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09 05
2016

主体性の剥奪

親から子にひきつがれるもの――『虐待』 保坂渉

4006031149虐待―沈黙を破った母親たち (岩波現代文庫)
保坂 渉
岩波書店 2005-05-17

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 虐待の親子関係で興味深いのは、親子関係の因果が子どもにひきづがれてゆくということだ。親子であった関係と葛藤が、子どもとの関係にかたちを変えて再現されてゆく。

 とりわけ、親は子どもの意志やわがままに腹を立てるようで、おそらくは親自身も自分の意志をつぶされていたからこそ、子どものわがままに腹を立てるようになっている。つまりは自分の意志の抑圧の方法がそのまま子どもにも向く。それは自分自身の心のあり方、葛藤の機構そのものである。

 この本は2005年に岩波現代文庫入りしており、少々古くて、ジャーナリストの手によるもので心理学者のような解説はちょっと期待できないかもしれない。それでも四人の虐待母のエピソード、成育歴から、典型的な虐待や親子の連鎖を読むとることができるのではないだろうか。

 第一章では娘を殺してしまうことになる母親がとりあげられている。母はいじめを苦に自殺を考えるような少女時代をおくり、17歳で結婚するのだが、入籍した日から暴力をふるう夫になる。娘を生んだが、離婚。結婚相談所で、連れ子のある男と再婚。

 連れ子の絵美が新しい継母にいたずらをする試し行動のようなものが行われ、母が注意すると子どもが噛む付くようなケンカの関係になり、やさしさから体罰の厳しいしつけに変えて、虐待はエスカレートしてゆくことになる。夫から家政婦をしていたらいいといわれ、自分には居場所がない、夫に愛されていないと思い詰め、娘に向かう暴力が止まれなくなっていた。

 二章ではアル中の父に脅えて、自分を抑えてまわりに合わせるアダルトチルドレンの女性が主人公で、父のガンの看病で疲れているところに娘のわがままが出てきて、虐待をおこすようになった母親の話である。

 兄は母の気もちをくみとるよく気が付く子だったが、娘はわがままをいい、虐待をおこなうようになる。娘は自分のせいだと思うようになり、柱や壁に頭をぶつけて自傷行為をおこなったり、生まれてこなければよかったというようになる。娘にひきつがれた自己否定の継承がかわいそうである。自分の抑えつけた人は、子どものわがままが許せない。自分のそれが許せないように。

 第三章ではキリスト教信仰の家庭に生まれ、優等生として育ったが、とちゅうで息切れした女性の話。手のかかる娘と仕事の疲れに音をあげて、夫のいらだちやストレスをためて、娘に虐待が向かうようになる。

 夫と別居後も虐待やネグレクトはつづき、乳児院にあずけるようになる。自助グループによってようやく光が見えようとしている。

 四章では、母が子ども返りをするように夫に感情をぶつける女性の物語が描かれる。子ども時代に感情を抑圧すると大人になってどのように噴出するかの劇を見ているかのようだ。

 ヴァイオリン一筋で育てられた女性はその後挫折、結婚に期待をいだく。しかし夫はマザコン男で、母のいいなり。感情を爆発させるのだが、いっぽうでは夫が死んでしまうのではないか、ひとりになるのではないかと恐れ、また私のことを見て、私のいうことを聞いてのような子ども返りのようなことも夫に要求するようになる。

 子どものわがままは自立の障害であり、子どもの力で出てくるものではなく、親がしつけたり指導しなければならないと、この母は思っていた。次男が難病で親の甘えるのが上手な割に、長男は自己主張をして甘えるのがヘタだった。ためにいらだちが長男に向かうのだった。

 虐待というのは親子関係の再現であり、継承である。これら四人の女性のドラマを読んでいると、その因果や反復の構図が見えてくる。心理学者の筆によるもののような明確な因果を見抜くのはむずかしいのだが、親にされたことが、子どもに向かってゆくさまが垣間見えるのではないだろうか。

 自分の抑圧された心の機構は、わがままや自己主張をおこなう子どもにとりわけ激しい怒りとなって向かってゆく。人の意志をつぶすことが虐待であり、親のしつけや教育の役割はこのようなものと思い込んだ母が、虐待に向かってゆくといえるのかもしれない。意志や自己主張とどう関わるかのドラマだといえるのかもしれない。


ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件 (ちくま新書)子ども虐待 (講談社現代新書)虐待の家-「鬼母」と呼ばれた女たち(中公文庫)ネグレクト―育児放棄 真奈ちゃんはなぜ死んだか (小学館文庫)虐待と非行臨床

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