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07 15
2016

主体性の剥奪

トラウマ理論VS唯心論の相克――『いい子に育てると犯罪者になります』 岡本 茂樹

4106106590いい子に育てると犯罪者になります
(新潮新書)

岡本 茂樹
新潮社 2016-03-17

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 前著『反省させると犯罪者になります』と同じ主張をひろげたもので、前著からべつに変わったものはないのだけど、酒井法子の謝罪や反省文の解釈は読みごたえがあったかな。

 岡本茂樹は、トラウマ理論や交流分析の考えを元にしていて、幼少期に愛されなかったり、本心や感情を抑圧するスベを身につけるとそれがどんどん蓄積されて、さいごには犯罪のようなかたちで爆発するというものである。

 本心やホンネにふれないで、反省や抑圧をさせれば、どんどん自分の本心が見えなくなり、自分をたいせつにしなくなり、同様に他者の気もちも存在もたいせつにしなくなるという因果関係を説く。

 「迷惑をかけない」とか「ひとりでがんばる」、「人に頼らない」、「人に甘えない」という考え方は、危険極まりない犯罪につながりかねない考え方というのである。ますます抑圧を増やして、本心にふれることを遠ざけるからである。

 人に合わせすぎることも危険である。「自分の意見をいってはいけない、自分の考えをもってはならない」という考えをいだくようになるからである。「相手の気持ちを考えろ」も、「自分の気持ちを大切にしない」ことによって、抑圧や本心にふれないことを増やしてゆくことになる。

 わたしはどうもこの抑圧理論やトラウマ理論が、本心や感情を解き放つということが曖昧模糊としてつかみがたく、よくわからないといった考えをずっともっていた。本心やほんとうの感情というものがよくわからない。自分が本心や感情を抑圧しているのか、ほんとうの感情かもつかみがたい。ただ、自己中心的な怒りや不満を抑圧してはならないということになるのか。

 わたしはこのトラウマ理論や交流分析的な考えにふれると、かならず「唯心論」的な立場からの不満を感じる。「唯心論」というのは「思考を捨てれば苦しみも感情もない」や「思考は現実ではない」という考えがベースになった禅・仏教的な考え方である。こういう現在志向のセラピーを信奉するがゆえに、ほんとうの心ってなに?と思うのである。

 岡本茂樹は感情をコントロールするような方法も抑圧を増すと考えている。すなわち認知療法のような思考の偏りをただすようなセラピーも否定しているようだ。わたしはここでふたつの心理学派の越えがたい深い溝に悩むのである。

 酒井法子の章で、現在志向的なセラピーのウィリアム・レーネンの方法も、つらい過去にふたをすることといって否定している。トラウマ派と現在志向の思考療法を、どう統合してとりいれたらいいのか、ひじょうに迷うのである。

 現在志向のセラピーは、感情的な問題にはかなり即効性がある。思考を捨てれば感情はなくなるのが道理だからだ。自分を責めてぐちゃぐちゃになる鬱やアルコール中毒などには効くと思う。しかし深層の行動パターンや思考パターンの問題になると、トラウマ理論の探求が必要になるという使い分けでいいだろうか。

 岡本茂樹や長谷川博一は、犯罪者にトラウマ理論、交流分析の考えを適用して、それを健常者や通常人にもひろげようとしている。トラウマ理論はこれまで神経症やメンヘラ方面だけに適用されて、一般人にまでひろげられていなかったのだろうか。

 精神分析や交流分析はそこまで一般にひろがっていなかったのだろうかと、90年代後半の犯罪少年ブームがおこったときの心理学への関心の大きさは、どこにいってしまったんだろうと思う。

 幼少期に抑圧が強すぎるとのちに破滅的な影響をもたらすという考え方なのだが、世の中は抑圧や我慢しなければならない規範や常識は数限りなく多い。親はそれを見越して、我慢強い、抑圧に強い子に育つように、親みずからが抑圧や負荷をかける子育てをするのだが、トラウマ理論が明るみに出すことは、それが問題行動や犯罪をひきおこすという告発である。

 トラウマ理論が世に届いている部分も大きいように思うし、まったく届かない層もあるように思われる。甘えやわがままな子に育たないように厳しくしつけなければならないと考える親もあいかわらず多い。知識は伝わっていたり、まるで伝わっていなかったりして、その因果がどうなっているかわらなくて、混沌としているものだ。


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