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09 13
2016

主体性の剥奪

世界観がこんなに大事なんて――『加害者は変われるか?』 信田さよ子

4480432477加害者は変われるか?
: DVと虐待をみつめながら (ちくま文庫)

信田 さよ子
筑摩書房 2015-02-09

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 児童虐待、DV、性犯罪について語たられた短い文章が合わさった本だが、覚えておきたい箇所が二か所あった。

 一点は、被害者や犯罪で身内を失った遺族の、「なぜ?」や「どうして?」という問うてしまう世界観のことである。

「自らの受けた被害・苦しみに「意味」を与える信念体系を再構築しなければ、被害者は生き続けることすら困難になる。

被害者は、理不尽な事件・できごとによって、世界に対する信念、秩序への信頼を突然、根底から打ち砕かれたのである」



 この世界を説明する世界観はそれほどまでに大切なのだ。たんに説明や言葉にすぎないこの世の捉え方は、人生の生き死にを左右するほどまでに、人間の生に食い込んでいるのである。

 アダルト・チルドレンの批判として、「他人のせいにするな」や「親のせいにするな」という批判を投げかけられるのだが、「あなたに責任はない」といわれることが、「世界が違って見えた」「謎が解けた」と思うほどの衝撃を与えるそうである。

 その理由は、「自分が悪い子だから」という世界観を、かれらが引き受けているからである。親が殴るのも、親がケンカするのも、すべて自分が悪い子だからだ。このような世界観を抱いてしまう理由を、信田さよ子はつぎのように説明する。

「その秘密は、幼児的万能感が形成する世界観にある。三歳から六歳までの幼児期には、子どもたちはあらゆるものの中心に自分がいるという天道説的世界を生きる。せみが鳴くのも、太陽が東の山から上るのも、自分が動かしているとすら考える。快と喜びの経験は「自分がいい子だから」という因果による意味を形成し、そのことにより世界は秩序立ってくる。そこから「よい自分」「生きていい自分」の核がつくられていく」



 自分が殴られたり、父が母を殴っていると、世界は真っ二つに割れてしまう。その不穏な世界は、「自分は悪い子だから」という論理によって、世界の秩序は組み立てられてしまう。それによって、説明可能な世界観は存続するのである。

 そのような「自分が悪い子だから」という世界の責任をすべて自分に収めてしまう世界観は、「生きている価値などあるのだろうか」「この世の空気を吸っていてもいいのだろうか」という疑問も胚胎させる。

 世界観がいかに人間にとって重要であり、根源を担っているかを悟らせるような記述である。この点はもうすこし深く知りたい。

 もう一点は、妻を殴るドメスティック・バイオレンスは、夫の方が「被害者」であり、「正義」であるという論理をもっているということである。

 第三者から見れば、暴力をふるう加害者はなんてひどい人なんだと糾弾されるのだが、かれらは自分が正しい、自分こそが被害者という見方でいる。これは国際間の戦争と同じ論理であって、双方が被害や正義を訴えて、平和の着地点がない状況と同じである。市民社会のばあいでは、警察や法律という権力が裁くことができる。しかし力でねじふせられたものは、納得の理由をくすぶらせつづけるものである。

 これは岡本茂樹の犯罪者の『反省させると犯罪者になります』の同じ論理であって、容疑者は過去にだれからも自分の立場の肯定や容認をうけていない。さらに刑罰によって一方的断罪がされて、自分の言い分は聞いてもらえない、悪と裁断されて、自分のほんとうの気もちをますます隠すことになる。それによって恨みとストレスをためて、爆発のときまで放置される。だれかに容認されてはじめて、自分の心の痛みや他者の痛みが理解できるようになるのである。

 ケンカの最中のおたがいの立場みたいなものである。殴ったから、おまえが悪いと一方的にいわれても、ケンカの本人は納得できない。暴力や犯罪を裁く目線というのは、いつも「自分の言い分」「自分は悪くない、被害者だ」という声を裁断してしまうのである。

 前述の世界観の重要性については、J.L.ハーマンの『心的外傷と回復』が重要な書らしいが、高い本なので、図書館で借りてみようかな。


4622041138心的外傷と回復 〈増補版〉
ジュディス・L. ハーマン 中井 久夫
みすず書房 1999-11-25

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