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05 07
2016

主体性の剥奪

自主性、創造性を尊重する――『子どもの能力の見つけ方・伸ばし方』 平井 信義

4569569226子どもの能力の見つけ方・伸ばし方 (PHP文庫)
平井 信義
PHP研究所 1996-08

by G-Tools


 おそらく強制がもたらした悪影響について知りたいと思い、内発と外発のモチベーション論に当てをさぐってみたが、いまいちつまらなく、内発、自発性なら子育てということで、こういう子どもの能力の伸ばし方の本にも手を出してみた。

 自発性や創造性を子どもの最大の目標にしている本で、それには「自発性が発達するためには、いたずら、反抗、おどけ、ふざけ、友だちやきょうだいとのけんかが必要です」

 いたずらや反抗は悪いことと思う向きもあるだろうが、自発や自立のためには子どもにとって必要不可欠なものだ。親に反抗してこそ、独自の自分をつくれる。親や他人にとって「不快なもの」こそ、本人の成長をうながすものだ。

 だけど、親のいいなりやいうとおりになる子が「いい子」という信念もまかりとおっており、自分を押し殺して成長して子どもたちが問題になる。

 子育て論や教育論のおおよその概要や変遷をてんでつかんでいないので、そういう概要書をざっとながめてみたいが、この大正8年生まれの児童心理学者、平井信義という人はどういう位置づけになっているのだろうか。

 この本は1984年に出され、96年にPHP文庫入りしている。同84年に出した『「心の基地」はおかあさん 』は140万部のベストセラーとなったそうだ。このころは校内暴力や不登校が問題になっていたころだ。

 子育て論なんてそれこそ人の数ほどありそうで、混淆玉石だと思うし、自発性や創造性を伸ばそうとする著者と正反対の考え方をする人もいるのだと思う。

 教育や労働観ではそれこそ強制と命令で鋳型にはめる人間観が、いまも世の中をおおっているのではないだろうか。工業社会では強制と鋳型の労働観や人間観は必要だったかもしれないが、創造社会とよばれるこんにち、この強制的人間観がその用途を終えていることを信じたいし、第一、人間として幸福でも、自分の人生を生きられているとはとても思えない。

 「十数年前から私は「しつけ無用論」を唱えるようになりました。叱らない教育は、四十年も唱え続けてきたものです。それは、厳しいしつけや、子どもを叱ったり叩いたりすることが、親子間の情緒的な関係を破壊して、思春期以後になってさまざまな問題を起こす子どもになることがわかったからです」

 たとえば、職場の上司に強制的・恐喝的・脅迫的な人物がいたとしたら、その人のことを心から信用できるだろうか。しつけや怒るということは、こういう人物がずっと親だったということだ。さらには親や家庭はそこから逃げることは絶対に考えられない。

 90年代にアダルト・チルドレンという言葉が流行った。親や他人のいいなりになって自分の人格を抑える、つぶすような性格のことだ。中島義道がこういう「いい子・優等生的」な人格を打ち破るために、逆噴射型自己チュー主義を『カイン』によって唱えていたが、いい子は大人になってはじめて自己をとり返さなければならなかったのである。

 たとえばいまでも就活ではみな同じリクルートスーツに身を固め、優等生的な鋳型にはまった学生が求められる。日本社会はずっと人間の自主性や創造性をまったく拒んでいる。これで創造的な文化や社会は生まれるだろうか。このへんにも日本の失われた25年の原因はおおいに絡んでいるように思われる。

 子育て論というのは、いまの人間観を反映しているし、通底しているものである。この著者が推奨しているような自発性、創造性を伸ばす人物を日本社会は許容してきただろうか。

 わたしはだいたい著者の主張を全面的に肯定している。もっとも子育て論の理想なんて、どこかにほころびや失敗がかならず生まれるものだとも思っている。理想はぎゃくにウソや偽装の人間をつくる。理想はそうなれない人への抑圧を生む。

 子育て論は自分が形成されたしくみや動因を省みることでもあると思う。このような外から見た自分の形成過程を大人になって省みることは、自分を主体にした視野の外部の視点をつけ加えてくれるので、子育て論も読んでみることはぜひオススメですね。


「心の基地」はおかあさん―やる気と思いやりを育てる親子実例集 (子育てシリーズ)子どもを伸ばす親・ダメにする親―間違いだらけの教育常識 (PHP文庫)いい子に育てると犯罪者になります (新潮新書)アダルト・チルドレンと癒し―本当の自分を取りもどすカイン―自分の「弱さ」に悩むきみへ―(新潮文庫)

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