HOME   >>  主体性の剥奪  >>  子どもとの接触経験がない――『完璧志向が子どもをつぶす』 原田 正文
06 30
2016

主体性の剥奪

子どもとの接触経験がない――『完璧志向が子どもをつぶす』 原田 正文

4480064451完璧志向が子どもをつぶす
(ちくま新書)

原田 正文
筑摩書房 2008-08

by G-Tools


 ふたつの子育て実態調査――1980年におこなわれた大阪レポートと、2003年におこなわれた兵庫レポートをくらべて、この二十年のうちにおこった子育ての変化をとらえた本である。

 大阪レポートは1950~1955年生まれの母親が対象であり、兵庫レポートは1970年~1975年生まれの母親がおもになっている。つまり地域社会で子育て環境があった高度成長期前に育った母親と、都会に出て働きだした世代の初代専業主婦によって育てられた母親の子育て環境の違いをうきぼりにしたということになる。

 1960年代生まれ世代以降にひきこもりが増えたといわれ、理解できない新人類があらわれたといわれ、行動成長期と地方から都会で働くようになった生活環境の激変があり、それが人格形成や子育て環境におおきく影響をあたえたと考えられている。

 子育てはだれの目にもわかるかたちになるのが思春期といわれ、「いい子」ほど思春期につまづきやすといわれている。子どもにとって親の力が圧倒的に強く、親が力づくで子どもの意志を押し込むと、「自分の意志を出すことは悪いことだ」と思ったり、恐くて自分の気持ちを表現できない子に育ってしまう。見かけ上は親の言うことを聞く「いい子」になるが、そのことによって自分になろうとする思春期に行きづまりや問題を生み出してしまう。

 この二十年の大きな変化として、子どもを生む前に幼児との接触経験や育児経験がない母親になる女性が増えたことであり、いきなり見たこともない赤ん坊と対峙することになって、とまどってしまう。地域で大人と子供が触れ合う機会もなく、大人は子どもと出会わず、幼児も知らず、子どもは母親との関係だけにおかれることが増えている。地域から子どもを育てる環境がなくなっているのである。企業社会が大人をとりあげたひずみである。

 母親にも、学校やメディアの影響で、「TVでいわれたことはそのようにしなければならない」と思い込んでいたり、学校で習ったように「答えは一つ」という絶対的な考えがあり、ほかのやり方を思いもつかないし、「ちょっといいかげんな、ほどよい加減」というものがわからない。この指摘はたいへん大きなものだと感じた。

 企業社会が大人をとりあげすぎ、地域から子育て環境が消え、大人と子どもの接触はなくなり、人類の生存環境がなくなるという大げさな危機をむかえている。そして母親とだけの子育てカプセルに閉じこめられ、煮つまる。教育やメディアは柔軟に個別的な対応を育む知恵を育てず、答えはひとつやメディアのいうことは正しいといった教条を教え、母親の不安を増幅する。ろくでもない、悲惨な子育て環境である。

 企業社会や生産に傾きすぎた社会が、子どもが生育する環境をとりあげておきながら、少子化の危機を喧伝する。生産主義的環境が、まるで殺虫剤のように生命の再生産を殺しているようだが、労働に傾斜しすぎた社会が、生命の育つ環境を殺していても危機感を感じない無神経さで、少子化の危機を叫ぶ。

 むかし子どもは働き手であり、後継ぎであり、老後の面倒を見てくれるものとしてどうしてもほしかったのである。いまでは個人的なメリットはほとんどなくなったのであり、社会や共同体が存続の必要からのぞまれるという存在に変わったのである。

 発達心理学では生涯、人間は成長してゆくという考えがあるらしく、二十代後半では、表面的言動の裏にあるものを理解する能力をつけたり、相対的な見方をそなえる時期である、と考えられているそうだ。相対的なものの見方を、わたしは本を読むことによって学んだが、これを発達段階の一段階としてとらえられるとは思わなかった。人は生涯成長してゆくもののようだ。

 日本社会は企業が社会の上に君臨・支配する企業のためのシステムに特化しすぎたのだが、そのために子育て、子どもが育つ環境が消滅・抹殺されてしまっている。人の考えも生産と効率に適した考え方だけを植えつけられる。殺虫剤のようである。企業に特化しすぎた社会の復讐をうけているように思うのだが、その是正をできなかったわれわれ自身が、生命からの復讐をうけているのだ。


雪国はなったらし風土記完璧な親なんていない!―カナダ生まれの子育てテキスト【完ぺきな親なんていない】子どもの感情・親の感情――子どもの気持ちにどうこたえてあげたらいいの?みんな「未熟な親」なんだ―グループ子育てのすすめ (健康双書)

関連記事
Comment
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top