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06 05
2016

主体性の剥奪

欠点や弱点の矯正という病――『母という病』 岡田 尊司

4591137775母という病 (ポプラ新書)
岡田 尊司
ポプラ社 2014-01-08

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 生きづらさや神経症の問題から読むのではなく、主体性や自発性を奪う他人というテーマでこられの毒親本を読もうとしている。人を動かすというテーマである。子育てほど、自他の境界もなく、他人が侵害する関係はないから、よけいに問題がうきぼりになる。

 基本的に母や親だけに問題があるというトラウマ系の説には否定的である。いまの考え方を修正するほうがより実効的であり、現実的であるし、終わった過去は変えられないばかりか、ネガティブな過去ばかり想起することになってしまう。また、唯物論的なパラダイムも疑問である。

 親は社会や文化的な考え方や信念によって子育てをおこなったともいえるし、経済や社会情勢的な影響もうけている。心理学的なトラウマ理論は視野狭窄的すぎる。

 それらを省き、無意識に行動パターンとして沁みついて、なぜ自分がそう行動してしまうかわからないといったものが、コアな毒親問題として解かれなければならない習性なのだろう。

 問題ある母親に共通したこととして、人の気持ちをくみとり、理解するのが苦手という点があげられている。人がなぜそう行動するのかわからないし、自分が行った行動の結果が子どもにどう出るのか、どう感じるのかわかっていない。さらに理想や義務の枠組みがあったり、自分の都合、気持ちしか考えていない親なら、子どもの気持ち、影響などハナからどうでもいいだろう。

 親は子どもの行動や言葉を直すことが仕事だと思っていたり、否定することが、子どもを育てることだという信念や行動パターンをもった人も多いようだ。否定されてばかりいる子どもが自信をもったり、自発性をもったりできるだろうか。やがて自己を否定ばかりする破壊的行動をおこすようになるのは自明の理だ。

 欠点や弱点を直すのが子育てや教育と思われていた時代もあって、それらの人も子どもの否定やネガティブ面ばかり見て、叩くことになってしまう。そのような親を内面化する子どもは、自分を否定してばかりいて、幸福や自分らしさを生きられることもできなくなるだろう。20世紀工業社会の教育観も、欠点の矯正ばかり向いていたのではないか。

 それこそ精神科医や岡田尊司も精神病理的な面ばかり見て矯正し、平均的や正常な線に戻すことをおもな業務にしていたのではないか。長所やできる面を伸ばそうというループをもっていなかったのだ。そういう悪い面ばかり見ることが、子どもをつぶし、大人になっても自己破壊から抜け出せない原因なのではないか。

 フロイトやユングはどうして病理面ばかり見たのか。子育てする親も、欠点や弱点ばかり見ていたのではないか。労働観においても自発性など問題ではなく、外発性や強制ばかりでおこなわれてきたのではないか。他者の内面や結果が存在しない他者観が、20世紀の工業社会には共通していたのではないか。

 軽んじてられていたニューソートやニューエイジといった自己啓発的流れだけが肯定面や積極性をひきだそうとして、精神医学もようやく認知療法やポジティブ心理学をとりいれるようになり、病理面や欠点だけを直す考え方から脱却しはじめたのではないか。毒親問題はそのとり残された流れに位置するものだ。

 20世紀の工業社会というのは業務の流れやルーティンは決まっていて、そこに当てはまる規格的人材が求められたという面がある。しかし創造社会とよばれる時代には、自発的な創造力が必要になる。社会の要請が、自発性や幸福な人材からつくられるものを必要とはじめたのだ。だから、ようやく強制的に内面をつぶすような子育て観、教育観も、転換を余儀なくされているのではないか。

 外側の強制的な行動が必要だった工業社会の統制理論が、子育てや教育においても子どもの内面を破壊し、主体を引き裂くという愚をおこなってきたのではないか。
 
 毒親問題というのは、工業社会の問題であり、その要請に応えるべく外側の強制力だけが人間は育てられ、破壊されてきた内面が、問題として浮上してきたのではないかと考えられる。

 心理学だけを見ていると、こういう社会全般の問題に目が向かない視野狭窄的なものになる。


愛着障害 子ども時代を引きずる人々 (光文社新書)(051)父という病 (ポプラ新書)不幸にする親 人生を奪われる子供 (講談社+α文庫)毒父家族 ―親支配からの旅立ち私は私。母は母。〜あなたを苦しめる母親から自由になる本

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