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01 04
2016

書評 社会学

バブル的恋愛主義の終焉――『ユーミンの罪』 酒井順子

4062882337ユーミンの罪 (講談社現代新書)
酒井 順子
講談社 2013-11-15

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 メジャーな曲はもちろん知っているが、アルバムは一枚も聴いていないユーミンとはどういう歌を歌い、なにがよかったのかという疑問があったから、こういう本を書いてくれた酒井順子にはとても感謝の気持ちがある。

 わたしにとってはオリジナル・アルバムをほぼ全部聴いた浜田省吾には相当・対比する人物ということができるかな。

 J-POPやアーティストについての評論が意外に出ていなくて、あれはなんだったのかという言葉で読むこと、解釈する本はもっと出てほしいと思う。

 いまは恋愛至上主義や恋愛トレンディドラマ、それらをけん引していたフジテレビはずいぶん凋落した。ユーミンも凋落がはげしいのだろうね。

 ユーミンってバブル的ななにか、バブル的な恋愛主義を引き上げた立役者だったのだろうね。

「この頃から日本の若い女性が、「○○をしている男の彼女としての私」という自意識を強く持ち始めた。…スキーやサーフィンをしている彼が好きというより、スキーやサーフィンをしている彼を持つ自分が好き、という感覚です」

「この時代、女は男を「見て」いました。助手席から、浜から、ロッヂから、そして別れた後はかんらん車から。…「この男は、私に価値を与えてくれるのか」と女達は見定めていたのであり、彼女たちのそんな男性を通して深める自己愛が、この先もどんどん肥大していくことを予感させるのでした」

「自分でどうあるかよりも、「自分の男」がどうあるかによって女性の地位が決まる世界は、女子大生の中にも確実に存在したのです」

「元彼よりも、さらに「上」の彼を得ることが、元彼への復讐であると、この時代の女性たちは思っていました」



 これらを読んでいると、スペックの高い男を得ることによる自分の価値の上昇や競争をおこなっていたのだというバブル的な価値が浮き彫りにされるね。

 バブル的な純愛ブームとうたわれた中でおこなわれていたのは、高級スペックの男の奪還競争であり、そのことによる自分の価値の増大であり、そういう価値観の競争だったことがわかるね。

 男側からすれば、それは自分が商品のように競われて品定めされることで、とうぜん男は退却するね。それがアニメオタクへの二次元的退却であり、さっこんは若者の草食化や恋愛離れ、セックス離れといわれる傾向に結びついたのだろうね。

 対比としては、そのへんを本田透の『萌えない男』や『電波男』、または岸田秀の『性的唯幻論序説』が浮き彫りにしているね。男はこういう搾取構造からすっかり退却して、恋愛や結婚をあきらめてしまった。この不毛の大地になにが咲くのだろう。


 あとがきにすっかりまとめられているが、ユーミンはこういった女性の欲望の肯定であったということだね。

 「ユーミンが我々にしてくれたことは、すなわち「肯定」です。もっとモテたい、もっとお洒落したい、もっと幸せになりたい……という「もっともっと」の渇望を、そして嫉妬や怨恨、復讐に嘘といった黒い感情をも、ユーミンは自己肯定してくれました」

 これこそが、「ユーミンの罪」だったと酒井順子はいうわけですね。

 わたしたちは、とくに男はバブル期にいたって、強烈に疲れた。馬車馬に駆り立てる女のけん引に、急にシニカルに、ペシミスティックになってしまったのではないか。岸田秀はこの構造を資本主義の構造に求めるのだが、すっかりそのメカニズムの罠にはまることに拒否反応をしめすようになったのかもね。

 恋愛だ、恋だ、純愛だといっていたら、女による高スペック競争を仕掛けられているだけだ、男たちはニンジンを吊るされた馬だったんだと気づく。男はすっかり興ざめして、ニートやフリーターでいいと人生を降りようとする。アニメの二次元萌えにすっかり退却する。

 この焼け野原に、この不毛の大地に、なにをめざせばいいのか、なにがあるのか、ということが見えなくなって、日本経済はもうすっかり復興することがなくなったのだろうね。

 ユーミンはバブル経済の興隆エネルギーであり、けん引要因であり、バブル的価値観とはなんだったのかとさし示すカラクリをはっきりあらわしてくれるメルクマークなんだろうね。

 女性側の功利主義や利己主義が増大してしまうと、男のスペック競争になってしまい、男はやる気をなくす、恋愛やセックスすらやる気をなくしてしまうという去勢状態に退却してしまったのかもしれないね。

 いったいこの焼け野原の後になにが残るのだろうね。


 恋愛とか結婚は理想化できる甘い幻想に思えるかもしれないが、その果てにあるものは市場競争や市場経済でしかなかった、そんな幻滅感が焼け野原に残っているだけかもしれないね。恋愛幻想は市場競争をもたらしただけだった。幻滅の爆発穴は大きくて深いものかもね。


 こういう分析と関係なく、ユーミンの曲は美しく、うっとりした気分に、陶酔した気分にさせてくれるものだ。だけど、そういう甘い陶酔をゆるしてくれない状態が、現今の草食化・恋愛離れとして残ってしまったのは事実である。


▼ユーミンは毒舌で性格が悪いようだね。天は二物をあたえず。
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