HOME   >>  主体性の剥奪  >>  「勝ち組競争」元凶説は時代錯誤――『暴力は親に向かう』 二神 能基
07 12
2016

主体性の剥奪

「勝ち組競争」元凶説は時代錯誤――『暴力は親に向かう』 二神 能基

4101375720暴力は親に向かう
―すれ違う親と子への処方箋 (新潮文庫)

二神 能基
新潮社 2010-01-28

by G-Tools


 ひきこもりやニートの家庭内暴力についてよく知らないので、「あ~なるほどね」と思いながらさいごまで読んだのだが、勝ち組教育がすべての根源という説には、違うのではないかと思う。

 親が友だち親子になり、反抗期をあたえず、自主性を尊重するといいながら、親の思うとおりの人生を生きなければ不満に思う選択できない立場に追い込んでおきながら、失敗すれば自分のせいだといわれる、責任を回避した友だち親子、自主性尊重の親の卑怯なあり方は、たしかにと思う。

 しかし、勝ち組競争がすべての根源という考え方には、一周遅れているというどうしようもないまちがいを感じる。

 著者は戦前の昭和18年生まれで、高度成長期の夢や希望があった時代を生きた世代である。このころの時代に止まった高齢世代の時代錯誤があふれ出している。

 若者は勝ち組競争に落ちぶれたり、脱落したから、ひきこもって家庭内暴力をおこすようになったのではなくて、すでにそういう高度成長期に夢見ることができた金持ちになることや物質的に豊かになる、偉くなって世間から承認されるという大きな夢がもう終わってしまって、共有も駆り立てる原動力もない時代になったから、若者はかんたんにつまづくようになったのである。

 国家目標がなくなって折れてしまったから、若者は折れるようになったのである。勝ち組競争から脱落したのではなくて。そういう国家的な目標がなくなってしまったのに、学歴や教育の中ではその価値観で競争させるシステムだけが残っている。

 戦前生まれの著者には、まるでバブル以降の右肩下がりの転落の時代の意味がまったく存在しないかのようである。こういう現実認識で、夢の折れた時代を生きる若者の気もちをとらえることができるのか不安になる。

 豊かになったあとにどのように生きてゆくかという問題が問われることがなく、いい学校いい会社の勝ち組人生の価値観とシステムだけが残り、世間もそのモノサシだけで人を測ろうとする。これが終わってしまったから、がんばる意味も見いだせず、折れてしまってもほかの生き方を模索できない。

 これは日本社会全体が手放してしまった、豊かさの後の生き方の哲学的問いの苦難そのものではないのか。

 エリートや勝ち組をめざさなかった若者は、アニメや趣味であったり、友だちや恋人、家族と楽しむこと、音楽やお笑いなどに人生の享楽や意味を見出してきた。しかし学歴の勝つことだけに意味を見出し、脱落したものには、ほかの価値観を見出すことができない。しかも、脱落したり、ブランクのあった数年後の正規コースへの復帰がむずかしい社会である。「どうしてくれるんだ、親のせいだ」というしかない。

 団塊世代の村上龍は98年ころには近代化の終焉とさみしい大人たちという表現で、それまでの国家目標が終わったことを告げた。アパシーやひきこもりは、そういった心情から生み出されたものだ。しかしこの戦前生まれの著者には、バブル以降の右肩下がりの時代の意味がまるでつかめなかった高齢世代の鈍感さを感じる。

 その他の家庭内暴力から立ち直るステップや方法論には、謙虚に学べるものはあると思う。しかし戦前生まれの著者のどうしようもない世代間断絶のズレは、「親にいってもなにもわからない」といったあきらめの言葉と同じものを感じる。もう、あなたたちの目標や理想はとうのむかしに終わってしまったのに。

 真摯に家庭内暴力に向き合っている姿勢がすみずみから伝わっている著者だけに批判はあまりしたくないのだが、原因の求め方が違うと対処法も変わってくるので、この違いはしっかりと批判せざるをえないというものだ。

 この国家目標が終わってしまった、折れてしまったという実感は、都市生活者としてひきこもりをはじめた第一世代、60年代生まれ以降の世代ではないと、肌感覚としてわからないのだろうか。同じ転落の時代を生きてきたはずなのだが、見ていたものはまったく違っていたのだろうか。


勝ち負けから降りる生き方希望のニート (新潮文庫)親を殺す「ふつうの子ども」たち逃げる中高年、欲望のない若者たち (幻冬舎文庫)ニートがひらく幸福社会ニッポン―「進化系人類」が働き方・生き方を変える

関連記事
Comment
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top