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07 10
2016

主体性の剥奪

価値、有用性の逆説――『「いい家族」を願うほど子どもがダメになる理由』 富田 富士也

4892955949「いい家族」を願うほど子どもがダメになる理由
-誰も気づかなかった成果主義家族の落とし穴

富田 富士也
ハート出版 2008-11-18

by G-Tools


 あいまいで、明晰でなく、カウンセリングもそれこそ価値のないおしゃべりのよう。それこそ成果主義ではないことの価値というのだろうけど。

 子どもがダメになる理由は、成果主義や会社人間のような業績や結果で測る見方を家庭にもちこんだからと著者はいうのだけど、そんなたんじゅんな絵に描いたようなワナにはまるものだろうか。効率性や合理主義でムダなことを排除されて、コミュニケーション不全や人間性が育たなかったというたんじゅんな理論。目的としていることもあいまいなので、本全体もカウンセリングもあいまいな霧のような印象。

 たしかに人間には能力や成績で評価、承認される部分と、ただ存在することとあるがままを評価され、承認されるふたつの肯定が必要だといわれる。学校の成績や成果だけをもとめられ、人間性やムダな部分を承認されなかった傷や損害は大きいといえるかもしれない。でもそんな単純な二項対立でまとめられる話なんだろうかと思うけど。

 次のような子育ての信条が成果主義家族に当たるようで、よいことやすばらしいと思われることの逆説を思わざるを得ない。

・勉強・立場などで追いつめることはしません
・子どもの考え・悩みはきちっと聞いて、理解しているつもりです
・努力したら必ず報われるものです
・子どもや家族に、弱音や不安を与えるような言動はしません
・他人の子育てや生き方を、とやかく言うつもりはありません
・子育てに困ったときは、専門家の意見(本や情報など)を参考にします
・プロセスも大事ですが、まずは目的・目標を決めることが大事です
・評価・成果主義は人を成長させるために必要なことです



 どちらかというと、いいこと、すばらしいこと、理想の子育ての信条のように思える。だけどこのような考え方は、成果主義、効率優先の考え方から出てくるもので、このような考え方こそ子どもを追いつめる逆説があるようなのである。

 価値がない、意味がない、効率的でないムダなことが、いかに子どもの成長にとって必要なことか、そのムダなことを排除することが子どもをどんどん追いつめるのである。会社や社会は効率化や合理化でどんどんこの方向にすすんでいる。そのはざ間に子どもは叫び声を上げるのである。人間の存在やつながりは、それだけでは測れない価値や意味を有するのである。その意味が分からない人は、この著者の指摘するような落とし穴にはまってゆくのだろう。

 老荘のような「無用の用」を説いているのだろうが、本文やカウンセリング内容からはなかなかそれをくみとりにくいあいまいな話が多いので、不明瞭な感じが残る本である。それこそ、価値や意味を求めているということになるのだろうけど。

 三年寝太郎やものぐさ太郎のような昔話のような無意味で無価値のことに意味があるということなのだろう。世の中や父親、家族がこの生産性も有用性もない停滞に価値を見出すことなんてできるのだろうか。

 エピローグで、マスコミ記者のりっぱな父に追いつめられて定職もつかない放浪の青年はいう。

「「俺の人生を返せ」と言ったところで、父親はわかるような人間ではありません。何を言っても伝わらない父親には、"息子の子育ての不始末"で制裁するしかありません」

 高度成長期の夢や成長がみこめた時代から、バブル崩壊と転落する下り坂社会で夢や成長をみこめなくなった時代のはざ間の問題も横たわっているのだろうが、家庭のなかでもその問題が凝縮されて、蓄積しているのだろうと思わせる。


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