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08 18
2016

主体性の剥奪

虐待を描いた小説・映画――『愛を乞うひと』 下田 治美

4041873010愛を乞うひと (角川文庫)
下田 治美
角川書店 1993-04

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 虐待を描いた映画として見たかったのだが、見る機会にめぐまれず、小説のほうを読んだ。

 長野方面の6日間のツーリング中、休憩がてらに読みつづけて、けっこうひきこまれた。

 孤児院で育った少女が、10歳のときに母にひきとられ、それから8年間、暴力的虐待をうけつづける。月に二、三度ほどの頻度で虐待をうける。

 高校卒業後、働きだしてひとり暮らしのお金が稼げることに気づいて、まだ貯まったいないのに母の暴力がはじまったのをきっかけに逃げ出して、それから30年母と会っていない。その後、結婚して夫を交通事故であっけなく亡くし、娘とふたりで幸せに暮らしている。

 虐待のようすは凄惨なのだが、意外に冷めた、冷静な目で記述されていて、なんとなく違和感をおぼえた。

 その後の話は結核で亡くした父のお骨探しにルーツの台湾にまで飛ぶ話になり、この小説は、在日二世のアイデンティティ探しのような話になってゆく。この小説は、そういった政治的次元もふくむのか。

 虐待の連鎖の話を読んできた身としては、この女性が娘に虐待をおこなわず、幸せに暮らしていることに、どうやって心身の傷をのりこえ、母のようにならなかったのかという疑問やつながりの問いが、希薄に思えた。

 また母がなぜ虐待をくりかえし、娘を愛することもなかったのかという掘り下げもなかった気がする。父に愛された、かわいがられたという経験と記憶が、彼女を守ったのだろうか。

 1992年に書かれた小説であり、その後、虐待にかんする連鎖やトラウマはもっとふかく追究されるようになり、いまこのような小説が書かれると、もっと虐待の影響が深刻に描かれることになったと思う。

 映画では、原田美枝子の虐待や毒親ぶりはどのように描かれていたのだろうか。大原麗子が映画化したいと願った作品だったそうだが、なにを見出したのだろうか。
 



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