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09 16
2016

主体性の剥奪

昭和40年代からの俯瞰――『自由を子どもに』 松田 道雄

4004121388自由を子どもに (岩波新書 青版 879)
松田 道雄
岩波書店 1973-12-20

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 昭和48年に出た古い本で、げんざいの子育て観を俯瞰してみるにはいい本。著者は1908年、明治41年生まれだから、明治・大正・昭和の子育て観の変遷が読みとれて、参考になる。

 いいことばかり書いていると思う。社会的な俯瞰もやさしく説明してくれるし、自分が自分の主人になる人生のたいせつさもしっかりと説いてくれる人である。ただ、ぎゃくに自由にたいする反対論者は、たとえば国家主義者であるとか、厳しい教育を説く人からの反論もあわせ聞きたいとことだけど。

 自由を尊重するということは、年下や地位の下からの者の反抗や攻撃も受けることをとうぜんに招く。自由尊重論者はそのような事態にいたったときに、自分のプライドや立場を守らずに寛容にかれらのいい分を聞けるだろうか。自由というのは他人の反抗や攻撃も招き入れるということなのだ。

「二十年も三十年もたてば、子どもたちは今の文化とちがったものをつくるでしょう。今の文化のわるいところを改めてくれるにちがいありません。教育としておしえたことの一部は、否定されるでしょう。…教育は教育を否定するものをそだてるという矛盾をもっています」



 教育も医者と同じように自らの仕事をなくすために仕事をしている。そういう自己否定を意識した職業観をもてる人が、依存や搾取におちいらない関係や倫理観をもてる。

 昭和40年代といえば、学生運動さかんなころで管理教育が批判されていたころだ。管理は管理に都合の悪い子どもを切り捨ててゆく。教育は混同されがちな管理になってはならないというのが著者の考え方だ。学校の群れや友だちというのは、この管理に適応したありかたであって、個人の生をぞんぶんにはのばさない抑圧の適応だと、わたしは思う。

 この本は江戸時代の子育て法も説かれていて、家のしきたりが厳しかったのは、家が私立の福祉施設を担っていたからだと説く。家にたよってさえいれば、生まれたとこから死ぬ時まで、めんどうを見てもらえる。外から来た嫁はその家のしきたりに合わせなければならず、子どもを甘えさせることはゆいいつの息抜きや癒しであっただろう。江戸時代の子どもが世界的にも見て、甘かった理由の一端である。

「昔の家のように整然としたおとなの秩序のあるところでは、体罰は子どもにルール違反への罰としてうけとられますが、一対一でおかあさんとむきあっているときは、おとなのルールとおかあさんの気まぐれを区別できません。親の権威がルールとして確立していないところで体罰をくわえると、たんなる暴力行為としてしか感じません。子どもに屈辱と怨恨をひきおこすだけです」



 この著者はひところよくいわれた親父の懐古趣味のような子どもの遊び場がなくなったことが、子どもの自主性や自分の人生を生きる自立をそだてないと、説く。そこで子どもは、母親の管理から離れて、自分の人生、自分が主人となる行動をそだててゆく。

 子どもは家がたとえ厳しいとしても、母とべったりであったとしても、子どもだけの自由空間の中で、親の厳しさからのクッションや立ち直りを得られたし、自分が自分として生きるための自立を学んだのだという。

 子どもの遊び場はノスタルジーとして、大人の特権や長所として語られるのだが、いまの子どもだって学校が終わった後は子ども同士で遊んでいるのであって、大人になったものには職場地域に縛りつけられているために見えなくなっただけである。ニートとか失業していたら見られる風景であって、勤勉な大人には見えないだけである。どんなに管理が進もうと、親とべったりであろうと、子どもは自分の世界をつくってゆくものだと信じたい。

 それにしても、母とべったりの密室は、子どもにとってそれだけでも抑圧であるとは、このことに気づいているだろうか。

「おとなが子どもの知的な未発達をみくびって自分より一段ひくい人間であるようにかんがえるのは、放漫でしかありません。…自分を完成した人間と思い、おとなであるだけで未完成の子どもを教育する資格があると思いあがっているから、自分にわからないところをすべて未発達のせいにしてしまうのです」



 子どもはその年齢で人間として完成しているという著者の考えは、子どもを低く見ている現代からしてみれば、尊敬に値する考え方である。

 著者は明治の後半に生まれ、大正自由教育の恩恵をうけたことを感謝しているとのべる。明治から生きた著者の、げんざいにも参考になる子育て観、社会観のうつりかわりが、ながめられる本である。現代の相対化ができるね。


定本 育児の百科〈上〉5カ月まで (岩波文庫)私は二歳 (岩波新書)私は赤ちゃん (岩波新書)恋愛なんかやめておけ (朝日文庫)

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