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03 16
2016

書評 社会学

「なんちゃってミニマリスト」――『ぼくたちに、もうモノは必要ない。 』 佐々木 典士

4847093461ぼくたちに、もうモノは必要ない。
- 断捨離からミニマリストへ -

佐々木 典士
ワニブックス 2015-06-12

by G-Tools


 ミニマリストがどの段階にいるか読んでみた。

 若者の消費離れや断捨離・片付け本ブームの流れの中で、ミニマリストはどこに向かうのか。

 16万部売れた本書は、そのへんの気分を伝えてくれるだろう。

 まあ、本書はモノとどうつき合うか、われわれはなぜモノを貯め込んできたのかという疑問を抱かせる本だと思う。

 基本的にモノをもたないことは貧乏だ、みじめだ、哀れだという価値観が絶対になっている時代に疑問を抱いたことがない。ミニマリストはそのことについての根本的な疑問と懐疑を投げつけてくれる。

 モノにたいする価値観やわれわれの態度はこんなものだったと反省と自覚をうながしてくれる傾聴にあたいするものはたくさんあったのだが、まだモノにたいする態度だけの段階であるようである。

 ミニマリズムは手段であり、序章であると告げているように、その先のいちばん大事なものが抜け落ちている。

 ヒッピーカルチャーやニューエイジの歴史はほぼ視野にないようだし、それこそ日本の伝統であった持たない文化、脱俗の仏教僧の歴史がまったく削げ落ちている。

 ミニマリストはぜんぜん新しいものではなくて、古くて伝統的なものに戻ってゆくということに言及すらない。ディオゲネスやヘンリーソローは知っているようだが。

 堺屋太一が85年に予測していたのだが、知識・情報社会とよばれる未来の社会は、物質に価値をおかず、ひたすら精神や知識に価値をおく中世のような社会に戻ってゆくといったパースペクティブの線上で、ミニマリストは理解されるべきなのである。

 そういった意味で、著者は小池龍之介にふれて瞑想をはじめたといっているように、その先の精神革命の要素をまるでもっていない。ただ物質消費からのさよならを告げているだけである。

 本の巻頭にはまるでファッション雑誌のようなモノをおかない部屋の写真が載せられている。インテリア・ファッションのひとつにすぎないと宣言しているかのようだ。いや、めざすところはそこじゃないでしょ?の世界である。

 ということでこの本は、「なんちゃってミニマリスト」の称号を与えられても仕方がない。

 その先の本題というのは、持たない精神世界の「むかし」「伝統」に戻ることにほかならない。

 近代の物質文化消費の歴史がひと息をついて、西欧・日本が物質に魅了・導入された時代は終焉をむかえ、しばらくは文明の停滞期・後退期に入るということではないだろうか。

 もう物質文明の「重荷」を背負うことに魅力が減じ、精神や知識に価値をおかれるインド精神社会のような道を歩もうとしているのではないだろうか。

 物質の価値をおく基準からすれば、貧しく、なにもなく、哀れで悲惨で、暗黒な社会である。しかし精神や知識の面においては、頂点をめざす精神が花開いていた時代。日本は物質文明に飽きて、そういった時代に戻ってゆくのかもしれない。

 ミニマリストはそういった時代の曲がり角のふしめをつくりだす存在になるだろうか。それともたんにインテリア・ファッションのひとつとして物質消費のブームをつくりだすに終わるか。

 カウンターカルチャーやニューエイジの歴史、日本の仏教僧の歴史をもういちど勉強し直しましょう。なんで過去の歴史がぶっちりと千切れているのか。



 ■ミニマリストの古典本10冊を紹介します。持たない生き方なんてぜんぜん新しくない

知価革命―工業社会が終わる 知価社会が始まる (PHP文庫)日本の隠遁者たち (ちくま新書)清貧の思想 (文春文庫)素朴と無垢の精神史―ヨーロッパの心を求めて (講談社現代新書)ニューエイジの歴史と現在―地上の楽園を求めて (角川選書)宗教的経験の諸相 上 (岩波文庫 青 640-2)

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