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07 04
2016

主体性の剥奪

よかれと思われることの皮肉な逆説――『反省させると犯罪者になります』 岡本 茂樹

4106105209反省させると犯罪者になります
(新潮新書)

岡本 茂樹
新潮社 2013-05-17

by G-Tools


 とても腑に落ちた。反省や謝罪があふれている世の中で、ぜひみなさんにも読んでほしい気づきが得られる本だと思う。

 反省や謝罪ってまずは被害や迷惑をかけた人に謝れという解決策だが、これを先にすると自分の言い分や気持ちがないがしろにされる。自分の気持ちを無視されるということは、自分の気持ちを受け入れてもらわなかった、自分を大切にできなかったということだから、同じように他者を大切にする気持ちも生まれない。

 他者を大事にするというのは、自分も大事にするという平行の関係がある。自分を大切にされて、はじめて他者も大切にできるという関係があるのである。

人は、自分がされたことを、人にして返すのです。…人を傷つける人は、自分自身が傷ついていると理解できます。自分自身が傷ついているから、自分自身を大切にできないのです。自分自身を大切にできないと、当然ながら、他者を大切にできません。自分自身を大切にできず、自分の「心の痛み」に鈍感になっているから、他者の「心の痛み」にも気づけなくなります」



 よく傷ついた人は人にやさしくなれるといわれるが、それは自分の傷ついた心を受容できたばあいだけとわかる。人からそのつらい気持ちを受容されたり、自分自身でうけいれることができたときだけ、他者の痛みにやさしくなれる。その気持ちを抑圧した場合は、自分はその痛みをないがしろにしたので、他者の痛みにも鈍感になるのである。

 反省や謝罪を先にさせるということは、その自分の痛みや自分を大切にするプロセスをぶっ飛ばしてしまうことである。つまりかれの気持ちはないがしろにされ、受け入れられなかった。どうしてこの人は、他者の痛みや大切さをわかることができるだろうか。

「反省させるだけだと、なぜ自分が問題を起こしたのかを考えることになりません。言い換えれば、反省は、自分の内面と向き合う機会(チャンス)を奪っているのです。問題を起こすに至るには、必ずその人なりの「理由」があります」



 つまり犯罪に至るような者は、幼少期に自分のわがままや身勝手な言い分、自己中心的な考え方をいちども親からうけいれられることもなく、抑圧してきたからこそ、他者を大切にできない。自分の気持ちを抑えつけてきたから、他者の気持ちもわからない。さらに反省や謝罪によって、ますます自分の気持ちや思いが受容されなくなって、もっと抑圧とストレスがのしかかる因果に襲われる。

 犯罪者にはまず反省文を書かせるより、自分の不満や言い分を、自己中心的であっても、吐き出させる。そうすることによって、はじめて被害者の存在に気づき、自分の罪の重さに気づくことができる。

 気持ちを吐き出せると、なぜか被害者のことを考えられるようになったという。なぜなら、はじめて自分の気持ち、自分の立場を大切にしたからである。自分と他人の立場は平行している。

「殺人という行為は、言いかえれば、「他者を極めて大切にできない気持ちがあるからできること」と言えます。ではなぜ他者を大切にできないのか。それは自分自身を大切にできなくなっているからです。自分を大切にできない人間は他者を大切にすることなどできません」



 自分と他人の平行関係というのは、ひじょうに腑に落ちる。他者を大切にできないのは、自分自身が大切にされてこなかったからである。自分が持っていないものを、他者に与えることはできない。犯罪者や問題行為を起こす者は、自分をちっとも大切にされてこなかったゆえに、他者も大切にできなかったのではないだろうか。

 これらの洞察は、トラウマ理論やアダルトチルドレンなどの心理学の影響を感じる。抑圧や虐待の連鎖のような、自分を抑え続けた結果の皮肉な因果をあらわしている。自分を生き生きと伸ばしたものは、他者に寛容になれ、他者にも分け与えられる。

 だが、自分が抑えられ、抑圧されつづけたものは、他者から奪い、迷惑をかけ、ときには命さえあやめる。それは、自分というものを大切にされなかったものが、他者も大切にできないという横の連鎖、バタフライ・エフェクトではないだろうか。

 世の中には、まずは謝罪や反省で問題に封をするというおこないが満ちている。被害者優先のやり方はなるほどもっともらしい。だけど、そのことによってますます自分をないがしろにされ、抑圧され、抑え込まれたものは、自分というものがわからずに、また爆発行為を起こすところまで導かれるのではないだろうか。

 常識やあたりまえに行われていることの皮肉な逆説をここでも見た気がする。人は正しいと思われていること、常識と思われていることをくりかえすことによって、今日もまただれかをもっと追いつめているのである。

 著者の岡本茂樹氏は2015年に亡くなられたようで、著作を見かけるようになったところなのに、これからの活躍や深化を期待できなくなったことが惜しく思われる。


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