HOME   >>  書評 心理学  >>  狂気と理性の同居がふしぎ――『ボクには世界がこう見えていた』 小林和彦
02 03
2016

書評 心理学

狂気と理性の同居がふしぎ――『ボクには世界がこう見えていた』 小林和彦

4101354413ボクには世界がこう見えていた
―統合失調症闘病記 (新潮文庫)

小林 和彦
新潮社 2011-10-28

by G-Tools


 ネットで集団ストーカーというものを大マジメに信じている人がいたり、ASKAのブログにもそのようなことが書かれていて、統合失調症とはどのようなものかと読んでみた。

 統合失調症を発症した個人の内面をつづった記録であり、あまり個人的な来歴あたりは関心はないのだけど、ほかの統合失調症に関する本も見あたらないこともあって、この本を読んだ。自分の来歴に異常にこだわり、他人はそんなことに興味がないのだという感覚がわからなこと自体、素地があるのかと思える。

 統合失調症というのは、なんでもかんでも自分に結びつけることが特徴で、みんなが自分を監視しているとか殺そうとしていると思ったりする、統合が拡大した状態だといえる。なぜ「失調症」という名称にして、「増大症」とかにしなかったのか謎だ。

 この自分を監視したり殺そうとしているという被害妄想の逆が、自分を神や崇高な存在に結びつける誇大視で、ときの総理大臣はこの著者の身近な存在になり、皇太子だって妹と結婚すべきだとかの言動になる。世界はすべて自分に統合されるのである。

 統合失調症のふしぎなところは脈絡のない思考や言動をおこなう一方、理知的で理性的な知性ものこっており、著者はコリン・ウィルソンやジョン・C・リリー、シュタイナー、大川隆法などの著作も読んでいる。意識の拡大という神秘的思想には興味をひかれて、統合失調症や精神分裂病の病識の本を読まないのである。

 集団ストーカーを記述する人もきわめて精緻にその現象を記述するのだが、その認識自体がおかしいという客観的疑惑が抜け落ちてしまうのである。理性ははたらいていて、一方ではまったくはたらいていないという不釣り合いなことがおこるのが、この病気の最大のふしぎである。

 思考や妄想が暴走することは恐ろしく、もし自分がそうなったら制御できないかもという恐れがあるのか、やっぱりこういう本はどこかでタガが外れてしまわないかという恐れをもよおしてしまう。精神の弱い人、人に影響を受けやすい人は読まないほうがいいのでしょうね。

 この人の発症は、多幸感や自分には大きな使命が課せられているという誇大妄想からはじまり、世界から殺されそうに思う発症をへて、テレパシーや交信でつながるという幻覚を見ることに至る。

 すれ違う人みなに「殺さないでください、殺さないでください」と頼みまわり、喫茶店の洗い場に侵入して迫害される世界から逃れようとして警察に通報され、シャワーにカメラがしかけられていると思い、ホースをひきちぎり、盗聴器を部屋でさがしまわる。

 すれ違う車は自分をひき殺そうとしているように思われ、飛行機の席でとつぜん「生方チューチュードぶねずみー」と叫び、小屋の中に盗聴、盗撮しているグループがいると思い、窓ガラスをたたき割り、はじめて会う精神科医に「あだち充さんですか」と尋ねる。この発狂した様を自分で正確に記述するのが違和感あるふしぎでならない。

 いくども治り、おちついたように思えても、また精神病院に入院を余儀なくされるのが残念に思える。すごく理知的で理性的な語り口ものこしておきながら、どこかで異常思考や言動がたかぶり、異常行動に出てしまうのである。

 この人の主観から見える世界が記述されるのだが、まわりの人はどう思ったのか、どのように迷惑だったのかの感想がない分、不気味さをいっそう増す。

 現代思想や心理学を読んできたわたしとしてはとうぜん人間の精神の謎である精神分裂病の記述はいくらかふれてきたのだが、あまり深くこの病について追求してきたことはなかった。なぜそうなるのか、どうしたら治るのかそういったことをもうすこし読んでみたいと思う。でも近づきすぎたら、片足をふみはずしてしまうのではないかという恐れもないわけではない。



わが家の母はビョーキです統合失調症―精神分裂病を解く (ちくま新書)集団ストーカー―盗聴発見業者が見た真実 (晋遊舎ブラック新書 001)分裂病の現象学 (ちくま学芸文庫)自明性の喪失―分裂病の現象学

精神分裂病―分裂性性格者及び精神分裂病者の精神病理学ひき裂かれた自己―分裂病と分裂病質の実存的研究分裂病の少女の手記―心理療法による分裂病の回復過程新版 分裂病と人類 (UPコレクション)パラダイム・ブック


関連記事
Comment

うえしんさん、今晩は。
ちょっと古い本ですが、宮本忠雄の『精神分裂病の世界』は、宗教・歴史・文学などの例をあげてこの病について、考察していて、概観するのにいいですよ。
既読でしたら、あしからず。
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top