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07 30
2016

主体性の剥奪

子どもと親の問題はかっちりと重なる――『子は親を救うために「心の病」になる』 高橋 和巳

4480431586子は親を救うために「心の病」になる
(ちくま文庫)

高橋 和巳
筑摩書房 2014-04-09

by G-Tools


 親と子の矛盾を、ひじょうにわかりやすく、かみくだいて理解させてくれる腑に落ちる本である。おすすめ。

 子どもは学童期まで親の心のコピーで生きているから、親の矛盾もひきうけている。子どもが心の病にかかったり、思春期にいたったとき、その矛盾や苦しさを破ろう、気づかせようと、親が疑問を抱かずに生きてきた自分の生き方の反省や修正をせまることになる。そのプロセスがあざやかに、かみくだいて説明されている。

 たとえば不登校になって家庭内暴力をふるうようになった息子。自分だけが我慢してきたことをわかってくれないと母に暴力をふるう。親がその気持ちを理解してやれば、だいぶやわらぐ。だが、まだ問題は解決していない。母自身が、親にわかってくれることをあきらめた経験を理解していないからだ。

「私は小さい頃、母親に分かってもらいたいという気持ちを諦めた。それと、息子に「わかって、わかって」と言われて自分がイライラするのがつながっている。それがよく分かりました。ぴったりつながっているんです。私は我慢したのに、息子が甘えてくる、それを許せなかった……」



 32歳になってひきこもりになった息子。父はその父から親密さや理解をあたえられず、だからぎゃくに息子になんでもかんでもかまい、指示の多い父になった。父が自身のその無念さをさとったときに、突っ張る生き方の肩の力が抜け、息子の生き方を尊重できるようになった。息子は、家を出て長い旅に出た。

「反抗期で修正されたのは、彼の生き方ではなく、親の生き方であった」



 娘の摂食障害によって、娘が感情を表現することの我慢を知り、そして母自身も親にたいして我慢して、わかってもらえなかったことを思い出す。

 虐待された子供が、善と悪が逆になっているという説明も、ひじょうにわかりやすく理解させてくれる。

「目の前の「悪い親」に耐えることが「善」であり、その逆に、耐えられずに逃げ出すことが「悪」になる。悪に耐えることが「善」で、善を求めるのが「悪」である。こうして「普通の」の人とは善悪が逆になる



 我慢し、耐えることに自分の価値と善をもとめてきた子どもは、親になってまた子どもに虐待するのは、抑えつけてきた耐える心を子どもがもたないからだ。

「そんな彼女の生き方を、(娘)が逆なでする。(娘)は我がままを言ったり、我慢をしなかったり、落ち込んだり、固まったりするのだ」



 娘に自分自身の耐えられなかった、恐かった自分を見ているのである。そうした自分が許せず、生きていけないと思う。そして子どもを叩く。

 第5章では、心の発達段階の最後として「宇宙期」をあげているのだが、これはトランスパーソナル心理学的な次元をいっていると思ったが、社会的価値観の相対化や客観視のことをいっているようで、ここはまだ整理されていないあいまいなものに思えた。

 社会的な心理システムから離れて、ただ「いる」だけの存在感になること。そういった感覚と、社会的価値観の相対化が分けられていなくて、一体化しているように見受けられた。ポストモダン思想や相対化の流行によって、自文化の価値観の相対化は知識としても受けとれるし、海外旅行にいけば多文化の価値観からの客観視も身につくので、「宇宙期」というのは大げさに思えた。

 著者は1953年の生まれなので、比較的に日本がもっていたお金や愛や称賛といった社会的価値・目標と一体化できて、疑問を感じずにやってこれた世代なのかもしれない。それからの後の世代は、その目標に同一化できず、また崩壊の一途をたどっている価値観なので、相対化の疑念や機会は、山のようにおとずれる。その価値観の相対化のことをいっているのだよね。

 ともあれ、子どもの心の問題が、かっちりと親の心の問題と重なっている鮮やかさに、目を啓かれる思いがする本である。おすすめ。

 『悲の器』の高橋和巳と同姓同名なんだね。


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