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05 17
2016

TV評

TVドラマとの読み比べ――『わたしを離さないで』 カズオ・イシグロ

4151200517わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
カズオ・イシグロ
早川書房 2008-08-22

by G-Tools


 TVドラマの『わたしを離さないで』はTVドラマ史上、かつて見たことのない傑作に思えた。これほど深刻なテーマ――生や人生が限られているというテーマをよくお茶の間に臆面もなく流したものだと思う。

 『わたしを離さないで』はドラマ史上に残る一級の名作だ

 つづけて二度見返して、テーマや人物にこめられた造形もだいぶ理解できた。原作にはもっと踏みこんだ解釈が読めるはずだと原作を読んでみた。

 どうしてもドラマの映像が頭にあって、ドラマと読み比べてしまうのだが、原作には死の恐怖、人生が限られているという不安があまり伝わってこないように感じられた。この生が限られているという不安があるからこそ、生は価値ある生を模索することに意味があるのだが。

 たんたんとしていて、抑制が効いていて、ドラマの感動的、情動的盛り上がりがほとんど欠けている。もし、原作のみ読めば、TVドラマほど感動したかと思えるほど、あっさりなにも残らず、読み終えていたかもしれない。

 まあ、わたしが小説の構想力が弱く、書かれていること以外の想像力がとぼしいためかもしれない。ドラマではほかのことを考える余地や空白はいくらでもある。しかし小説は物語を組み立てる想像力にフルに使われて、あとの余地が残らないのだ。

 ドラマでは主題並みにあつかわれていた愛するトモを美和に奪われる恭子の悲しみというものがほとんど描かれずに、たんたんと描かれていたように思われた。猶予を申し出る章になって、そのエピソードがようやく出てきた感じだ。

 ドラマではトモと恭子が贈られたアルバムを聴きながら踊るシーンがあるのだが、原作ではキャシーがひとりで踊るだけ。美和=ルースが人の喜びを奪いとる他人に憧れる現代人の象徴として描かれているように感じられなかった。トム=トモとキャシー=恭子の初恋エピソードもそう描かれていたわけではない。

 ドラマではコテージ編でセックスに溺れるブタのように描かれていたのだが、原作では性はニュートラルで寛容で、あけっぴろげであった。コテージでは詩や哲学を論じる先輩たちが描かれていた。

 陽光学苑=ヘールシャムが洗脳をほどこす不気味な学園として描かれていたわけでもなく、提供者の人権を奪取する運動をしていた真美やホワイトマンションといった存在は原作にはない。TVドラマオリジナルの創作なのである。

 なにより美和=ルースが亡くなるシーンもじつにあっけなく、さらりと流されるだけ。陽光学苑を三人で訪れたエピソードも、座礁した船を見に行く話になっていた。

 これはTVドラマの方が原作よりよほど感動して、よかったと、わたしにはいえるかもしれない。死を前にした、限られた生という不安や恐れはよほどTVドラマの方がひしひしと感じられて、原作からはあまりつたわってこなかった。先にドラマを見たという逆転があるにせよ。

 トムとキャシーは知りたがり屋で、ルースは信じたがり屋だと原作ではいわれている。ドラマではトモ=希望や夢を象徴した存在であり、美和=ルースはいじわるで人の幸福を奪いとる悪魔のような女として描かれ、恭子=キャシーはネガティブながら、トモの希望に魅かれる存在として、造形されていたように思う。

 それは限られた短い生をどうやって希望や夢をもって価値ある人生を生きるかという問いに収斂したエピソードにつながっていったと思うのだが、原作ではなかなかそこまで読みこめなかった。

 わたしにとっては原作より、TVドラマの方がよほどよかったということになりそうだ。視聴率もよくなく、評価もあまり聞くこともなくなったが、これほど魂を揺さぶられたドラマは、おそらくこれ以前にない。





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