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03 28
2016

主体性の剥奪

「やる気のパラドックス」――『「見せかけの勤勉」の正体』 太田 肇

4569779883「見せかけの勤勉」の正体
太田 肇
PHP研究所 2010-05-18

by G-Tools


 日本は巨大な「やる気のパラドックス」に囚われている。

 長時間労働が減らない、サービス残業が止まらない、なのに仕事に高い熱意を感じている日本人はわずか9%。世界でいちばんやる気がないのは日本人と、各種の調査結果がしめす。

 なぜこのやる気のパラドックスがおこるのかは、この本がスリリングに明かしてゆく。中古本1円と送料で読める本なので、多くの人に読んでもらいたい、気づいてほしい一冊である。

 これは仕事論や経営論にとどまるのではなく、日本全体の教育や消費の分野でも適用される日本の大きなパラドックスである。

 成果主義を求められても正確に測るモノサシをもてず、がんばっている、組織に犠牲を払っている姿、パフォーマンスに囚われて、しだいにがんばりややる気という成果や客の方に向かわないパフォーマンスに終始する。成果を阻害する方向が、日本組織の評価やめざすものになる日本の巨大な逆説。

 ラクしたり、効率よく仕事をこなすこと、頭に汗をかくことは、サボっていること、仕事を熱心にしないこと、熱意がないことと切り捨てられてゆく。資本主義の効率化という至上目的に、まっこうからは向かってゆく日本組織の愚かさ。

 これは社会主義になって守られればみんな働かなくなった社会主義圏の国々とおなじであり、孔子に抗して老荘が説いた無為自然のパターンと同じである。

 熱心であり、がんばりであり、他人思いの善意や教育が、どんどんと本人の自発性やおもしろさを奪ってゆき、やる気を奪い、しだいに魂を抜かれた状態になってゆく。

 太田氏はゼミの熱心な指導にぜんぜん生徒がついてこない経験があった。どんどんやる気がなくなっていくので、生徒の助言から生徒の自主性にまかせるプロジェクト企画にしたら、生徒の表情ややる気がみるみる変わってゆき、新聞にとりあげられるほどになった。やらされ感や強制で、生徒は死んでいたのである。

 日本は思いやりや善意の教育や指導が本人のためになると思っている。だけどそれは本人の自発性や自分ごとの感覚をどんどん奪ってゆくだけだ。日本はこのやらされ感の強制に人々がどんどん逃げるか、やる気の演技やパフォーマンスに日々勤しむかの競争にはげしく、どんどん世界のランキングから落ちてゆく。

 教育のおかげで人は学問や読書をしなくなり、マンガやお笑い、趣味が生きがいになる。仕事のやらされ感、強制のおかげで、人はニートやフリーターにひきこもったり、あるいはやる気や自己犠牲の演技に走る。上の熱意は、蜘蛛の子を蹴散らすように人々を逃走させるのである。

 社長が趣味や道楽に走ったり、師弟関係で便所掃除など無意味なことをさせるのは、下の者の自発性をひきだすためだという指摘がある。この肩の力を抜く、片手間に管理する、腹八文目までに抑えるといったことが、管理者や指導者にはできないのである。

 自由放任や放ったらかしで、怠けずに働き、自発的に人は伸びたり、向上したりするのかといった不安が、日本人には強いのだろう。あるいは自分が脇役になり、主役や活躍できない虚しさを抱えているのかもしれない。それによって、人の原動力の最大のもの、自発性を奪って人の魂を殺す。

 ただ効率的に大量生産品を市場にまわす工業時代は終わった。自発的におもしろいものを見つける能力が大切になる創造的な時代になった。それで日本は世界からどんどんとり残されてゆくというわけだ。

 「やる気のパラドックス」、この逆説は日本の巨大な問題である。気づいてさえいない人が大半なのかもしれない。

 自営業や自由業の人たちは、自分の仕事、自分の店だから、他人からいわれなくても自分でがんばる。やらされ感と対極にあるものだ。日本はこの自主性を育てないと甦らないと思うのだが、またしても、それを管理してやる気を失うのでしょうね。


世界でいちばんやる気がないのは日本人――成果主義が破壊した「ジャパン・アズ・No.1」 (講談社+α新書)人を伸ばす力―内発と自律のすすめ完璧志向が子どもをつぶす (ちくま新書)フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR)サーバントリーダーシップ

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