主体性の剥奪

すばらしい本――『反教育論』 泉谷 閑示

4062881950反教育論
猿の思考から超猿の思考へ (講談社現代新書)

泉谷 閑示
講談社 2013-02-15

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 すばらしい本である。知性とはなにかを考えたい人にはぜひおすすめしたい一冊。

 考えることの基本はまず、懐疑的精神のことである。「本当にそうだろうか」と問うことである。しかし、こんにちの教育は懐疑心を徹底的につぶし、上から暗記知識を植えこむだけである。このような歪みに疑問をもつ人はぜひ読んでほしい本である。

 いままで親子論や虐待、モチベーション論などを読んできたが、なにを問いたいのかぼんやりしてわからなかったが、この本を読んだおかげで、「主体性の剥奪」を知りたかったのだということがわかった。この本にはまさしくそのことが書かれている。そうだ、これを知りたかったのだという一冊。

 教育とはほんとうに必要なのか、人間の成長に教育はほんとうに不可欠なのか。

 主体性や自発性を奪われる教育はむしろ、弊害の方が大きいのではないか。

 著者は精神科医だが、音楽を志したこともあり、英才教育のような技能だけは優れているが、魂がこもらない音楽演奏の違和感にはとくに敏感である。

 そのような音楽をやっている人が日ごろ音楽を聴いたりせず、コンサートにもいかない。先生にいわれた通りやることがなにより大切で、自分がどう思うかなんてご法度。そこには音楽などない。むしろ音楽を憎んでいることすら感じとられる。

「音楽とは、あくまでも表現者としての主体が成熟して可能になるものであるが、「ピアノ道」においてトレーニングされるのはその対極にある受動性、すなわち主体の弱体化である。そしてさらに、禁欲的自己コントロール、機械的反復を延々と行う忍耐力、先生に叱られないようにするための従順さや保守性等々の神経症的傾向までもがしっかりと養成され、主体性や創造性は徹底的に芽を摘まれてしまうことになる」



 そのような人から演奏される音楽はもはや、「音楽の死体」である。そして主体性や即興性を奪われた知識というのも、「知識の死体」というべきもので、その場その場の俊敏な知性を育てるわけではない。われわれの知性は、死体ばかりに埋め尽くされているのではないだろうか。

 われわれの教育や親のしつけというのはすべて主体性の剥奪であり、服従の植えつけではないだろうか。なるほど服従は猿マネのうまい技能の高い人間はつくりだすことができる。しかしその先にはなにもない。創造も、発展も、可能性もない。

 服従は発展のない社会には効用はおおいにあるのだろうが、創造や発展に必要なのは、懐疑的精神や主体性である。われわれの社会は服従だけを教えて、けっきょく、その先の可能性や創造を押しつぶしているだけではないのか。

 もちろん服従の教育を受けた人間もバカではない。教育を受けた学問以外のジャンルで、創造性や主体性を発揮して、けっきょくはそのジャンルの成長と拡大をうながすものである。ロックであったり、マンガであったり、ゲームであったり、お笑いであったり、教育を受けるメインカルチャーは死してゆき、サブカルチャーがどんどん育ち、有能な人間を輩出してゆくことになる。

 教育はその道を終わらせ、ほかの道に人をすすませる重石や障害みたいなものである。

 芸道ではよく「守破離」といわれるそうだが、型をひととおり教わったら、師から離れて独自なものを育て、さいごには守でも破でもない独自の境地にいたるとされる。教育でおこなわれることは守だけであり、師を殺すようなことはおこなわれない。これは創造も生まれないし、人を感動させるようなものも生み出せないし、未来は先細りしてゆくばかりである。

 教育はいつになったら、懐疑的精神の大切さをつたえられるようになるのだろう。子育てにおいても、いつになったら主体性の尊重というものはつたえられるようになるのだろう。

 音楽をやっていると演奏にもっとも支障のある身体部位に病気が出現することがあるそうである。心の反抗の声を上げられないことが、病気のかたちをとって悲鳴をあげるといわれる。主体性というのは反抗であり、懐疑であり、それこそが自我のよって立つところである。

 われわれは知性や教育という面で、まったく間違った思い込みをもっているのではないだろうか。



反抗と自由哲学者とオオカミ―愛・死・幸福についてのレッスンラッセル教育論 (岩波文庫)人間についての寓話 (平凡社ライブラリー)荒野のおおかみ (新潮文庫)

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Comment

私自身、学生時代振り返ると、勉強は主体性を意識すらしてなかったです。暗記のイメージが強かったです。泉谷閑示さんの「普通がいいという病」がありますが、心に染みる本だったのです。

この本の存在は初めて知りました。
読んでみます。紹介ありがとうございます!
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