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06 21
2016

主体性の剥奪

親を責めても止まらない――『子どもを虐待する私を誰か止めて! 』 長谷川 博一

4334785751子どもを虐待する私を誰か止めて!
(光文社知恵の森文庫)

長谷川 博一
光文社 2011-02-09

by G-Tools


 虐待が報道されるたびに虐待母への世間の非難やバッシングが巻き起こるのだが、そういう非難や禁止は、虐待を止める効果をもたないばかりか、よりいっそう母親を追いつめてしまうことがわかる本である。

 彼女たちは子どものころに親から責められつづけられて、無意識に親と同じように子どもを責めつづけ、さらにそのうえに世間から責めつづけられる。世界から罰せられるために、自分が存在するかのような人たち。

 「親子連鎖を断つ会」に参加した虐待をしてしまう母たちの生々しい告白の数々に、身が悶えるほどの衝撃と苦痛を覚える本である。トラウマになりそうな壮絶で、悲惨な話ばかり聞かされて、心が弱い人は覚悟して読まなければならない本である。天を見上げて、ため息をつきたくなるエピソードの数々。

 世代連鎖を知ることは、「虐待する親は悪い」と決めつけ、非難することで虐待が止まるという考えを改めさせる。なにより、自分でいけないことだとわかっていても、虐待をおこなって責めつづける本人に、癒しをもたらす。自分の責任だと責めつづけていた心に、自分のせいではなく、親から虐待をうけていたからだという責任の所在を教えるからである。

 「虐待を受けた人は、虐待をおこしても責任はないのか」と短絡的な疑問は、被害者を守れなかったことがのちの加害者を生んでしまっていたという世代連鎖を見逃している。

 虐待者は自己嫌悪や自責の念でいっぱいである。それでも虐待をしてしまう自分にさらに嫌悪と自責の念を抱く。さらに世間からよい親と虐待する親への非難もつけ加わって、もっと追いこむ。責めつづけられる体験が、もっと責めつづけられるブラックホールのような体験を生み出してしまう因果や皮肉。

 長谷川博一は、しつけに支配と従属の関係を読むこむのだが、愛情やしつけが、コントロールの完璧さをめざすがゆえに、関係は支配-隷属関係になってしまう。厳しいしつけ、完璧な子育てというのは、ヴィジョンや理想があるために、本人の資質や愛着の関係を見ずに、ただ支配者、虐待者の相貌を得てしまう。専制君主や暴君、虐殺王のような存在になるのである。

 子どもは理想の子どもになるのではない。支配者や暴君にかしずき、その期待に対応する従順でよい子の面をつけ、将来大人になると、その暴君のような支配者のすがたをあらわすだけである。親の支配者としての姿をしっかりと反復・模倣するだけなのである。

 ただ、わたしは虐待は貧困が生み出すのではないかと思っていたから、そういう面がまったくとりあげられたなかったのは、すこし疑問に思った。貧困に親が追いつめられて子どもにネグレクトをおこすという事件も多いように思う。この本では、ほかの背景や原因があまりにも考慮されなさすぎる。

 虐待された子供のうち、子どもの虐待した親の割合は、長谷川氏がおこなった調査によると、男子が69.4%、女子が81,1%となっている。たしかに高い。

 だけど、虐待されなかったが、子どもに虐待してしまう親の割合は、男子32.9%、女子41.7%と、けっして無視できる割合ではないのである。この人たちの事例をカットしたような世代連鎖の原因だけで、虐待をとらえてよいものだろうか。

 虐待連鎖の事例をなまなましく見ていると、友人にかけられたという言葉と同じような立場をわたしもとりそうだが、連鎖にたいしてはいえそうにもない。

「あなたまちがっていると思うよ。実の親にどんな影響を受けて育ったかなんて問題じゃないわ! 要は当の本人がどういう意識で生きていくかでしょ? 自分の人生だもの、自分の責任で生きなきゃ! 他人(親)の責任にして逃げるなんて卑怯だよ」

 ただ、連鎖の鎖がどんなに強いとしても、虐待者の自己叱責の声は、まるでアルコール中毒者の心と似ていて、自分を責めつづけるためにその行為からぎゃくに離れられないメカニズムが同じである。この自己叱責の声を消すことは、現在志向のセラピーでも可能なはずである。でも、やっぱり自己否定の声を払しょくできる強力な説得や理由付けを、世代連鎖の理論はもたらしてくれるのかな。



殺人者はいかに誕生したか: 「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く (新潮文庫)断ち切れ!虐待の世代連鎖―子どもを守り、親をも癒す児童虐待―現場からの提言 (岩波新書)親になるほど難しいことはない―「子ども虐待」の真実 (集英社文庫)消えたい: 虐待された人の生き方から知る心の幸せ (単行本)

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