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10 02
2016

主体性の剥奪

学歴排除批判への欠如――『悲しみの子どもたち』 岡田 尊司

4087202917悲しみの子どもたち―罪と病を背負って (集英社新書)
岡田 尊司
集英社 2005-05

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 岡田尊司の非行少年論である。氏はいまはクリニックをやっているが、この本が出た2005年ころは京都医療少年院に勤務していた。

 いっていることは非行少年によりそって、とても首肯できる内容なのだが、学校で落ちこぼれて非行に走った少年が、東大や京大でまなんだ学歴エリートに同情されることに、どれだけの共感を当の本人たちは抱けるのだろうかと思うが。優等生の病理もキツイものがあるが、岡田尊司に傷ついたヒーラーの要素はあるのだろうか。

 非行少年論はいろいろ示唆されることが多くて、この心理機構を知ることは世の中の理解を助けやすいと思う。たとえば、なぜ少女が金髪に髪を染めるのかといえば、低学歴としてバカにされる屈辱や恐さを、威嚇によってとどめることができるからである。ヤンキー的属性はまわりの誹謗中傷をぴたりと止めることができるのである。攻撃は最大のディフェンスなのである。

 岡田尊司は非行理由をひたすら親子の愛情阻害に原因をもとめるのだが、非行の社会的要因や学歴排除の問題に目を向けないのは、やはり片手落ちだろう。教師や学校から排除されることになる成績劣等生は、どうやって自分の価値を高めることができるようになるだろうか。前述のように学歴エリートには痛みがわからないのだろうか。

 非行少年は親から見捨てられた、捨てられた子どもの気もちや反応がどのようなものか、際立たせて見せるものだ。メンヘラ系になる人と、非行少年になる違いは、攻撃が自分が、外に向かうかの違いにすぎないのかもしれない。

 

「お前は間違っていると否定し、非を責め立てたところで、まず逆効果しか得られない。
…それを無理やり変えようとしても、いままで大人たちが彼に加えてきた過ちを繰り返すだけである。咎められれば咎められるほど、子どもはそれを攻撃と受けとめ、心の鎧を固め、意固地になって「偽りの希望」にしがみつくことになる。自分こそが「被害者」だという気持ちを強め、放漫さと自己正当化を捨て去ろうとしない」



 この言葉にはまったく共感するのだが、学歴排除の痛みや被害がまったく見えていないような岡田尊司は、被害者意識にほんとうに寄り添うことができたのだろうか。かれらはほんとうに学歴排除の被害者ではなかったのか。

「非行の進んだ少年は、自分に悲しむことを禁じるがゆえに、無謀で冷酷な強がりへと走っている。
…周囲の仕打ちによって与えられた悲しみを、悲しみとして感じるとともに、わけのわからない怒りであったものの正体が、親や周囲の大人から得られなかった愛情や承認だったことが理解されるようになる。
…自分を捉えていた怒りとは、親を失望させたり、ダメな子になってしまった自分自身に対する怒りでもあり、それを引き受けるのが嫌で、周囲に転嫁していたことを悟るのである」



 親の承認と自己否定のメカニスムをえぐった指摘だと思うのだが、学歴排除によって与えた学校システムの批判の視点はまったく欠落しているので、社会適応の権力を見るような気もする。

 非行少年は、親に否定され、学校にも否定され、また精神科医にも否定されるのではないだろうか。学歴によって排除される自分の価値をほかの方法で見いだせず、排除されつづけ、社会はその排除の正当化をつづける。三すくみというべきものだ。

 この本を読んでいるときにはなるほど親の愛情阻害が原因や端緒なんだと納得したのだが、いちど文章で学歴排除の問題を取り上げると、もうこの本は学歴正当化の権力書にしか見えなくなったきたな。

 人間は学歴で階層づけられる価値しかないのか。それこそ、岡田氏がいうように、人はだれでも自分の価値を認めてもらいたいと願っている。学歴で排除されたものは、もう価値がないのか。べつのモノサシで評価されようとしたのが非行少年ではないのか。

 学歴序列の絶対化など、人間を測る価値のひとつにすぎない。学歴社会への反抗があったからこそ、こんにちのマンガやお笑いブームの興隆はあったのではないか。それこそ人は自分の価値を認めてもらいたいと思っている。


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