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04 13
2016

セラピー・自己啓発

「世界を変えるのではなく、自分の心を変える」転換点の時代

 ウルグアイの世界一貧しい大統領といわれたホセ・ムヒカ前大統領が来日して、話題になっている。


 自分が幸せじゃないのを他人や環境のせいにするな - ムヒカ大統領のスピーチから


 この人の考え方は、ミニマリストであり、清貧の思想であり、隠遁の思想につながるものである。物質消費社会への批判を真正面にかかげている。

 科学と物質消費の拡大と成長によって幸福になるという考え方への批判である。

 日本はながらくこの思想に疑問をいだくことなく、疑ってはならないという社会で生きてきた。こういう考え方は明らかに「宗教」として排斥されてきた考え方である。

 25年以上の長期没落、停滞のうえに、若者の消費欲や恋愛欲の低下、また非正規雇用やニートの増加により、物質消費に望みをたくす生き方の疑問が深く芽生えてきた。

 同時に「世界を変えることはできなくても、自分の考え方を変えることはできる」という思潮の流れは、社会の中にもどんどん浸透してきた。


自己啓発からはじまった?


 このような世界ではなく、自分の心を変えて幸福になるという思想は、科学ではなく、自己啓発とよばれるジャンルで山のように訴えかけられてきていた。

 自己啓発の古典とされるノーマン・ヴィンセント・ピールの『積極的考え方の力』は1952年の発売である。

 願望を潜在意識にうえつければ願いが実現すると説いたジョセフ・マーフィーの著作が発表されたのは1960年代後半から70年代初頭にかけてである。

 全世界で3000万部売れたとされるウェイン・W・ダイアーの『自分のための人生』は1976年である。

 手堅い心理学方面からのベストセラー、マーティン・セリグマンの『オプティミストはなぜ成功するのか』が発売されたのは1990年である。

 日本でプラス志向がうたわれた春山茂雄の『脳内革命』のベストセラーが発売されたのは1995年である。

 禅の教えをとりいれたリチャード・カールソンの『小さなことにくよくよするな!』が日本でベストセラーになったのは、1998年のことである。

 そして消費生活をミニマム化するミニマリストが人々の口にのぼるようになったのは2010年代になってからのことである。

 これらはすべて、「世界を変えるのではなく、心を変えることで幸福になる」考え方を説く思潮の流れである。


ヒッピー・カウンターカルチャーの源流


 この自己啓発の流れの源流にあるのは、60年代から70年代にかけてのヒッピー・ムーヴメント、カウンターカルチャーの流れが源流になっている。

 物質文明の否定や、日本の禅をとりいれた意識革命のムーヴメントが、アメリカでブームになった。

 鈴木大拙や鈴木俊隆とかといった禅者がアメリカでもてはやされた。

 オルダス・ハクスリー、ラム・ダス、ジョン・リリーといったヒーローを生み出し、その流れはニューエイジやトランスパーソナル心理学にうけつがれていった。

 ケン・ウィルバー、スタニスラフ・グロフといったトランスパーソナル心理学者、グルジェフ、クリシュナムルティ、和尚(バグワン・シュリ・ラジニーシ)といった神秘主義者の著作も紹介された。

 これらは宗教でいう悟りや変性意識状態をめざしたもので、自己啓発者の次元とは異なっている。だが、心の考え方を変えるムーヴメントの中核や中心である。


消費社会の幸福と科学


 これまでのわれわれの時代というのは、モノをたくさん買い込めば幸福になれるという科学とミックスされた一枚岩の世界観を疑ってはならない時代であった。

 これ以外の考え方をさしはさむことは、宗教だといって断罪された。

 宗教は神に服従するという政治面だけをピックアップされて批判され、心理学やセラピーとしての効用をまったく無視されて悪魔あつかいされてきた。

 物質消費社会と科学世界のスクラムでは、心の幸福を説くなんて、俗信者の説く悪魔のささやきでしかなかった。

 しかしわれわれの社会を見渡すと、じょじょに宗教思想にふくまれてもおかしくない思想は、自己啓発という軽チャーのかたちを借りて、社会の知識の中にどんどん浸透していたのである。

 世界を変えるのではなく、心の考え方を変えて幸福を手に入れるという考え方はもはや宗教領域なのだが、われわれの時代はその静かな移り変わりさえ意識されない時代のなかにいる。

 科学の世界というのは物質だけを見て、心を無視する時代である。モノを得ることが幸福の近道であった。そのために心の存在、考え方がなにをもたらすのかに目をふさいできた。それによってモノの幸福を、モノにふりまわされる心情をダイレクトに手に入れられるからだ。

 客観的世界というのは、主観や自分の心を無視する、存在をないものとする見方のことである。おかげで、われわれの心はモノのあるなしだけで幸福を測ることができる。

 そのためにわれわれは外界の奴隷となり、考え方というフィルターの存在に気づかない哀れな心の奴隷となったのである。


モノに価値をおかない時代の到来?


 心の主観の幸福が重視される時代は、唯物論から唯心論への時代の転換といえる。

 唯心論、心の幸福がますます求められる時代になってゆくのだろう。

 自己啓発や心理学といったジャンルから、深く広くその世界観は浸透しようとしている。

 モノや科学に幸福をゆだねていた時代から、ずいぶんと風変りでおかしな社会に転換してゆく過渡期にわれわれは立たされているのだろう。

 文明では物質に価値をおく時代と、質素で素朴な心の幸福に価値をおく時代は、交互にやってくるもののようだ。

 物質をたくさん貯め込んだ次の世代はもう物質の幸福に希望を見いだせない。そうして心の幸福はいっそう希求され、物質の望みは低く位置づけられてゆくことになるのだろう。

 これまでの正義と悪がひっくり返るような時代に、世代間ではまったく理解し合えない転倒した時代が、これからやってくるのかもしれない。



【新訳】積極的考え方の力マーフィー 人生は思うように変えられる―ここで無理と考えるか、考えないかで… (知的生きかた文庫)自分のための人生 (知的生きかた文庫)オプティミストはなぜ成功するか [新装版] (フェニックスシリーズ)

脳内革命―脳から出るホルモンが生き方を変える小さいことにくよくよするな!―しょせん、すべては小さなこと (サンマーク文庫)知覚の扉 (平凡社ライブラリー)ビー・ヒア・ナウ―心の扉をひらく本 (mind books)

無境界―自己成長のセラピー論深層からの回帰―意識のトランスパーソナル・パラダイム生は「私が存在し」て初めて真実となる最初で最後の自由(覚醒ブックス)

存在の詩 和尚 OSHO知価革命―工業社会が終わる 知価社会が始まる (PHP文庫)

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